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星屑の街  作者: fuki
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存在認識され辛いトラベラー女の話13

生きているマリオネット。そう言われたけど、わたしはぐっと黙った。ふつりふつりと湧き上がる熱を抱きしめて宥めて押し込む。(出てくるな)


生きてることに、変わりない。ほら、だって心臓が動いている。(空虚な中身に目を向けず)わたしは、限にこうして息をしている。理由なぞ尋ねてなんになる。理由を尋ねたって、なんの意味もなさない。わたしはそれを理解した。



生きるためなら理由が分からなくともわたしは何でもしてこれた。だから、今こうしてわたしは生きているのだ。


誰もわたしに答えてはくれなかった。誰も応えてもくれなかった。ここに来た理由も、いる意味も、認識されない疑問も、餓えに苦しまなければならなかったことも、あの、深い森で死に恐怖したことも。…日本に帰る術も、誰も答えてはくれなかった。


道行く人は誰もわたしをみようともせず、わたしを引っ張り上げた赤い人は理由を聞かせようともせず盗ませ壊させ殺させ、その手で肉を断ち骨を折り髪を切り頬を張り首を咬み、その手で締め、嗤った。


理由を聞きたくとも聞くことが怖くなった世界の端っこで足掻く小さなわたし。生きるか死ぬか。常にこの考えに立てば理由なんていらないことに気がついて。生きるためならなんだってする、そこに理由なんていらないのだから。



「お前は気にならねえのか、自分を取り巻く現状を。言っとくけどな聞くことは別に悪いことじゃねえし、俺も可能な限りは答えようと思ってんだ」


こうやって思考を巡らせ湧き上がる熱を感じることすら必要ないことなのに。カンカンカンカンと天井から響く音が耳に届く。橙の人と桃の人の合図。だけど届かぬのだろうか、白い人はそのまま続けた。


「断っとくが俺はあいつみたいなお人好しじゃねえんだ」


近づく気配に視線を、そらしたくなって。虎のようにぎらぎらと鋭い光を湛えてるくせ真っ直ぐわたしを絡め取る瞳。少し、低い声。嫌な予感。震える睫毛と口中に溢れる酸っぱい唾液。ココアのカップを掴む手は相変わらずで。(嫌だ、いやだ)


突きつける。白い人は、今からわたしが見たくなかったものを。砕ける硝子。柔らかい綿に包み込んだまま暴きたくなかったこと。有耶無耶のままにしないと、わたしはわたしでいられなくなる。


カンカンカンカン、カンカン。怖くないです。怖くないですよ。僕がいます。世界は、怖くないです。だから、泣かないで。



やめて


「急にお前が触らなくとも認識されるようになった理由を知りてえとは思わねえか」


それは、引金の言葉だ。


「通じなかった言葉がなんで通じるようになったか知りたくないのか」


…やめ、て


「気づいてんだろ」


「やめて、やめてよ」


移ろいやすい歳月はひそかに流れ、いつのまにかわたしを欺いて。思い出したくない。わたしを構成していたそれらを。わたしがずっと昔に捨てたそれらを。だって、だって。


水の中から陸へあげられ酸素を求めてのたうつ魚のように。喘ぐように日本語で、呟いたはずの制止の言葉。からからの喉で紡ぐそれは酷く耳障りな言葉の音となって。毛布の合わせをぎゅっと握った掌に汗が染みる。ひくつく喉。瞼が熱くて。上手く息ができないわたしに。白い人は引き金を、ひいた。





「いい加減、俺を『視ろ』よ」





制止の言葉をふりきって。ぱあん、と撃たれた言葉はわたしの心臓を寸分狂わず撃ち抜いて。



わたしを『視て』欲しいと思っていたくせ、本当はわたしこそ彼らを『視て』なかった事実を、突きつけられて。





(最低なひとりぼっちに成り下がってたことに気づいた)





いつかの日、遠く褪せた日の記憶。



あなたがいなければ!私達は、幸せでいられたのにっ。


そう言って、物言わぬものになっていったそれら。この世界に「在る筈のない」わたし。わたしがここにいることで、誰かの幸せな未来を奪ってしまうことが。怖くて、怖くてこわくて。



それなら、怖いと思う感情すら捨てて空っぽになれば、命を背負う義務からも罪悪感からも、逃れれると思って。



触らない限り認識されないように。触らない限り言葉が理解できないように。餓えを与え、痛みを与え、罪を与え、わたしが自ら輪の外へ出ることを待っていた残酷な異世界。異世界はわたしを拒絶し、わたしも異世界を拒絶した。



始まりの森。月の光も届きにくい光る植物が蔓延る深い、森。月が、綺麗ですね。見えない風がふいに届けた音に耳を澄まして。


あんなにも見えていた世界だったのに。わたしの視界は濁って、色をなくした。






沈む沈む。真っ暗な海に。沈みゆくわたしに浮かんで行く気泡。


暗い海の中、鼓膜に入り込んだ水が唸る。まるで野生の獣のように。警戒の色を深めて。外は、こわくないです。黒い人の、声。



「ほんとに知らない人たちがあんた達を探しに来たわよ。知らないわって答えておいたけど」


「ていっても、何日間か監視されてたぽいし相当ねちっこいっすよありゃ」


「まあもういいだろ。国境を越えたって思ってくれてりゃそれでいいんだからな」



地下室から出て橙の人が手を伸ばしてわたしたちを引き上げる。久しぶりに出た外で、感じた空気が、違っていて。太陽が沈みかけてるそんな時分、薄く伸びた紫色の雲に太陽が沈んだ。




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