存在認識され辛いトラベラー女の話7
大きな部屋で赤い人がわたしの首に手を回して言った。きゅう、と喉が圧迫されて、変な音が出た。
おめえは組み込まれもしなかったんだ。
悲しいか、と問う冷たい吐息に黙ると、呼吸困難で痙攣するわたしの体を腕に閉じ込めて嗤った。
ンなに弱っちい奴がよォ
首筋に、熱い舌が蠢いて。
俺に捨てられたらどうなんだろなァ
輝く植物、永遠に咲いては枯れる花、布を羽織る虫、四つの翼がある鳥、一つの角を持つ動物、渦巻きの果物、空を泳ぐ魚
生きる術もなく、ただ殺し、痛みに苦しみ、罪悪感に苛まれ、飢餓に地面を這いつくばった。
「視え」ないわたし
外は怖い。
わたしがいなくとも、回っていくのだから。
窓のない部屋の扉がひとつ、しまった。
✳︎
飽きない限りは捨てねえよ
赤い人は言った。
どうすれば、飽きないのか聞いた。赤い人は面倒くさそうに大欠伸をもらした。
さてなァ
答えはなかった。
ふと、飾られた花を見て、黒い人に会いたいと思った。
✳︎
赤い人に連れられて、ホームというところに来た。
木製の重厚な大門扉をくぐると、
吹き抜けのホールにぐるりと回る螺旋階段。螺旋階段を起点として毎階にいくつもの扉がある。対象的に作られているそれは、どこか厳格さを滲み出しているように思った。
木製のカウンターにいた人がガタンと椅子から立ち上がる。赤い人となにかを喋る。耳を済ませてもなにを言っているか、わからなかった。
怪訝な表情を浮かべてきょろきょろと周りを見渡したカウンターの人に赤い人が嗤った。ただ呆然とわたしのことを、話しているのだと思った。