星屑の街、案内人との出逢い
星屑の街、案内人が参りますので暫くお待ちください。
瞳を開けるとそこは、仄暗かった。
私は大きな光輝く大きな川の上に佇んでいた。
果てしなく空が遠く信じられないほど川が近い。
黄の光、赤の光、緑の光が気儘に混ざり合ってシャボン玉のように滑らかに溶け合っては色鮮やかに尾を引いて光芒を描いていき、光輝な川の中、金の魚が悠然と水紋を揺らし私の足下を抜けていった。
どこまでも深い深い光の淵。
闇は底なく、光も底ない。ただそこに広がるだけだ。深淵なる光と闇。
「・・・ああ、」
遠くに見えるのはなんだろうか。光の雫がぽつぽつと落ちて、私は天を見上げた。魚を誘う篝火。精霊に備える灯火。光雨。
どこかで音色が聞こえる。
嗤う匂う泣く蔑む瞑る笑む啜る嬉し惑う祈る包む怒り紡ぐ啼く誇し唄う叫ぶ快くひたひたひたひたと。
見上げたさきの暗闇のなか捻れた朱い月に鳳凰が嗤った。ガラクタばかりの宝箱が如く不思議な世界。チクタクと時計を持った兎が忙しそうに横切って、足下を泳ぐ蛙がぷくぷくと泡を吐き出した。いまだにふる雫の向こう。歪んだ浮船に降り立った三叉鴉が光を啜り、黒猫がはんなりと舞う蝶を追って光の川を駆けた。
ふりつづく光の雫がぽつぽつぼつり。魚を誘う篝火。精霊に備える灯火。光雨。嗤う匂う泣く蔑む瞑る笑む啜る嬉し惑う祈る。光に攫われてしまうと魂が点滅する。包む怒り紡ぐ啼く誇し唄う叫ぶ快く。赤黄青光金の魚朱い月鳳凰時計兎蛙三叉鴉黒猫蝶光光雫雨が歪み捻れて聞こえるのはもはや、ひたひたひたひたひたひた。
「星露にあたるのは良くないよ」
――降り注ぐ光のまにまに。玉響に、音が絶えて。翳されたのは鳶色の一つの古びた番傘。和紙を滑って雫が瞳を見開いた私を避けて垂落する。ざわついた聞き苦しい音たちはすっと消えて。柔らかな音が耳朶を震わせた。
美しく見えてもそれは全ての終わり、絶えた望み、諦めの雫。
ここは、そんなモノの辿り着く終着点。ごみのように打ち捨てられたモノがただ鈍く光る星屑の街。星屑たちは、呑み込むのを待っている。
ここで独り光の渦に呑み込まれるのを永遠と待つか、それか今ここで俺に捕らわれるか。
「それでも構わないのなら、着いておいで」
そっと差し出された掌に重ねるために伸ばした手が、大きな掌に触れて。私はその温もりに鮮やかに攫われた。
(意識がなくなる瞬間、ぱりんとひび割れる音がした。)
案内人、星屑の街より一人ご案内。これより短し様々な世界へとお連れ致します。