不条理な世界へ
み、短い…!お待たせしました!それなのにこの短さ!卑屈になりそうです☆
───施設で俺は志紀から手当てを受けていた。
志紀が脱脂綿の上をゆっくりとなぞる。
「痕、残るかもな」
「……うん」
ちらりと志紀を見ると、いつものような仏頂面に戻っていた。
感情の読めない、仮面。
怒ってるのかな?
「あ、あのさ志紀」
「ん?」
「……ごめん。本当は俺達の為に官吏になってくれるって…わかってたんだ。だけど…今まで俺と志紀はいつも一緒だったから…だから背主になれば、またずっと一緒にいられるって…思って…」
「………」
無言で俺を見つめている。少し、肩身の狭さがきつくなる。泣きたくなってきた。
「…ごめん…。寂しかったんだ…。甘かった…。そんなんでついていける世界じゃないのに…」
俯くと涙がこぼれそうになった。
少し前、志紀に八つ当たりした自分が恥ずかしい。
唇を噛んだ。
よくもあんなことが言えたものだ。下手をしたら足を引っ張ってしまうかもしれないのに。───けれどそれより、志紀に見放されるのが怖かった。
呆れられたくない。
───と頭に手がのった。
驚いて顔を上げると志紀がぎこちなく笑っていた。
「…いいよ…、俺だって…言葉が足りなかったし…」
「…志紀…」
「俺はお前が背主でもやっていけるとは、思う。だけど、俺とお前がここを離れたら一体誰がここの奴らを守るんだ?」
あ…そうか。
「俺は、和貴なら皆を守れると思ってる。……俺は外から世界を変える。だから、お前には中から変えてほしい」
未来を絶望するのではなく、明るい希望を。「持ちたい」ではなく、「持つ」へ。そうしてもいいのだと、中と外から意識を変える。
なんと乱暴な方法か。はさみ打ちだな。とても、志紀らしい。
知らず知らず笑みが浮かぶ。
「うん、わかった」
「……頼む」
「志紀は言葉足らずだな。いきなり駄目だって言ったら混乱するに決まってる。あれ、俺悪くない気がしてきた」
志紀が傍目には気づかないだろうが、少しブスッとした顔になった。
「今までは通じてた」
「今まではね。でも志紀、外へ行ったらもう、それは通じないんだよ。少し練習していかないとね」
拗ねたようにそっぽを向く。
「志紀、頑張ろうな」
ちらりと俺を見て微笑んだ。
「あぁ」
俺と綾が受ける試験は昇試→会試→殿試の順に行われる。
あれから10日後、昇試を受けた俺達は余裕で通過しさらに1ヶ月後の会試に備えることになった。
ただ、平民になったから今すぐに最下層から出なければいけない。
「………志紀ぃぃ」
施設にいた子供達がぐずりながら周りに群がってきた。
「……次会うまで、死ぬなよ」
「うん…」
少ない荷物を担いでじいさんの方を向く。
ボロボロな古い紙片を差し出してきた。
「一応私の住んでいた家だ。よかったらここで暮らしなさい」
「どうも」
「志紀、頑張れ」
和貴がクシャリとした笑みのまま言った。
「……あぁ」
歩き出そうとしてふと立ち止まる。
和貴が訝しげに眉をひそめた。
「ありがとな」
ちょっと笑って歩き出す。
戸の傍にもたれていた綾が隣に立った。
多分、これから先、俺が感謝の気持ちを抱くのは和貴だけだろう。
冷え切っていたものをゆっくり溶かしていった。
あの明るさと人懐っこさに幾度助けられたろう。
ふわりと風が吹く。
第2層への門を一歩跨いだ。
この章はこれにて終了!次回から第2層の章、スタートです!(どの層も関係なく出てくるけどね!)