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やっとフードが出ました…!!遅いよ!!
さぁ、急いで背主を捜さなきゃならない。
施設から出た俺は別の施設に向かって日陰の道を歩いていた。
倉庫ほどの高さの建物が続けている。
ジメジメしている上に腐臭がつーんと鼻をつく。もう慣れたから何も感じないが。
歩きながら深く考え込む。
信用できて試験も受かるほど勉強もしっかりできた奴…。
奥歯を噛み締める。
そんな奴、ここにはいない。
今から勉強させるには時間がなさすぎるし…。どうする。
「あ、君、志紀?」
突然声が聞こえて振り返った。
後ろの道には───誰もいなかった。
「誰だ。姿を見せろ」
突然暗かった足元がさらに陰る。
────と建物の屋根から急に人が降ってきた。
「志紀なわけ?」
「……誰だ」
黒いパーカーのフードを目深く被り鼻の頭から下しか見えない。
「俺は綾。会うのは初めてかな」
「どうして俺を知ってる?」
綾という少年が何か含んだように笑った。
「ここであんたを知らない方がおかしいよ。君、有名人だから」
綾がわざとらしく肩を竦める。
「…目的は?」
最下層で見知らぬ奴が話しかけてくる時は、何か目的がある時だ。
金か、はたまた、俺の命か。
平民に雇われた奴だろうか。
見たところ、そんなに力があるようには見えない。速さがあるのか。
何にせよ、用心するに越したことはない。
「何を企んでる」
「企んでるって。人聞きの悪い」
その言葉を流して眉を顰める。
俺の顔を見て溜め息をついた。
「さっきみたいに笑ってくれないかな」
「…見てたのか」
「まぁね」
綾が人当たりのいい笑顔を向けてくる。
嘘っぽい笑顔だ。
「あぁ、そう。君、昇試受けるんだって?まさかこんなラッキーがあるとはね」
「…それで?」
警戒しながら気付かれないように後ずさる。
「取引しようじゃないか、志紀」
それみたことか、と心の中で思った。
また一歩下がる。
ヤバいことならすぐに逃げ出せるように───。
「取引?」
「そう」
綾が再び笑い────気に間合いを詰めてきた。
思わずのけぞる。
「───俺を背主にしてくれ。俺も君を背主にする。大丈夫、俺今まで勉強してきたし、そこらへんは心配ご無用さ」
背主という言葉に眉を顰める。
「どうやらあんたには背主いないみたいだし。あんたにとっても好都合だと思うけど?」
確かに、そうだ。
こっちも急に出てきた希望に驚きながらも、喉から手が出るほど欲しいと思った。
けれど、本当に信用して大丈夫か?
もしかしたら平民が金を払ってこいつに俺が昇試を受けるのを邪魔させようとしていることは?
有り得ないことはない。────むしろ、大有りだ。
「おいおい、変な勘ぐりはよしてほしいね。するだけ無駄だし。怪しい者じゃないよ?金ももらってないし」
綾がげんなりしたように肩を落とす。
「何故、昇試を受ける?」
俺の問いにふと綾が一瞬固まった。
短く息を吐き出す。
「……俺はね、こんなところからさっさと抜け出したいんだよ。金をたくさんもらって、明日の自分の生死に怯えなくても済む場所へ行きたいんだ。登りつめて、最高にうまい飯を、腹一杯に食べてみたい」
その言葉には生々しいまでの欲望が滲み出ていた。
それは、最下層の者なら誰しもが持つ願い。
けれど、俺は「登りつめる」という言葉に眉を上げた。
駄目だ。こいつと一緒だと、俺の道をいずれ邪魔する。
「残念だが別の奴に───」
「そこは秘書でも構わない」
言い掛けていた言葉を止めて綾を見る。
「君、皇帝目指してるんだってな。その秘書、側近ならかなり高額な給料が貰えるんじゃないの」
「お前…」
俺の顔を見て綾がクスリと笑った。
「お互い、その夢のために協力しようじゃないか、志紀。君が背主になってくれれば後は実績を積めば昇格できるし、そうすれば君の企み事に手勢として入るよ。協力する。どうだ?」
悪い考えじゃない。
協力者がいるのはかなり助かる。
しばらく考えた末、俺は差し出された綾の手を取った。
綾君は書いていてとても楽しいです!