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王冠の椅子  作者: 緋絽
第2層
24/24

本質

どうもお久しぶりです! 新作書き始めましたので、そちらもどうぞよろしくお願いします!




施設を出ると綾が屋根から飛び降りてきた。何もなかったかのように装って、普段通りに笑っている。

「綾」

不意に、綾が何を考えているかすべてを知りたいと感じた。浅ましく、強烈なまでに。

風に吹かれてはためくフードがゆっくりとこちらを向いた。

「何?」

「お前……繋がりを得たいとは、思わないのか」

明るくおちゃらけた性格のくせに、こいつは最初会った時から一人だった。―――それは、今もなお。いったい何があったのだろう。

自ら繋がりを得ようとするわけでもない。孤独を進んで選んでいるのだ。

だからこそ、知りたい。

「なんで、知りたいわけ?」

「別に……お前のことを、多く理解しておきたいと思っただけだ」

「ふーん?」

綾の目が眇められる。鋭く、射貫くような眼差しだ。

深く底光りした目に見つめられ、思わず怯む。

フフッ。

綾の軽やかな笑い声が耳朶を揺らした。フードから覗く唇が僅かにめくれる。

年に合わぬ、酷く大人びた笑みだった。

嫌いだと思った。

何もかもを見通したような、射すような目も、大人びた笑みも。すべて、自分の知らない顔は嫌いだ。

「傲慢だね、志紀。まるで、すべてが手に入ると思い込んだ王子様だ」

「……は?」

俺の怪訝な顔に綾がまた唇だけをめくって笑う。

「考えてることが、知りたいって?」

無言で肯定の意を示すと、綾がふと笑みを消した。

「無理だよ。知ることは容易いけど」

綾はいつの間にか目の前に立っていた。

知らず、唇を噛んでいた。

俺は何も知らない。

飢餓の恐ろしさも、人間の愚かさも、脆さも知っている。これは、今までずっと、最も傍らにあったものだ。

でも、中身はどうだ。人間の中身など、知らない。

上の層に全てを等しいと考えている者がいるだなんて、知らなかった。想像すらつかなかった。―――無知故に。

どうせ全て同じだと、知ろうともせずにいたじゃないか。

強く指を握り込む。

ふと、綾の手のひらが俺の頬を包んだ。

「志紀は、馬鹿じゃないんだな」

柔らかい声音に綾を見ると、同じような柔らかな目で俺を見つめていた。

「え?」

「自分の間違いに気づくのが早いし、認めることもできる。そういうところは大好きだよ」

いつも通りに笑って、綾は俺の肩に腕を回す。

気を抜いていたため、思わずよろめいた。

「何す……」

「よっし帰ろう! 今日の当番は志紀だよ!」

「わかってる」

俺の返事に綾が汗を浮かべる。

「なんだろ、そのやけに自信満々な返事。なっ、なんか心配だなぁ」

「大丈夫だ。ちゃんとやれる」

調理なんて、まず材料がなかったから最下層ではしたことなかったが、レシピなるものがあるから少しはやれる。それに、不味かろうが臭かろうが、何にせよ、腹に入れば同じだ。

俺の考えが想像できたのか、綾が顔をしかめる。

「うわっ、絶対無理。無理無理無理」

「できる」

「嘘だ、不可能だね!」

腕を外して俺から離れるとニヤリと笑った。

「仕方ないから手伝ってあげるよ。食えるものが食べたいからね」

機嫌良さげに歩き出した綾の背を見る。

一つ知ったことがある。

綾は、ただ明るいだけじゃない。その裏に、黒光りする猛々たけだけしさを併せ持っている。


笑顔に、騙されるな。


隠し持っているものを、よく見分けなければならない。

凪いだ風が二人の間を吹き抜けていった。



次話から新章!

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