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王冠の椅子  作者: 緋絽
第2層
23/24

越えない一線

今回は早めに更新できたのではないかなと!




「志紀」

呼ばれて伏せていた視線を上げると、綾が大量の荷物を抱えて立っていた。

「ほら、買ってきた。俺は五万分の衣類とか、救急セットとか買っといたから。二人で十万分だから結構あるよ」

米の袋を持ち直しながら綾が話す。

俺は米と他の袋を綾から奪った。

「わっ、何」

「そっち持て」

「おぉ助かるよ。正直手が痛くなってたんだよね」

荷物を肩に担いで歩くと綾が鼻歌を歌いながら後ろをついてきた。



門につくと衛兵に声をかける。

「開けろ」

ムッとした顔で衛兵が門の鍵を外す。

懐かしい腐臭が鼻をついた。

「うわー久々。相変わらずだねぇ」

綾が楽しげに言って歩き出す。

しばらく歩いて、久しぶりに見た施設の前で立ち止まった。

戸を開けるのを躊躇ったのは、誰か死んでいないかと、急にそんな思いが沸き上がってきたからだ。

「志紀?」

訝しげに綾が眉をひそめる。

俺は束の間目を閉じて―――戸を開けた。

「…………志紀?」

一人の男の子が俺を見てポッカリと口を開ける。

「志紀なの!?」

「志紀だって!?」

奥から、ぞろぞろと子供が出てくる。

「志紀ーーーー!」

荷物を下ろして走ってきた子供達を受け止めた。

「おかえりー!」

「ただいま」

続いてじいさんがヒョッコリ出てきた。

「おぉ、帰ってきたのか」

「あぁ」

「綾さんも。おかえり」

綾が数回瞬いて、フッと笑う。困ったような笑みだ。

「どうも、ご老人」

最後に和貴が出てきた。側まで来て、戸惑ったように俺を見上げる。

俺は、和貴の葛藤がわかって、それを慰めようと頭に手を載せぎこちなく笑った。

一度は納得したことでも、後から考えてまた悩むこともあるだろう。

「…………ただいま」

和貴も笑い返してきた。

「おかえり」

「これ、持ってきたから」

和貴に荷物を差し出す。

「ありがと」

「……綾?」

こっそり出ていこうとしていた綾の後ろ襟を掴む。

「うわっ」

「どこへ行くつもりだ」

「だって僕ちんお邪魔でしょ。君とはただの背主って関係だし。君、正妻ちゃんと愛してるじゃん? 愛人なんかいらないでしょ?」

綾がおどけたように唇を尖らせた。

「正妻?」

「そう、和貴」

綾が顎をしゃくって和貴を指し示す。

「俺?」

「そう。愛人、いらないよね? なら、いない方がいいよね? どろどろの恋愛関係、俺やだもん」

「恋……」

またいつものからかいかと気づいてうんざりして、溜め息を吐きそうになる。

「ハハハハハ! 面白い子だね、君は」

じいさんが大笑いした。

「大丈夫だよ、ここにいなさい」

「……悪いけど、ここは性に合わない」

綾は嘘っぽい顔で笑うと、俺の手を払って外に出ていった。

「……おかしな子だな……」

じいさんがその後ろ姿を見送りながら呆気に取られたように呟く。

「まあな。和貴」

「ん?」

「これ、全部食うなよ。少し貯蓄しとけ」

「わかった」

「志紀ー遊ぼう」

再び子供達が群がってくる。それを受け止めて、綾が出ていった戸の方を見た。

俺は綾との一線を越えないし、越えられない。和貴達と同じぐらい大切なものを側に置いて、あそこにいることはできない。いざという時、見捨てられるやつでないといけないのだ。

それを、綾はわかっているのだろう。深く関わらないように、関係を持つまいとしているのがわかった。

「志紀?」

呼ばれて和貴を見ると、訝しげに俺を見上げていた。

「……なんでもない」

頭を軽く叩いた。


次回、犬猿(?)の二人!

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