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王冠の椅子  作者: 緋絽
第2層
22/24

上官の真意

お、お久し振りです。ひぃごめんなさい!すぐ更新できるだなんて嘘ついてごめんなさい!!




翌日上書を提出した。

「では、全員首を切らなかったのか?」

藤堂尚書がニコニコしながら言った。

「はい」

「整理と書いてあったのにか?」

緒方尚書が机の上に上書を放る。その隣で帆島侍郎はじっと上書を見つめていた。

「切り捨てろとは、書いてありませんでしたので」

水野侍郎が茶器を置く。

「確かに。まぁ、まずまずなのでは?」

「ふん」

「じゃあ決まり。君達にプレゼントをあげよう」

得意気に藤堂尚書が笑いながら俺と綾に一つずつ小型の機械を渡す。

「これは?」

「近頃世間様で話題の携帯電話。便利だよ、これで上書に載せる写真もバンバン撮って貼ってくれ」

「はぁ」

掴み直してポケットに突っ込む。

「特にご用がなければこれで」

少し待ってみたが特にないようだったため跪拝して戸を開ける。

「失礼します」

綾が笑顔で戸を閉めた。



二人が出ていってから足音が遠ざかると藤堂は噴き出した。

「やってくれた! これは期待以上だよ!」

帆島が溜め息を吐く。

「………確かに、な」

「的確な判断でしたよ」

水野が上書をしまいながら返した。

「―――いいじゃないか。ただ単に数を減らすだけなら餓鬼でもできる。それならとっととクビにするつもりだったが……」

緒方が薄く笑う。

「冗官達を多少は使い物になるように仕向けてさえもくれている。―――合格だ」

三人が驚いたように目を瞬かせる。

一度咳払いをしてから水野が茶を注いだ。

「珍しいですね、あなたがそこまで言うなんて」

「そうか?」

そうかもしれない。だが。

ニヤリと不敵に緒方が口角を吊り上げる。

あれは、根っからの官吏の器だ。

いずれ、三省六部を襲い、食い荒らし、頂点を奪う。

「見物だよ」

藤堂もそう考えているのか鼻歌を歌っている。

繋がった道の先にあるのは果たして、龍か、虎か。

どちらに化けても面白い。

仮面の下を暴けば、わかるだろうか。

会試の答案を見る。

“成すべきことを成すため”

踏み出した道を照らす光が、僅かに、しかし確実に大きくなっていた。



それから少し経ち、給料が支払われた。

約五〇万。

綾と二人であわせて一〇〇万。

銀行の口座で確認する。

「綾」

「ん?」

「俺、市場行ってくるから」

「え? なんで?」

綾が首を傾げた。

まだ食糧あるよ? とでも言いたげだな。

「最下層への仕送り」

「あー。じゃあ俺も行くよ。君の感覚だと頭が吹っ飛ぶくらいの物、買っちゃいそうだし」

「……そんなことない」

「今の間が雄弁に物事を語ってると思うけどねー。ついでに俺も買えばいいよね?」

「……いいのか」

俺の言葉に綾がより一層首を傾げる。

「いいのも何も、そういう約束じゃんか」

綾がフードを被った。

外に出ると少し熱を持った風が吹いた。

もうすぐ夏か。

真っ青な空に雲が一つ浮いている。

「志紀」

綾が腕を掴んだ。

「こっちだ」

「……この前行った時は、こっちだった」

「こっちのが近道なんだ」

「…………」

まだ最下層で暮らしていた頃、市場などという場所には滅多に行ったことがなかった。だからか、余り近道を頭に入れることができない。

道を曲がると雑踏から少し遠ざかって、少し静かになる。

「志紀、君ってさあ」

「ん?」

「何気に鈍感だよな」

「……どん、……」

余りの言い種に少し言葉が詰まる。

「仕事の時は冴え渡ってる癖にね。あっ、そういう意味でとらないでね? 俺、そっち系じゃないから」

「…………は?」

困ったように顔の前で手を振る綾に、何故だか殺意を覚えた。

「あくまで志紀は背主だし、俺、君のことをそういう風には見てないから。あっ、でも志紀、顔はいいしなぁ……性格ひどいけど」

よくわからんが、からかわれていることだけはわかった。

「……綾」

「うん?」

思案モードに入っていた綾の唇をつまんで力をいれる。

「痛い! 痛いって!」

モゴモゴとした声で訴えてきた。

「もー。何て奴だ君は。俺の言ったこと、間違ってないよ!」

綾が頬をさすりながら牙を向く。

それは鈍い方か性格ひどいの方か。どちらにせよ、嬉しくないことは確かだ。

一人で納得して、再び手を伸ばすと少し後ろへ飛び退いた。

まぁいい。こいつの変な言動は今に始まったことじゃない。



市場に到着し、米やら野菜やらを適当に掴むと、片っ端から綾に戻された。

「志紀! もう少しちゃんと見て選びなよ! 実は中がすかすかですってこともあるんだからさ!」

「……でも」

「でもじゃない。もういいよ、俺が選ぶからさ。志紀は、何もせずに、大人しくここで立ってて」

溜め息を吐いて手で払う仕草をすると、綾は大勢の買い物客の中に紛れ込んでいった。

言われた通りに店の壁にもたれて待機の姿勢に移る。

五万分あれば施設とその周りの奴は食えるだろう。極力量を少なめに与えるように和貴に言えば―――。

ふと、和貴にしばらく会っていないことに気が付く。

まぶたの裏側で、鮮明に和貴の顔が浮かんで溜め息を吐いた。

奇妙に凪いでいるような、しっくりとこない感情。綾に言ったら、ホームシックだよ、寂しがり屋だなぁと半笑いで言われそうだ。

俺にも、ちゃんと心があるんだな。

胸の辺りを掴んで心臓が動いていることを指先で確認する。

幼い頃、何を見ても、何をしても感情が動かなかった。理由なんてわからない。

ただ、それがとても恐ろしくて、でも恐ろしいと感じていることにも気付かなくて、恐らく、追い詰められていたのだろう。

鈍く痺れた頭のまま、怯えた足取りで気づけば第2層への門の辺りに来ていた。

そこで出会ったのだ。母を求めて泣き喚く子供に。

たった一度、声をかけただけで後ろをついてきた和貴。もしかしたらギリギリだった俺の精神を支えたのは、あいつかもしれない。

隙間風が吹いているような胸を押さえて、そう思った。


次回、久々の最下層!!

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