我が背の君
やっと本編!!いきます!!
「お兄さん、どう?楽しいわよ」
紅い口紅を塗った女が俺の腕に腕を絡め体を引っ付けてきた。
咽せるような濃い香水の香りが鼻孔に広がる。
「止めときなよ、その子、最下層の子よ。お金持ってないわ」
もう1人、同じように紅い口の女が薄ら笑いを浮かべて言った。
それを聞いて微笑する。
俺の顔を見た女達が息を呑んだ。
女の腕を掴んで後ろに捻りあげた。そのまま腰を引き寄せる。
「痛……っ!!」
「お前らだって同じだろう、売女が。悪いが俺はいつまでもここにいる気はない」
「離して……っ!!」
女が身を捩らせる。
腰に巻きつけた腕に力を込めて身動きを取れなくさせた。耳元で囁く。
「俺は上に行く」
女を突き飛ばして歩き出す。
「何よっ、そんなの幻想だわ!!あんたなんか絶対上になんて行けない!!」
女の声はすぐに雑踏にかき消された。
家に近づくにつれて人混みが減り、普通なら吐くような匂いが漂い始める。
腐臭に似たすっぱいような、けれど生ぬるくて体中に張り付くようなネットリとした匂いだ。
そこをさらに奥に進んでいく。
「志紀っ、こっち来てくれっ!!」
和貴が手招きして俺を呼んだ。
かなり急いでいるようで、何があったのか瞬時に判断できた。
「負傷した奴は?」
石垣を飛び越えて和貴の隣に駆け寄る。
「今確認した数は3人。あいつら石で殴ってきやがった!!」
石か……。
「目には目を、歯には歯を、だ。相手は何人いる?」
「5人!!」
手頃な石をいくつか掴んでその場所に向かう。
建物の影に潜んでその状況を伺うと5人くらいの少年達がその場にいる6人を拳ほどの大きさの石で殴りつけていた。
間違えば死ぬということがわからないらしい。
こんな場所にノコノコと出てくるくらいだから、精々平民層の子供なのだろう。
こちらの子供は痩せ細っているにもかかわらず、相手の子供は健康的に太っている。
驚くほどの体格の差だ。
状況を知らない奴が見たら口を開けているに違いない。
けれど、ここではそれが当たり前なのだ。
石を空中に投げて落ちてきたそれを掴む。振りかぶって今まさに殴りつけようとしている子供に向かって投げた。
ビシッと音を立てて手に当たる。
「痛ぇっ!!」
周りの4人がざわつく。
その4人にも石を投げた。
小さく悲鳴が上がりパニックになっている間に走り出て5人の持っている石を奪った。
しばらく5人は呆然とし、その後ハッと我に返った。
「な、何すんだよ!!」
真っ先に気づいた少年が俺を睨んだ。
和貴が殴られていた奴らを引っ張っていく。
それを確認してから口を開いた。
「なあ、この石にこびりついてる赤いのって何か知ってるか?」
半分バカにしたような口調で話しかける。
「知ってるよ、血だろ!!」
頷いて石を空中に投げて落ちてきたのを掴む。
「じゃあ頭に当たったらどうなるか知ってるよな?」
「血が出るだけだろ!!」
何度目かの落ちてきた石を掴んで少年達をじっくりと見た。
「ブー。残念でした」
相手が苛ついたのがわかる。
振りかぶって石を投げた。相手の額に当たる。
「うわっ……」
「あんたら第2層だろ。大丈夫かよ。こんなの最下層なら5歳児だって知ってるぜ」
いや…むしろ最下層だからか。
少年の頭から血が流れ始める。
「うわぁ!!血だ!!」
相手が慌てている様を見て口角をあげた。
こんなもので騒ぐなんて、笑わせる。自分達がやろうとしていたことじゃないかよ。
「落ち着け。正解を教えてやる」
少年の額に触れるとヌルリとした血が付いた。
少年が痛みに顔をしかめる。
「死ぬんだ」
みるみる少年の顔が蒼白になっていく。
「あ…」
恐怖からか声と体が震えている。
「早く治療しないと大変なことになるぜ」
クスリと声を立てて笑うと少年が息を呑むような悲鳴をあげて後ずさった。
血の付いた手で少年の頬を撫でる。
絵の具をつけたように赤い血が頬にへばりついた。
「死にたくなければ、二度とここへ足を踏み入れるな」
少年を軽く押すと弾かれたように走り去っていった。他の4人も後を追う。
悲鳴が遠ざかってから家に向かった。
────その志紀をどこかで見ている奴がいた。
風に背中のフードがバサリと揺れる。
「へぇ…あいつが…」
その者は立ち上がると大きく息を吸った。
「それでは、いざ、我が背の君のもとへ」
深くフードを被った。
割と明るさはこんな感じでいきます!!
ガッツリ暗いです!!