苛立ち
今回、短めです。
俺と綾が歩き始めると冗官達もゾロゾロとついてきた。
口で不満を言いながらもクビにされるのは嫌らしい。
冗官のために用意された部屋に移動した。
クビになってもいいや~という奴はさっさと帰ったらしい、3分の1ほどいなくなっている。
「どうやって仕事もらえばいいんだ?」
「また父上に買ってもらおうか…」
今言った奴、クビ。査定の必要もない。
頭の中にメモをとる。
今ので月20万分、消えたな。
「……吏部試」
ある冗官の隣でボソリと呟いてみる。
「ん?何」
隣にいた男が俺の方を向く。
「あっ、いやっ。……普通は吏部試を受けて配属されるよなぁって、思って……」
「あー確かに。そういやまだ吏部試って行われてねぇよな?」
「はい、多分」
答えながら笑いかける。
視界の隅で綾が「誰だよ君!!」という顔をしているのが見えた。
「吏部試俺も受けられるかなぁ?」
「どうですかね。でも、受けるなら早く行かないと。準備が終わっちゃいますよ」
「あぁっ!!」
男が走って冗官室を出て行った。
それに数人が続く。
少し経つと男達が肩を落として帰ってきた。
「どうだったの?」
綾が頭の後ろで腕を組みながら聞く。
「……進士が優先だって」
「つまり、一昨日来やがれと。吏部らしい表現だね」
「どうすりゃいいんだ!!」
「吏部試を行わない時もあるじゃん。仕事ぶりを見て決めるんだろ?」
「…つまり?」
クスリと綾が笑った。
「土下座するなりなんなりして三省六部、御史台、府庫に頼み込めばいいじゃん。そっちの方がいいかもよ」
しばらくの沈黙。
俺はこっそり心の奥で笑う。
「えぇー!!」
冗官室からはちきれんばかりに大声が上がる。
「嫌だ!!」
「じゃあ、クビにされなよ。俺知らない」
「ぐ……っ」
男が声を喉に詰まらせた。
「じゃ、じゃあ、お前も行けよ!?」
「俺は心当たりあるもん」
「ぐぅ……っ」
綾の手を掴んで隅に連れて行く。
「何?」
「お前、バカか」
「え、なんで?」
「何で素でやってんだよ。覆面官吏の意味ないだろ」
「ちゃんとやってるって。俺、あそこまで意地悪じゃないから」
違いがわからない。
黙ったままでいると小さく胸を小突かれた。
それから毎日、冗官達と共に行動した。
ほとんどの奴らが三省六部へ行って頭を下げてきたが、一度あしらわれるとスゴスゴと帰ってきた。
なるほど、根性なしというのは本当らしい。
たった一度、どうってことないだろう。
おかげで切り捨てる奴は簡単に選ぶことができるが。
上書に名前を書きこもうとして手を止めた。
綾が鼻と口の間にペンを挟んでいる。
目があってペンをはずした。
「何?」
「……納得いかない」
「は?」
紙を破り捨てる。
「なめきってる。このままにしておくか」
散った紙片を見て綾は目を瞬かせ───ニヤリと笑った。
「それには俺も賛成だよ、志紀」
次は綾がぶちきれまーす!