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王冠の椅子  作者: 緋絽
第2層
16/24

思惑と冗官

ようやく志紀と綾が官吏として動き出します!長かった…。

「……どうだ、あの2人は。面白いだろう?」

藤堂が面白げに茶を啜る。

「……面白い…ねぇ」

緒方は茶器を置いた。

空の茶器に水野が茶を注ぐ。

「あの加瀬という少年…」

「うん?」

「……はいいんだが、真壁の方は…」

水野が溜め息をつく。

帆島がチラリと目をやった。

緒方は少し笑って言葉を引き継ぐ。

「あいつは扱うのが難しいぞ。加瀬という方はまだマシだが、真壁は押さえつけられることに対抗心を持っている。異常に嫌がっている」

「……最下層らしくない」

帆島の言葉に全員顔を上げた。

「最下層らしくない?」

小さく頷く。

「あそこは生きていくためなら何でもすると聞いている。殺人でさえもしばしば……。だが、真壁は」

茶器の音が部屋に響く。

「最下層にしては汚れすぎず、どこか気高い」

部屋が沈黙に包まれる。

真壁 志紀を支えているのは絶対的な自分への誇り。

おそらくそれを崩さない限り、飼い慣らすことは出来ない。

「まぁ、いいだろう。少しずつ崩して従えればいい」

藤堂が空になった茶器を置いて、茶を淹れようとした水野を手で制した。

「悪趣味だな。少しは真壁の自由を許してやれよ」

緒方が薄く笑う。

藤堂がわざとらしく目を丸くした。

「お前は真壁を嫌っているのかと思っていたが?」

「別に嫌いなわけじゃない。ただ、身の程も知らずにそれなりの要求をしてくるから真実を教えてやったまでだ」

「厳しいねぇ」

クスクスと藤堂は笑った。

「まぁ、せいぜい役に立ってもらうさ」



螺旋状になった階段を降りる。

職務塔は一本の筒のようになっている。

一番上が皇帝、その下が禁軍の羽林軍(うりんぐん)、さらに下が三省、その下が六部。六部は吏部、戸部、礼部、刑部、兵部、工部の順に一階ずつ下がっていく。

外から全体を見るとなかなか高い建築物だ。

その塔のそれぞれの部屋にはダストシュートがついており、そこに袋に詰めた衣類を投げ入れる。

最下層につながっていて、最下層で幸運にも仕事にありつけた奴が洗濯して返す。

家で洗えばいいと思うのだが、家で洗うのは面倒らしく、おこぼれを与えてやっている(・・・・・・・・)と割と利用してる奴が多いのだ。

汚らわしいと思うなら、俺達と接点を持たなければいいものを。

ただ最下層では高い賃金がもらえると重宝されていたので口には出せなかった。

部屋に戻って封筒を机の上に放り投げる。

「初めての仕事内容にしては割と華がないね」

「覆面官吏だからだろ」

綾が口を尖らせる。

冗官(じょうかん)の整理…」

冗官とは、官位はないが給料をもらっている者達のことを言う。つまり、無職なのに金貰って遊んでる奴のことだ。

大抵貴族に多い。

金で官位を買ってもらったが能力がついていかず、手を切られた、でも貴族の坊っちゃんだから…と首をきられず、給料が支払れているわけだ。

そうやってのうのうと生きてる奴をバッサリ切ってこいということか。

用意された冗官服を着る。

「冗官ってことは多分、できない感じがいいわけか」

「多分ね」

白い衣服の下にチャームを忍ばせる。

「さぁ行こうか」

楽しげな綾を引き連れて1階まで降りる。

流石にエレベーターに乗って降り、エレベーターの戸が開くと既にロビーは人で混雑していた。

仕事内容の書かれた紙には立て札があると書いてあった。

立て札は…。あれか。

その前まで進み文字を読む。

『冗官を全て解雇とする。一月後正式に通達する』

その立て札を前に口々に不満を漏らすものが大勢いるが、自分達が不満を言える立場ではないことがわかっているのか、この声は小さかった。

「俺思うんだけど」

綾が不貞腐れたように呟く。

「冗官服にフードつけたらいいんじゃないかな?」

「駄目だろ、それ」

当然綾は顔を隠せないと口を尖らせた。

「どうしたんだ?」

冗官の中にまぎれこんで一人の男に声をかける。

「どうもこうもねぇよ!!立て札、まじ意味わかんねえ!!」

「立て札?うわっほんとだ。有り得ねー!」

綾が悲壮な声を上げてみる。

その隣にさりげなく立って立て札を見て聞こえるように呟く。

「一月後…?何故一月なんでしょう…?」

「知らないよ!」

綾が大きい声で叫ぶ。

周りに聞こえるように。

その声に周りの注意がこちらに向いた。

綾を見た1人の男があれっと声をあげた。

「お前、男?」

「そうだけど?」

からかうような声にムッとした顔で綾が返事をする。

「マジかよ!女っぺー!」

綾の額に青筋が立ったのが見えた。

あ、禁句なのか。

心の奥底でこっそり思っていたことだったので、そっと布にくるむ。

「悪かったね!女っぽくて!」

噛み付くような勢いで綾が叫んだ。

「えっ!?な、なんだよ」

「お兄さん悪いけど、俺、あんた嫌いだ!失礼…っ、失礼な奴…っ」

「落ち着け」

頭に手刀を叩き落とす。

「うわっ」

「すみません、今日は苛々してるみたいで。行こう」

「……うん」

さっきの一瞬で怒りは鎮まったらしい、黙々と後ろをついてくる。

「ごめん」

足を止めて振り返る。

「女っぽいって言われるとつい…」

目を逸らして頭を掻いた。

「いいんじゃないの」

ふと綾が顔を上げる。

「反省してるならいいんじゃん。過ぎたことだろ」

軽く頭を叩く。

「次はやるなよ」

「ぐぅ。それを言われると痛いなぁ」

溜息をついて笑顔を作る。

「では、仕事を探しに行きましょうか」

俺の言葉に周りの奴らがざわついた。

「探しに行くって?」

わざとらしく綾が尋ねる。

俺はチラリと周りに目を向けた。

「だって一月猶予をくれてるんですから、有効に使わないと。そうでしょう?」

にっこり笑う。

そう。なぜか一月ある。その間、謹慎していろと言われたわけではない。何も言われていないのだ。つまり一月の間に何をしようと勝手ということだ。───たとえ仕事を探したとしても、構わないということだ。

俺の言葉に周りの奴らは、目から鱗が落ちたような顔をした。



次は、ぐうたらバカ貴族共の尻を蹴飛ばします!

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