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王冠の椅子  作者: 緋絽
第2層
15/24

吏部尚書と吏部侍郎

今回連続してアップしてますので、新着から来てくださった方は1話戻ってから呼んでくださいー(≧∇≦*)


帆島侍郎を追うと一つの部屋の前でとまった。

「ここは…」

「入ります」

帆島侍郎の後ろから入ると後から藤堂尚書がニヤニヤしながら入ってきた。

部屋はがらんとしていた。

中には胸に赤いチャームを付けた男が2人机の側に立っていた。

「失礼致します、緒方尚書。これが例の2人です」

俺と綾を手で指し示して帆島侍郎が下がる。

「へぇ、こいつらが……」

奥の机に座っていた男が立ちあがって側に寄ってきた。

赤ってことは…吏部か。

こいつが吏部尚書。

「ふん」

俺と綾を交互に見た後、俺に目を留めた。

「面白い目をしているだろう」

藤堂尚書が笑いながら言った。

それを無視して吏部尚書の方へ一歩進み出る。

「お初にお目にかかります、吏部尚書。礼部へ配属されました、真壁 志紀です」

「同じく、加瀬 綾です」

吏部尚書がニコリともせずに俺に一歩寄ってきた。

退がらずに見据えていると、顎に指がかかって上を向かされた。

「っ!!」

「確かに、面白い目をしている。だが…」

なんだこいつ。文官のくせになんて力だ。

「離せ…っ」

さらに力が強くなる。

「飼い慣らすのは難しいぞ…?」

ピクリと眉を動かす。

飼い慣らすだと。ふざけるなよ。

吏部尚書の手首を掴む。

上から物を言うことにためらいがなかった。

そんな奴相手に、大人しくなんてしてやれるかよ。

歯軋りをして睨み返す。

「そうだな。かなり、難しいかもしれない」

藤堂尚書がわざとらしく肩をすくめた。

ふざけるな。

この首に紐をつなげるつもりか。

言いなりになんてなってやるものか。

「志紀…」

綾が俺の怒りを感じ取ったのか、小さな声で呟くように言った。

掴んでいる手に力を込めた。

拭いきれない不快感と沸き立つような嫌悪感がずっと巡っている。

そのまま力任せに手を払った。

「俺は飼われているつもりはない!!」

俺の怒声が部屋の中に響く。

吏部尚書から目を離さずにずっと睨む。

───と手首を掴まれ強く引っ張られた。

机に押し付けられ肩を押さえられる。

机で顎を打った。

背中を膝で押さえられる。

抗おうとしても力の差か、適わなかった。

「~~~っ離せっ!!」

「勘違いするなよ、ガキ」

冷ややかな声が耳朶(じだ)に触れる。

思わず顔をそむけた。

ビクリともしない相手への怒りが積もる。

俺を拘束するな。俺から自由を奪うな。

唇を噛む。

あまりにも強く噛みすぎたのか少しすると血の味がした。

「お前らは俺達と対等なわけじゃない。俺達が選んでやった(・・・・・・)んだ。別にお前らじゃなくてもいいんだよ」

「………っ」

「間違うなよ。今からでも、変えられる。すぐに切り捨てられる」

目の端で誰かが動いた。

「───緒方様。そろそろ離してあげてはどうです」

「……水野か」

「あまりやりすぎると下手をすれば牙を剥きますよ。芽を摘むにしても、まだ子供だ、幼すぎます。離すべきです」

淡々とした口調で水野と呼ばれた声の主が近づいてきた。

吏部尚書の肩を掴んだのがわかる。

「離してあげなさい」

「…………」

しぶしぶというように吏部尚書が退く。

「あなたは尚書なので一応敬語を使ってますが、少し行き過ぎた行動ばかりしているので、そのうちやめるかもしれませんよ緒方」

体を起こして口を拭うと血が手の甲についた。

「志紀」

戸惑った顔で綾が見上げてきた。

鉄の味がする唾を飲み下す。

「大丈夫」

「どうも悪かったね、うちの尚書が。私は水野(みずの) 邦重(くにしげ)吏部侍郎です」

「………はぁ」

「で、これが私の背主で一応上司で吏部尚書の緒方(おがた) 大和(やまと)。おそらく仕事仲間としては最高のパートナーだ」

友人としては、は言わないのか。

「緒方、彼らを呼んだ理由を話さなくては。いたぶるために呼んだわけじゃないでしょう」

水野侍郎が茶を淹れて俺達に椅子を示した。

椅子に体を沈めると目の前の机に茶器が置かれた。

湯気から漂う茶の香りが鼻孔に広がる。

「お前らを呼んだわけは一つだ」

緒方尚書が椅子に座って足を組む。

「覆面官吏としての上書を吏部にもあげろ」

ピクリと眉を動かす。

命令か。

「それは、私の必ず従わなければならない命令ですか」

冷ややかに言うと隣で綾もウンウンと頷いた。

俺達が所属してるのは礼部であって吏部じゃない。

礼部尚書以外の命令を必ずきかねばならないという法はない。

「そうだ」

しばらく睨み合う。

「聞けません。あなたは私の直属の上司ではない。私が聞かねばならない道理が見つかりません」

ピクリと吏部尚書の眉が動く。

ほぅと嬉しそうな声を礼部尚書があげた。

飼われている気はないが、必ずあいつの下にいるという肩書きがいる。

一応取り繕っといた方がいいだろう。

「相変わらず生意気な……」

緒方尚書の手が伸びた。

危険を察知して飛び退く。

それを見て初めて緒方尚書が笑った。

向こう、というより吏部試を通り抜けられた者は皆、見た目はなかなかのものだ。

見た目で部署がきまることもある。

そんな顔が初めて本当に嬉しそうに笑った。

恐らく女だったら惚れる者もいるだろう。

だが、俺は身の危険を感じただけだった。

「惚れるなよ」

ボソッと綾に呟く。

「は?」

わけがわからないというような顔をした。

「いや」

首を傾げながら綾が向き直る。

「はーいはい」

パンパンと藤堂尚書が手を叩いた。

「こんな初めの方で火花を散らすことはないだろう。2人共気を静めて」

ジロリと藤堂尚書を睨む。

「真壁官吏、加瀬官吏、命令だ。仕事後の上書を吏部にも提出しなさい」

「……………御意」

「御意」

帆島侍郎が立ち上がって封筒を綾に渡した。

「これは?」

「最初の仕事だ」

短く告げると室に戻ってから見ろと言ってソファに座る。

立ちあがって一礼して部屋を出た。



次はおっさん達の会話と若者の最初の仕事でーす!

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