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王冠の椅子  作者: 緋絽
第2層
10/24

皮膚を裂いた物

お待たせしましたー!

 

飛んできた物を咄嗟に手を出して受け止める。

「どっか行けゴミ!お前らのせいでここが汚れる!」

声の方を向くと15歳くらいの少年がこっちに向かって怒鳴っていた。

同じように眉を吊り上げこちらを睨んでいた。

その目から見てとれる憎悪と侮蔑の激しさに背筋が冷えた。それと同時に心臓のあたりがスゥッと醒めていく。

何故そんなにも俺達を忌み嫌う。

まるで害虫のように扱われるのは何故だ。

歯軋りをするとズクリと手の平が痛んだ。それに気づいて手を見ると鋭利な鉄材が皮膚を裂いていた。手の平が赤く濡れている。胸の前まで持ち上げると一筋手首へと垂れていった。

「志紀、どうした…」

綾が出てくるのと少年達が再び振りかぶるのはほぼ同時だった。

家の中に綾を突き飛ばして戸の陰に身を隠す。

同じような鉄材が数枚戸にぶつかり、地に落ち、その内の数枚は中に飛び込んできた。

慌てて避けた綾を引き寄せて抱え込み戸の陰に隠す。

「うわっ、なんだ…っ」

腕の中の綾の目が俺の手を捕らえた。

綾の服の肩の部分に血が滲んで赤く染まる。それを防ごうと手を離すと床に滴った。

「志紀、君、それ…」

綾の顔の横に手を伸ばして壁に刺さった鉄材を抜く。両の手の平から血が滲み始めた。

「志紀!」

戸を開けて外に出ると去りかけていた少年達が振り返った。

底から沸き立つような怒りを感じる。あまりの激しさに、震えるような息を吐いた。

何故、何もしていないのにこんな風に扱われる。むしろ酷いのはお前らだろう。こんなことをされる謂われはないはずだ。

少年達の顔を見て鉄材を握り直す。

何も思わないのか。この世界の、国の常識が間違っている、歪んでいるとは思わないのか。

同じ人間だろう。

持っていた鉄材を相手に投げつけた。

丁度俺に鉄材を投げつけてきた奴の頬を掠める。

「何す…っ!」

近寄って相手の手を握る。

「触るな…っ!」

鉄材が食い込んでいる手を握らせた。さらに鉄材が食い込んでくる。痛みも、何も感じなかった。ただ、怒りのみがそこにあった。

「ひっ…!」

息を呑むような悲鳴と共に相手が手を引っ込めようとした。

さらに強く握らせる。

俺の血が相手の手の平にべっとりと付いた。

思い知ればいいと思ったのだ。同じ血が流れているということをわからせてやりたい。同じように生きているのだ。

「志紀、落ち着いて」

綾が俺の手を掴んだ。

相手が一瞬ホッとした雰囲気になる。ようやく解放してもらえる───そんな表情。

「離して、志紀。これ以上酷い怪我になったらまずい。手が使えなくなるかもしれない」

しかし、綾の言葉に相手がムッとした雰囲気に変わった。

綾があからさまに自分達ではなく俺の手のために俺を宥めた、ということに怒りを覚えたのだろう。

それに気づいているだろう綾は相も変わらず無視して俺の手を掴んでいる己の手に力を入れた。

俺が動かないのを見て小さく溜め息を吐く。

綾が一本ずつ俺の指を解いていくのを、俺は黙って見ていた。解き終わると綾は少年達を見ていつの間にか集めていた鉄材を足元に投げた。

少年達が悲鳴を上げる。

綾はそれを一瞥して俺の手を引いて家の中に入った。


「うわ、かなり深いな。痕、残るかもねぇ」

ソファに座って俺の手の平から鉄材を抜き取ると綾は少し顔をしかめた。

「……気持ちはわからないでもないよ。でも志紀、忘れちゃいけない。あいつらには何をしても意味はない。分かり合えない。だから俺達はここに来たんだろう」

水を溜めた桶に手を浸して血を流す。水に血が解けていく。

「………忘れてたわけじゃ、ない。ただ…」

「……ただ?」

答えられずにいると溜め息を吐いてからちょこっと綾は笑った。

「わかってるよ。どうしても、許せなかったんだろ」

清潔な布で綾が俺の手を拭っていく。

「………よくわかったな」

そうか、そうだな。と、その言葉がストンと胸に落ちた。

俺でもわからなかったことをさらりと言ってのけた。

「そりゃ分かるさ。君はわかりやすいからね」

再び血の滲んだ傷痕を酒に浸した脱脂綿で拭って包帯を巻いていく。

背もたれにゆっくりと頭を預けた。

それはそうと、と綾が思い出したように口にした。

「志紀、部屋分けようか」

綾が救急箱を片付けながら言った。

「…なんで。別にいい」

最下層では1つの部屋を5~6人で使っていた。俺は和貴と2人で一番狭い部屋をあてがわれていたが。

今更誰かと部屋を分け合うことに何か思うようなことなどない。

「やめとくべきだね。俺の裸、すっごいよ。君のそのクールぶってる仮面の下を見せたくなかったらやめといた方がいい」

ニヤリと綾が笑う。

想像しようとして止めた。すっごい裸がどういうものかわからない。

まぁ、こいつはただの背主だ。知られたくないことも互いにあるだろう。

ならば無理に干渉しなければいい。

「…わかった。俺は右の部屋をもらう」

「了解~」


やっと第2層っぽい場面が!

次回、ようやく朝廷!

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