半分こな恋人〜ハムハム大事件?〜
蜜柑(24)彼女
檸檬(24)彼氏
「檸檬君浮気してるの?」
蜜柑は帰って来るや否や檸檬に聞く。
同棲をしている小さなアパート。
先に帰っていた檸檬は、キッチンでシチューを作りながら聞き返した。
「何を見てそう思ったの?蜜柑ちゃん。」
鍋の中ではコトコトといい色に具材たちが煮込まれている。
煮込み系の料理が得意な檸檬。
二人は交代制で夕飯を作っていた。
朝ごはんはトーストにジャム、ベーコン、チーズにレタスに市販のコーンスープなど簡単なもの、
お昼ごはんはそれぞれ会社の近くのお惣菜屋さんやスーパーでお弁当やおにぎりを買って食べていた。
「昨日の夕方、私休みだったじゃん?それで友達と歩いてて、たまたまバイト先の前通ったら化粧濃い胸元開いた服の女の人と一緒にいた。」
「あー、先輩のことか。」
俺はカフェでアルバイトをしている。
先輩は二個歳上で正社員だ。
濃い化粧、長い髪、客観的に見ても美人だと思う。
明るい接客が人気らしく、先輩が入ってからカフェの男性客が増えたらしい。
「檸檬君、私のことハムスターみたいで可愛いって言ってくれたのに!女豹の方が良かったの!?」
蜜柑の両手は上を向いてわきわきしている。
「女豹って・・・。」
「浮気じゃないって言うんなら証明してよ!」
「証明なんてできないよ。」
「なんでよ!!」
蜜柑が地団駄を踏む。
「あるものは証明できるけど、ないものは証明できないよ。例えばさ、透明人間がいないことを証明してって言ったら無理じゃない?」
「む?むむ・・・確かに。」
言えないよな。
先輩にあんな風に言われたなんて。
昨日の夕方。
カフェのロッカー。
「檸檬君てー、バイトでしょう?正社員で働いたらいいのに〜。時間とか日数もっと増やしてさー。」
「いえ、俺はバイトのままがいいんです。」
「でもー、彼女いるんでしょう?だったら男としてしっかりしなきゃダメじゃない。
まぁ、いなくても男でバイトはダメだけど〜。」
先輩は長い髪を指先でくるくる遊ばせている。
「いえ、これは俺と彼女の問題なので。」
ロッカーの荷物を取り出しながら檸檬が言う。
「彼女さんも彼女さんよね、彼氏を成長させられないなんてダメダメ。」
いつもなら軽くあしらう先輩の意地悪な言動。
しかし、その言葉にさすがの檸檬も反論する。
「あの、先輩。」
檸檬はガチャンとロッカーの扉を閉める。
「んー?」
「俺のことなら何言われても構いません。
でも、彼女の悪口は許しませんよ?」
「な、何よー、先輩に向かってその態度は〜。」
真っ直ぐな檸檬の目に先輩も一瞬たじろぐ。
「話それだけですか?彼女が待ってるんで帰りますね。」
「あ、ちょっと!待ってよ!」
外へ出ると先輩が檸檬を引き止めようと目の前に立った。
「なんですか。」
「あなたが正社員でバリバリ働いてくれるんなら私があなたの彼女に立候補してもいいわよ?檸檬君カッコいいし。クリスマスも近いしなんならこの後飲みにでも・・・。」
「俺は彼女しか興味ないんで。」
そうか。クリスマス。忘れてた。
あと5日後じゃないか。
「何よー、ちょっとくらい息抜きも大事よー?」
そうだ、先輩前に可愛い寝具のお店があるって言ってたよな。
「あの、この前教えてもらった寝具店、場所どの辺でしたっけ?」
「え?それなら道を挟んで渡って曲がった場所にあるけど・・・。」
「ありがとう先輩!」
そう言って檸檬は走り出した。
ポツンと取り残された先輩には振り返りもせずに。
少しして檸檬は明かりがついたガラス張りの寝具店を見つけた。
このお店だ!
窓には可愛い抱き枕たちが飾られていた。
檸檬はその中の一つに目を奪われた。
「あの、これ下さい。」
そんなことがあった。
「信じて欲しい、あの人はただの先輩。
確かに飲みには誘われたよ。」
「ほらーやっぱり!」
「でもちゃんと断った。それに早く話切り上げて帰って来たんだよ。」
「帰りは遅くなかったけど・・・だってその先輩?美人だったし・・・おっぱいも大きかったし・・・ごにょごにょ。」
「まぁ、胸は確かに・・・。」
「ほらー!やっぱり見てたじゃん!」
「仕方ないじゃん、作業中はブラウスに黒いジーンズ、エプロンだけど、
あの時は目の前にいて胸元開いた服着てたんだから。
なるべく見ないようにはしてだけど全く見ないのは無理だよ。」
「むすっ・・・。」
「機嫌直してよ。」
「信じていいの?」
「もちろん。」
「本当に?」
「不安が無くなるんなら携帯見てもいいよ。」
「いい、見たくないもん。」
「なんなら探偵雇ってみる?」
ふるふると蜜柑が首を振る。
「そんなお金ないもん。」
「はは、それは言えてる。」
「それに、そんなところにお金使うくらいなら檸檬君とお出かけする時に使いたい。」
「ありがとう。
大丈夫、俺は蜜柑ちゃんを傷付けるようなことはしないよ。」
「うん・・・ごめんね疑って。ちゃんとした証拠もないのに。」
「いいよ。」
檸檬はは火を止め、シチューを混ぜていた"おたま"を止め、蜜柑の頭を撫でくりまわす。
「わっ!?ちょっと!どんだけぐりぐりするのよ!」
「俺はハムスターがいいんだなって思って。」
「えー?何よそれ〜。」
二人は顔を見合わせ笑った。
「シチュー食べる?」
「食べる〜!!」
ソファに並んで座ると、蜜柑が肩をコツンと腕にぶつけてきた。
「え、なになに。」
「何でもなーい。いただきまーす!」
「頂きます。」
二人は木目調のローテーブルに置かれたシチューとロールパンを食べ始めた。
ピリピリした空気は温かいシチューの湯気と共に消え、いつの間にかふわふわした空気に変わっていた。
檸檬は食べ終わってお皿を洗った後、紙袋から何かを取り出して蜜柑に渡した。
「蜜柑ちゃん、これあげる。」
「わ!?何これ?」
「プレゼント。ちょっと早いけど無くなったらやだなと思って。」
「あー!クリスマスの?」
「そう。」
「それで大きな紙袋持ってたんだ。」
「抱き枕欲しいって言ってたでしょ?
寝具のお店の前でハムスターの抱き枕見つけて。」
先輩が教えてくれた店。
その時はふーん、と聞き流していたがまさか役に立つ日が来ようとは。ありがとう先輩。
「くしゅん!!・・・??誰か私の噂してるのかしら。」
「本当はクリスマスに渡そうかと思ってたんだけど、
今渡した方がいいかなって思って。」
「ありがとー檸檬君!これってつまり私に似てるの買って来てくれたってことで合ってる?」
「うん、これ見た瞬間、蜜柑ちゃんの顔思い浮かんでさ。」
「これから檸檬君がいない時はこれ抱き締めとくね。」
「それ俺のセリフなんだけど。」
「えー、檸檬君も使うの?」
「ダメ?」
「ううん、ダメじゃない。一緒に使お。」
「これも半分こ?」
「物理的に半分にはできないけどね。」
「さすがにね。」
「ふふ。あ、そうだ。実はね、私も買ってあったんだ。」
蜜柑は立ち上がり、タンスの引き出しから小さな箱を持ってきた。
「ありがと。開けていい?」
「うん。」
箱を開けると、腕時計が入っていた。
「腕時計壊れて買い直そうとしてたじゃない?
だからちょうどいいかなって。」
「ありがとう、茶色とオレンジで可愛いね。
抱き枕と同じ色?」
「あ、ほんとだ。」
二人は再び顔を見合わせて笑った。
こうして二人の平和はこれからも絶えることなく紡がれていくのでした。




