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転生した難波大助、カードショップの店長になる――革命より先に家賃を払え

掲載日:2026/09/05

※歴史上の人物を題材にしたフィクションです。転生後の人物・店舗・サービス・取引・相場は創作であり、実在する企業等とは関係ありません。


 生まれによって価値が決まる社会など、認められない。


 そう信じた男は、百年後、虫眼鏡を手に叫んでいた。


「右上に白欠けがある! 査定を下げろ!」


「店長、声が大きいです。お客様のカードです」


 従業員の四宮澪に肘で小突かれ、難波大助は背筋を伸ばした。


「……大変申し訳ございません。こちら、裏面の角に小さな傷が見られまして」


 千葉県の駅前商店街。

 カードショップ『一枚堂』の開店から、三か月が過ぎていた。


     ◇


 前の人生の最後を、大助はよく覚えている。


 共産主義を信じ、社会を変えるつもりでいた。


 大正十二年十二月。虎ノ門で、皇太子であり摂政でもあった裕仁親王を襲撃した。暗殺は未遂に終わった。大審院での審理でも皇室を否定する主張を曲げず、大逆罪によって死刑を言い渡された。


 翌年十一月十五日、処刑。


 それで、自分の番は終わったはずだった。


 ところが次に気づくと、産着に包まれていた。


 窓の外を、自動車が何台も通っている。母らしい女が、小さな板をこちらへ向ける。その板の中にも、自分がいた。


「大助、こっち向いてー」


 また大助なのか。


 抗議したが、乳を飲まされて終わった。


 今度の家は、歴史に名を残すような家ではなかった。

 父は配送の仕事をし、母はスーパーで働いていた。二人とも政治の話より、雨の日に洗濯物をどうするかでよく争った。


 祖父だけが、大助の妙な言い回しを面白がった。


「その歳で、ずいぶん世の中が気に入らんのだな」


「当然だ。格差がある」


「そうか。じゃあ、これをやろう」


 差し出されたのは、ポケモンカードだった。


 赤い魚が、口を開けていた。


「コイキング。弱いぞ」


「なぜ弱いものを寄越す」


「おまえ、強いやつには文句言うだろ」


 反論できなかった。


 祖父とカードを並べた。ルールを覚えた。負けた。運の不平等を訴えた。もう一度負けた。


 そのうち、放課後に友達ができた。


 前世のことを打ち明けても、反応は薄かった。


「へえ。じゃあ、コイン投げて」


 大助はコインを投げた。


 教科書で自分の名前を見つけた日も、帰りにはカードを買った。数行の文章には、冬の冷たさも、自分の声もなかった。だが、襲撃があったことは消えていなかった。


 そのページには、何も書き込まなかった。


 成人した大助は中古品店で働き、給料を貯め、カードの扱いと商売を覚えた。澪とはそこで知り合った。


 店を出すと告げると、彼女は事業計画書を読んだ。


「『万人に開かれた自由な交流拠点』。いいですね。家賃は?」


「月十八万だ」


「自由にも固定費がかかりますね」


 彼女が一緒に働くと言ってくれたのは、それから二週間、計画書を書き直したあとだった。


 店には対戦用の長机を二つ置いた。

 三十円のカードが入った箱を、子供の手が届く高さに並べた。


 開店初日、大助はその光景を見て満足した。


 ここには、座りたい者が座れる。


 そして月末、家賃の引き落としを見て、満足だけでは店が続かないことを知った。


     ◇


 ある日、常連客が一枚のカードを持ち込んだ。


 透明で硬いケースに収まった、リザードンだった。

 上部のラベルには、赤い縁取りと黒い文字。


 PSA。GEM MT。10。


「これ、買い取れます?」


 大助は提示された希望額を聞き、いったん眼鏡を外した。


「カードは一枚だな」


「一枚です」


「ケースの中に、土地の権利書などは」


「入ってないです」


 PSAはカードの状態などを鑑定し、グレードを付ける。その最高評価が十だという。


 知識としては知っていた。

 しかし、店の家賃を何か月も払える一枚を前にすると、理解には別の筋肉が必要だった。


 澪が相場を調べ、現物を確認し、客と話を進めている間、大助は黙ってケースを見つめた。


 きれいだった。


 炎の色も、絵の奥行きも、枠の中に収まった姿も。

 そして何より、十という数字がきれいだった。


 結局、そのカードは買い取った。

 しばらくして売れた。三十円の箱を何日眺めていても生まれなかった粗利益が、一度に生まれた。


「なるほど」


 大助はうなずいた。


「見る目のある人間に、価値は見いだされるわけだ」


「その結論に落ち着きましたか」


 翌月には、ショーケースの最上段がPSA10で埋まった。


 九は二段目だった。


「その上下関係、いいんですか」


「照明の都合だ」


 さらに大助は、状態のよいカードを選び、鑑定にも出し始めた。

 戻ってきた箱を開ける日は、朝から落ち着かなかった。


「十、十、九……なぜだ。こいつのどこが悪い」


「昨日まで『九でも十分きれい』って言ってましたよ」


「一般論と当店の資金繰りは別問題だ」


 そのころには、自宅の机にも一枚、PSA10が飾られていた。


 自分の貯金で買った、お気に入りのリザードン。

 売り物にしないと決めた、初めての高額カードだった。


 夜、相場を見る。

 上がっていれば、角度を変えて眺める。

 下がっていれば、長期的な価値について考える。


 大助は、非常に忙しくなった。


     ◇


 オリパを始めたのは、雨続きの六月だった。


 店が独自にカードを封入して売る、オリジナルパック。

 何が出るかは、開けるまでわからない。


「つまり、少ない金でも高額カードを手にする機会がある」


「出なければ、その分のお金は使います」


「機会の平等だ」


「商品説明には具体的な中身を書きましょうね」


 最初は一口五百円、百口だけ。


 大助と澪は中身を確認し、当たりのカードも確かに用意して、二人で袋を閉じた。


 売れた。


 予想よりずっと、売れた。


 仕事帰りの常連、柴田が三口買い、店の隅で開けた。


「うわ、今日は駄目だ」


「では、もう一口」


 大助が言いかけると、澪は横から対戦用の椅子を引いた。


「柴田さん、今日は対戦していきます?」


「するする。こっちで勝つわ」


 柴田はよく笑う男だった。

 作業着の胸ポケットにボールペンを二本差し、鞄には角の擦れたデッキケースを入れていた。


 自分よりずっと若い客にも、負ければ素直に悔しがった。


「店長、この店はいいよな。仕事終わっても、まだ一日が残ってる感じがする」


 大助は、その言葉が気に入った。


 店の紹介文に使っていいかと聞くと、柴田は照れて断った。


 オリパの売上は、対戦会の参加費をすぐに追い越した。


 五百円が千円になった。

 千円が五千円になった。


 客が当たりを引く動画を、大助が撮るようになった。


「万国の開封者よ――」


「店長、長いです。当たったところから撮り直します」


 澪に切られた演説の代わりに、金色の字幕を付けた。

 その動画は、長々と店の理念を語った動画の七十倍も再生された。


 数字は、何をすればよいか、明快に教えてくれた。


     ◇


 オンラインオリパなら、店が閉まっている間にも売れる。


 その言葉を聞いたとき、大助は眠らなくても済む新しい従業員を手に入れた気がした。


 外部のサービスを利用して、自店の販売ページを作った。

 客はポイントを購入して抽選を引き、出たカードの発送を頼むか、定められたポイントに交換して次の抽選に使う。


 画面では、箱が光った。

 雷が落ちた。

 扉が開いた。


 大助は試験画面を見て、腕を組んだ。


「三十円のカードが出るときまで、城を建てる必要はあるのか」


「演出です」


 サービス担当者の説明を聞き、大助は城を残した。


 店頭に十人しかいない日にも、画面の向こうには数百人がいた。


 売上が伸びた。

 発送する箱が増えた。


 対戦用の長机が、一つ、梱包台になった。


「混雑する間だけだ」


 もう一つも、梱包台になった。


「場所を広げれば戻せる」


 柴田が来て、入口から店内を見た。


「今日、座れる?」


「すまん。今は発送が立て込んでいてな」


「そっか」


「オンラインのほうなら、いつでも遊べるぞ」


「……ああ。そうだね」


 柴田は五百円のパックを一つ買って帰った。


 大助は、その日の売上に五百円を加えた。


 月末、澪から広告文を差し戻された。


『引くほど勝ちに近づく!』


 大助が考えた文句だった。


「たくさん引いても、損が増えることはありますよね」


「それは、もちろん」


「じゃあ、消します」


「待て。皆、この程度は承知で――」


「店長」


 澪はマウスから手を離した。


「この店を始めるとき、私に言いましたよね。わからない子にも、わかるまで説明する店にするって」


「子供向けの話だろう」


「わからない大人なら、いいんですか」


 大助は返事をせず、別の仕事を始めた。


 自分が何かを言い切ったあとで黙ると、周囲が譲る。

 その癖は、二度生まれても直っていなかった。


     ◇


 秋、大助は競合調査を始めた。


 他店のオンラインオリパを、自分でも引いてみるのだ。

 予算は私費で一万円。仕事熱心な経営者として、妥当な額だと思った。


 一回目。

 城が建ち、雷が落ち、よく見慣れたカードが出た。


 ポイントに戻す。


 二回目。

 扉が金色だった。

 扉だけが金色だった。


 三回目。

 演出を飛ばした。


 気づくと、カードの絵を見るより先に、交換できるポイントを見ていた。


 残高が減ると、追加した。

 もう少し減ると、さっきの追加を無駄にしないために追加した。


 午前三時。


 大助は椅子から立った。


「これは客の心理を理解するための――」


 誰も聞いていなかったので、座った。


 午前四時には、十二万八千円を使っていた。


 発送を頼んだカードは、一枚もなかった。


 翌朝、寝不足の目で店を開けると、柴田が待っていた。

 いつもの鞄を持っていたが、笑わなかった。


「店長。買取、頼める?」


 出されたのは、使い込まれたデッキと、少しずつ集めていたカードだった。


「……これ、売るのか」


「うん。ちょっと使いすぎて」


 大助は、値段を調べるふりをした。


「うちで?」


「うちでも。よそでも」


 柴田は店内の梱包台を見た。


「帰って、寝る前にちょっとだけのつもりだったんだよな。最初は」


 同じ画面が、大助の頭に浮かんだ。


「引いてる間はさ、まだ取り返せる気がするんだよ。閉じたら、使った金額だけが残るから」


 買取額は、柴田が使ったという金額に遠く及ばなかった。


 大助は高く買おうとした。

 気づいた柴田が首を振った。


「普通でいい。店長が困るだろ」


 その一言で、大助は客の顔を見られなくなった。


 会計が終わり、柴田は空になった鞄を持った。


「デッキケースは、買取できなくて」


「ああ、いいよ。持って帰る」


 角の擦れた箱だけが、鞄に戻された。


     ◇


 大助は、その晩も管理画面を開いた。


 翌日から、大型企画を始める予定だった。

 目玉はPSA10。仕入れにも広告にも、すでに金を使っている。


 画面には、開催を待つ人数が出ていた。


 これを止めたら、支払いはどうなる。


 未使用ポイントへの対応。

 発送待ちの商品。

 取引先への仕入代金。

 澪の給料。


 いずれ売れるはずのカードを数えれば、店にはまだ金があるように見えた。

 しかし、銀行口座の残高は、ショーケースほど華やかではなかった。


「一回だけだ」


 大助は言った。


「今度の企画を終えれば、整理できる」


 澪は、帰るために肩に掛けた鞄を下ろさなかった。


「その次の仕入れは、どうするんですか」


「それは――」


「次も一回だけですか」


 大助は椅子を回した。


「誰も、客に買えと強制してはいない」


 口に出すと、それは立派な理屈に聞こえた。


「そうですね」


 澪はうなずいた。


「私にも、ここで働き続ける義務はありません」


 退職願は出さなかった。

 ただ、それだけ言って帰った。


 大助は一人になった。


 誰もいない店では、冷蔵庫の音がよく聞こえた。


 ショーケースの最上段で、十のついたカードが光っている。


 昔も、自分の考えが正しいことと、自分のしたことが正しいことを、分けずにいた。


 あの自動車には、人間が乗っていた。

 自分はそれを制度の名で呼び、狙った。


 いま、誰もいない椅子を売上の効率で測っている自分がいた。


 同じことだ、とは思わなかった。

 あの襲撃を、商売の失敗に言い換えて済ませられるはずがなかった。


 ただ、目の前にいる人間を見ないとき、自分の理屈はいつも滑らかになる。


 大助は、開催を待つ人数をもう一度見た。


 そのうちの一人が、城の開く画面を前に、午前四時まで座っているところを想像した。


 予約公開を取り消した。


 画面には、何の演出も出なかった。


     ◇


 翌朝、大助は澪に頭を下げた。


「すまなかった」


 澪は鞄を持ったまま、入口に立っていた。


「何についてですか」


 大助は考えた。


「君の指摘を聞かなかったこと。対戦席を戻すと言って、戻さなかったこと。それから、客を呼び込む文句を、売れるかどうかでしか見なくなったことだ」


「……はい」


「販売を止めた。後始末をする」


「お金は」


「足りない。いくら足りないのか、今日、出す」


 澪はようやく鞄を下ろした。


「私のお給料は、最初に分けてください」


「もちろんだ」


 美しい和解の音楽は鳴らなかった。

 二人で電卓を使った。


 新しい入金を見込まず、必要な発送費も、サービス終了に伴う対応費用も、一つずつ数えた。


 大助は、未使用ポイントの扱いや発送の手続きを確認し、利用者へ案内を出した。

 手続きは一通のお詫びでは終わらなかった。問い合わせが届くたび、注文と記録を調べた。


 怒る客もいた。

 引けると思っていたのに、と言う客もいた。

 ひどい店だ、と書かれた。


 大助は返信欄に長い反論を書き、消した。


「思想を述べたくなったら、先に伝票を一枚処理してください」


 澪に言われ、大助は伝票を処理した。


 店の高額カードを売った。

 使っていない機材を売った。

 自分の貯金を入れた。


 それでも、予定した期日までの現金が足りなかった。


 最後に、自宅からリザードンを持ってきた。


 PSA10。

 自分だけの、炎の一枚。


 大助は机に置き、しばらく眺めた。


「……いっそ、割ってしまえば」


「何をですか」


「このケースだ。数字から解放して、本来のカードに――」


「それで送料が払えるんですか」


 大助は黙った。


「そのカード、店長が好きで買ったんでしょう。カードに当たらないでください」


 大助は、両手でケースを持ち直した。


 格付けに腹を立てるふりをすれば、手放す惜しさを認めずに済むところだった。


「……高く売りたい」


「はい。ちゃんと見積もりを取りましょう」


 買ったときより、安かった。

 それでも、箱をいくつも送り出せる値段になった。


 カードが売れた日、大助は梱包台の一つを空けた。


 布で拭くと、昔、誰かがつけた小さな傷が出てきた。


     ◇


 店は、奇跡の復活を遂げなかった。


 客は減った。

 大助の給料も減った。

 しばらくは休日に別の仕事を入れた。


 澪は勤務日を減らすことを選び、空いた日に別の店でも働いた。

 大助は引き留めるための演説をしなかった。新しい勤務表を書いた。


 オンラインオリパの後始末には、二か月以上かかった。


 その間も、カードは売った。


 PSA10を買いに来る客には、現物を見せた。

 九との違いを尋ねられれば、ラベルだけで説明を終えないようにした。


 買った客が嬉しそうにケースを持つのを見ると、やはり、いいものだと思った。


 店頭の高額オリパも、やめた。

 代わりに、何が入っているか見えるデッキセットを組んだ。


『革命的構築』と札を付けたら、澪に『初心者向け』と直された。


「そのほうが伝わります」


「まだ革命という語にも、使い道はあると思うのだが」


「店内の段ボールを全部たたんでから考えてください」


 冬の夕方、柴田が来た。


 大助はレジから出た。

 謝るべきことを考えていたが、柴田が先に、戻った長机を見た。


「座っていい?」


「ああ」


 大助は一歩、そばへ寄った。


「座る場所を片づけたうえに、くじを勧めた。すまなかった」


 柴田はうなずいた。すぐには、何も言わなかった。


 柴田は椅子を引いた。

 鞄から、あのデッキケースを出した。


「中身、まだないんだけど」


「貸し出し用がある」


「助かる。……今日は、買わないよ」


「かまわん」


 大助は無料と言いかけ、レジの横の札を見た。


「ただし、席料は二時間三百円だ」


「取るんかい」


 柴田が笑った。


「取る。椅子を置いておくためだ」


「なるほどね」


 柴田は財布から三百円を出した。


 大助は領収証を渡し、貸し出し用のデッキを二つ持っていった。


「相手も付くの?」


「今は暇なのでな」


 シャッフルする手つきは、お互い、少しぎこちなかった。


     ◇


 春になって、一枚堂は初めて、派手な企画なしで家賃を払えた。


 利益は薄かった。

 ショーケースには、まだ売れないカードがあった。

 大助はときどき、手放したリザードンの相場を調べた。


「未練ありますね」


「資料の確認だ」


「はいはい」


 祖父にもらったコイキングは、今も持っていた。


 裏に名前を書いてある。

 縁が白い。

 子供のころ、菓子を食べながら触ったので、薄い染みまである。


 高くは売れない。


 それはそれで、大変ありがたかった。


 ある土曜日、少年がショーケースの前で尋ねた。


「店長。PSA10って、いちばん強いの?」


「カードの状態についた評価だ。勝負の強さとは別だな」


「じゃあ、一番高いカードを買っても、勝てないことある?」


「大いにある」


「よかった」


 少年は自分のデッキを抱え直した。


「店長、対戦しよう」


 大助は澪を見た。

 澪は入口の時計を見て、うなずいた。


「一戦だけなら。負けても制度の話を始めないでくださいね」


 大助は席に着いた。


 先攻を決め、山札を置き、カードを並べる。


 少年の動きは速かった。

 大助のほうは、三手目あたりから眉間に皺が寄った。


 やがて、どうにもならないことが明らかになった。


「……待て。その組み合わせは、強すぎないか」


「店長が教えてくれたやつだよ」


 少年が得意げに笑った。


 大助は盤面を見た。

 自分が選び、一枚ずつ説明して売ったカードが、見事に自分を追い詰めていた。


 口を開き、閉じた。


「参りました」


 少年が立ち上がって喜んだ。

 隣の席から、柴田が拍手した。


 大助はカードを集め、箱に戻した。

 負けても、店にはまだ午後が残っていた。


 レジへ戻ると、澪が一枚の紙を差し出した。


「今月の家賃です」


「今、いいところだったのだが」


「大家さんも、いいところだと思います。振り込まれたら」


 大助は銀行の画面を開いた。


 十八万円。

 受取人を確認する。

 残高を見る。


 指が、一瞬だけ止まった。


「この額なら、かなりいいPSA10が――」


「店長」


「わかっている」


 難波大助は、今月も家賃を払った。

執筆上の補足:虎ノ門事件は1923年12月27日、難波大助の処刑は1924年11月15日です。歴史部分は、辻本昌弘「間接的抵抗について」、龍谷大学公開学位論文『日米の死刑執行を巡る透明性に関する一考察』、河上肇「随筆『断片』」を参照しました。転生後の言動や内省は創作です。PSAの評価は公式鑑定基準を参照しています。

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