1-4
「承知しておりますリュシア様。重ねての御心遣い、ありがとうございます。」
眉を下げる王妃に母は穏やかに続けた。
「暫しの間、御役に立てないことお詫び申し上げます。」
「謝らないで頂戴、貴女は真面目過ぎるのよ。
王家としてその忠義は嬉しく思いますが、心配にならない訳じゃないのよ?」
「貴女、最近鏡は見たかしら?」
王妃の言葉は少し躊躇うようだった。
「鏡、ですか?」
王妃の言葉に僕は母の顔を見上げた。
やや疲れた様子ではあるが、そこまでやつれた様子には見えない。
「頭城する前には一度…」
「やっぱり無自覚なのね、だからこそよエリナ。だから貴女は休むべきなの。」
王妃はカップを持ち上げ、けれど口をつけることはなかった。
「エリナ、貴女は私の騎士で、そして友よ。いつだってそうよ。」
「リュシア様…。」
「伝えたかった事はそれね。お茶が冷めてしまうわ。」
王妃は一瞬だけ視線を伏せ、自らのカップへと口を運んだ。
僕は母の横顔を見てから、王妃様に問いかけた。
「リュシア様と母さんは、長い付き合いなんですか?」
「ええ、貴方のお父様よりよっぽどね。」
王妃様は、どこか誇らしげに微笑んで答えた。
「リュシア様、あまり昔の話は。」
母は少し困ったように遮る。
「あら、恥ずかしがらなくていいのよ?別に悪い噂なんて無かったのだから。
それを言うなら貴女の夫の方がよっぽどーー。」
「リュシア。」
短い呼びかけに、王妃がはっと息を止めた。
声の方向を見れば部屋の入口に
国王の姿があった。
「休息を勧める為に来てもらったのだ、あまり長居させるものではない。」
王の言葉は静かに嗜める様だった。
「そうね、そうよね。ごめんなさいねエリナ。またお話しましょ?カイル君も機会があればまたいらっしゃいね。」
「それではリュシア様、失礼致します。」
母はそう言って礼をとった。
手を振る王妃とこちらを見つめる国王、僕の頭に残ったのは口を付けられなかった母のカップだった。




