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晴れた日に、雨宿り

掲載日:2025/12/19

私の住んでいる町の片隅に、小さなバス停がある。

誰が置いたのか分からない棚がひとつあり、古びた本が並んでいる。

貸出の決まりも、記録帳もある。

まるで、小さな図書館だ。


私はそのバス停を使わない。

いつも前を通り過ぎるだけだった。

ただ、雨の日に本を開く人の姿だけが、なぜか記憶に残っていた。


放課後、急な雨に追われて、はじめてそこに駆け込んだ。

制服の袖が濡れ、息が白い。


棚の隅に置かれた貸出記録帳を、何となく開く。

ページをめくった瞬間、指が止まった。


見覚えのある名前。

もうこの町にはいない、あの人の名前だった。


胸の奥が、ひくりと鳴った。

棚から一冊の本を抜き取る。

ページをめくる音に、雨音が重なる。


最後のページに、鉛筆の文字が残っていた。

消えかけていて、はっきりとは読めない。


「……が、すきだ」


名前の部分だけが、薄く削られている。


心臓の音が、やけに大きく聞こえた。

呼ばれていないのに、返事をしてしまいそうだった。

本を閉じると、手のひらが少し湿っていた。


あのころ、じゃれ合って、からかい合って、笑い合っていた。

その時間だけが、雨の中から浮かび上がる。


鉛筆の跡は、今にも消えてしまいそうだった。

それでも確かに、そこにあった。


それから私は、晴れた日にもこのバス停に立ち寄る。

まるで、晴れた日に雨宿りをしているみたいに。


雨を待っているわけじゃない。

本を読むためでもない。


消えかけた文字が、まだ残っているか確かめてしまう。

それだけだ。


バス停の小さな図書館。

雨の日も、晴れの日も、

私はまだ、そこから離れられない。


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