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誰からも食べられずに捨てられたおからクッキーは異世界転生して肥満令嬢を幸福へ導く!  作者: ariya


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2/4

 彼の名前はおからクッキー。

 みての通りクッキーである。


 日本の一般家庭にダイエット用に買われた彼はそのまま家主の胃の中に入る予定だった。


 の、だが。


 存在を忘れさられて、1年経過した。


「うわー、さすがにもう食べられないね」


 家主は賞味期限を確認して、ポイっとゴミ箱へ。そのまま、ゴミ収集車に回収されて最期を迎えた。


 仮にも食べ物、誰かの胃を満たすために生まれてきたというのに誰にも食べられずに捨てられる。


 何という無念だろう。


 そう思っていたら、魂は神様に拾われた。


「やぁ、君の無念を聞いて協議の結果異世界転生させることにしたよ」


 な、何故?


 私はただのおからクッキーだぞ。



「それはおもしろ……いや、食べられずに廃棄されるフードロス問題の為に神もひとはだ脱ごうと考えてね」


 おい、一行目に本心見えたぞ。


「こほん、こほん。君はダイエット食品として作られた存在だ。君を必要としている令嬢がいる」


 神様が示す先に現れたのは日本と違う異世界に住む少女であった。ロザリンドである。


 なるほど、これは随分とふくよかな。


「彼女の為に君は異世界転生するのだ! 特典としてチート能力を授けよう」


 ただのクッキーにチート能力とは。


 家主が趣味で見ていた異世界転生アニメの定番の展開である。


 一体どんな。


 おからクッキーはごくりと喉を震わせた。

 喉は存在しないが。


「じゃじゃーん! 君には増殖とGLP1受容体作動を授けよう!!」


 増殖はわかる。

 GLP1受容体作動とは?


 聞いたことがないぞ。


「神様、ダメですよ。GLP1受容体作動効果なんて美容医療で問題になっているんですよ」


 後ろから現れた天使の言葉。


「ノー! あの令嬢を見たまえ。BMIは55を楽に超えて、耐糖能異常、脂質異常、血圧異常を引き起こしているじゃないか。間違いなく病的肥満! GLP1受容体作動薬を使うべき存在だ」


 だからGLP1てなんだい?


 全くおからクッキーの疑問に答えてくれない。


「さぁ、行くのだ。君を必要としている迷える令嬢を救うのが君の使命だ!」


 神様はそのままおからクッキーを異世界転生させる手続きをとった。


「全くしょうがない神様だ。ごめんよ、おからクッキー。神様の娯楽に付き合わせて」


 天使がいう。


 やっぱり面白目的だったか。


「お詫びに僕からもプレゼントをしよう」


 スッと取り出したのは複数の本だった。


「肥満症診療ガイドライン」

「運動療法大全」

「最新の栄養管理と食事指導」


 などなど。


「神様の健康管理のためにストックしていた僕の本棚の知識を君に叩きこむ。時間がないから無理やり物理で叩き込むよ」


 何でそんなものをストックしていたのか。

 もしかして神様はひまん……


「異世界転生!!」


 おからクッキーに最後まで言わさずに神様は叫んだ。同時に視界が急に開かれる。


 気づけばオーブンから取り出されて、日の光を浴びたおからクッキーは西洋ファンタジー風世界、異世界へと転生した。


 同じおからクッキーとして。


「そして君の部屋へと運ばれた」


 おからクッキーはことのあらましを語り終えた。


「君は私の存在を忘れては食っては寝て食っては寝ての日々」

「い、一応書類仕事はしていますのよ」

「途中でりんごパイをがつがつ食べて書類を片づけて! 手がベトベトになっているだろ。食べかすがかかるだろ。ベトベトにされる書類が可哀想だとは思わないのか!」


 怒りの方向は無機質な書類への同情から発せられている。


「もうダメだ。君の生活を根本から叩き直してやる!」


 おからクッキーは宣言した。


 そうして夜は更け朝が訪れる。


 窓からこぼれる朝の日差しにさそわれてロザリンドは起き上がった。


「うーん、のどがいがいがしますわ」


「あんなに食べて即寝たからね。ほら、ぬるま湯と胃薬だ」


 ベッド脇の机にておからクッキーは水が入ったコップを示した。

 薬の包も一緒に示されている。


「全く毎日の様子をみていたが朝にレモン水を飲むなんて馬鹿かね。胃酸が刺激されて悪化するだけだろうに」


 仕方ないやつだとおからクッキーはつぶやいた。


「な、なんですの。昨日のは夢じゃなくて」

「現実だ。受け入れろ!」


 受け入れたくても受け入れたくない現実。

 おからクッキーが喋るなんて頭がどうにかしてしまったと思われてしまう。


「まさか、ベスにこれを求めたのですか? おからクッキーが指示をだすなんて」


 今頃は屋敷は大騒動だろう。


「安心しろ。さすがに私でもわきまえている。君が寝た後に、書き置きをしておいたのだよ。それをベスが見えるように扉に挟んでおいた」


 真夜中心配したロザリンドの様子を見に来たベスは扉に挟まれている紙をみつけた。


 ぬるま湯と胃薬。


 それだけ書いたものにベスは朝方用意して部屋に置いてくれたのだ。


「紙をみてすぐに私の意図を組んでくれた。かしこい子だな」


 おからクッキーはメイドのベスを誉めた。


「もう、なんですのっ!」


 我慢ならないロザリンドはおからクッキーを鷲掴みして食べた。


 ごくごくとぬるま湯を飲んで、ぷはぁっと息を吐いた。


「これで悪魔は去りましたわ」


 おからクッキーは胃の中に。

 もう存在しない。


「食欲はあるようだな」


 ちょんと新たなおからクッキーが机の上に現れた。


「なんですの! 確かに食べたのに」

「ふっ、チート能力 増殖! これで私はいくらでも増殖できる。私を食べたからと言っても、また別の私が現れるだけだ」


 先程回想で語った神様が与えたチート能力である。

 そのままの通り増殖する。


「もういやぁ!!」


 ロザリンドは叫んだ。

 これは何かの悪夢かと。


「まだまだあるぞ。チート能力 GLP1受容体作動!」


 回想内ではわからなかったが、天使が力技で詰め込んだ知識で今ならわかる。


 存在しないはずの記憶が、おからクッキーの脳内を駆け巡った。


 GLP1。


 それは小腸から分泌されるホルモンのことである。その一部が血流にのり膵臓へ作用しインスリン分泌を促してくれる。


 これを補充する薬が、GLP1受容体作動薬であり糖尿病の薬である。


 また胃や脳にも作用して食欲低下、体重減少を引き起こすため痩せ薬としても利用される。


「う、うぅ」


 おからクッキーの説明中にロザリンドは苦しそうにしていた。


 GLP1受容体作動薬には副作用がある。


「ぎもぢわるいぃ」


 強い吐き気である。


「……」


 おからクッキーはそっとロザリンドの前に胃薬を差し出した。






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