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誰からも食べられずに捨てられたおからクッキーは異世界転生して肥満令嬢を幸福へ導く!  作者: ariya


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1/4

 ロザリンドは涙目で帰宅した。


 150kgの巨体をどすどすと足音たてて自室へと突進し、バタンと大きな音と共に扉は固く閉ざされる。


 はしたないと言いたいところだが、あまりの形相に使用人たちはどうしたのだろうとお互いの顔を見合わせた。


 同伴していたメイドのベスは困った表情であった。


 ここはトリファス国のヴァーレン伯爵家屋敷。

 先程の巨体を持つ令嬢はロザリンド=エヴァンジェリン・ヴァーレン、この家の一人娘である。


 彼女は今日の社交パーティーで婚約破棄されてしまったのだ。


 話は遡る。


 王宮のダンスホールに続く廊下で起きたことだ。


「ロザリンド=エヴァンジェリン・ヴァーレン! お前とは婚約破棄だ!」


 エスコートを直前ボイコットした婚約者、レオポルド・フォン・クラウゼヴィッツ王子であった。


 国王の第一王子、見目麗しの白馬の王子である。


「い、一体なぜ」


 突然の婚約破棄についていけないロザリンドは質問する。

 せめての慈悲だとレオポルドは笑った。


「お前が私の妃に相応しくないからだ! なんだ、その豚のような体はっ!?」


 人々の嘲笑が聞こえてくる。


 確かにロザリンドはお世辞にも痩せているとは言い辛い。


 恰幅の良すぎる肉付き、まるみのあるフォルム、そこいらの令嬢の腰の方が細くみえる太い手足、どこをどうみても肥満体型である。


「お前のような醜い豚にはうんざりだ!」


 くすくすと笑い声が響く中、現れたのは美しい令嬢である。


 セシリア・ド・モンテゾール。

 モンテゾール公爵家の愛娘であった。

 くびれた腰、豊満な胸をお淑やかなドレスに包み込む。華やかな金髪はきらびやかで黄金の蝶を思わせた。


「そして、セシリア・ド・モンテゾールを我が婚約者とする」


 わぁっと拍手が巻き起こる。


「いやぁ、めでたい」

「前々から疑問だったのです。あんな豚令嬢に妃が務まるのかと」


 ふるふると震えるロザリンドはなんとか声を出した。


「お待ちください。陛下は存じているのですか? 私たちの婚約は陛下が決めたもので、陛下への報告と正式な手続きが必要に」


 そもそも国王が国外へ外交に出ている間に発表する内容であろうか。


「うるさいぞ、豚!」


 レオポルドは一喝する。


「陛下には後日私が報告する。お前は書類にサインしていればよい。明日にでも届けてやる」


 そしてダンスホールへとレオポルドはセシリアを伴い消えてしまう。


「おやおや、何故ここに豚が?」

「逃げ出してしまったのよ。早く飼育員に連絡させましょう」


 貴族たちはロザリンドを一瞥してくすくすと笑った。


「所詮、辺境で剣を振るうしか脳のない脳筋伯爵の令嬢だ。土埃の匂いがひどくて堪らない」


 自分のことだけではなく父のことまで言われてロザリンドは涙を浮かべた。


 父は国の安寧の為今も辺境で戦っているのに。


 だが、今のロザリンドが何を言おうと笑われるだけだ。


 豚が騒いでいると。


 悔しくてロザリンドは王宮を出て、馬車に乗り込んだ。


 ◆◆◆


 そしてロザリンドは今、暴飲暴食に走っている。


 ロザリンドが肥満になったのにも経緯がある。



 伯爵家の一人娘、10歳で母を失い、母の代わりに屋敷をきりもりして、王太子の婚約者としての活動をしなければならなかった。

 ストレスはロザリンドの心を蝕み、彼女は食欲を満たすことでストレス解消としていた。


 父も、使用人もロザリンドを愛しており彼女が食べたいだけのものを与えた。


 ドレスが入らなくなっても父は気にすることなくオーダーメイドの発注をさせる。


 それにより完成したのがこの肥満体である。


 8年の蓄積、まだ10代でありながら150kgという体重を得てしまう。


 悲しむロザリンドを止めるものはいない。


 辛いことは甘いもので、美味しいもので忘れてしまおう。



「ストーップ!?」



 突然の叫び声にロザリンドは手を止めた。


 自室のいるのは自分だけのはず。


 メイドのベスには、新しいお菓子を運んでもらったらすぐに追い出した。


 声の方をみる。


 お菓子の中に埋もれていたひとつの皿。

 そこには一枚のクッキーだった。


 何だったか思い出す。


 領地では大豆栽培をしていて、大豆ソーセージや大豆チーズ(豆腐)を作っていた。


 大豆を栽培する変わり者の伯爵家から、大豆伯爵と揶揄するものもいる。


 その残り滓で、大量廃棄されるおからを有効利用できないかとロザリンドは料理人に保存携帯食を作らせていた。

 そのひとつがこのクッキーだ。


 味は悪くないのだが、日頃クリームたっぷりのケーキを食べているロザリンドには物足りず一枚だけ食べてもう一枚は残していたのだ。


「全く、せっかくまたおからクッキーに転生したのに食べられずに放置して、君の暴飲暴食をみるなんてもういい加減うんざりだ!」


 饒舌に不満を訴えるクッキーにロザリンドはくらりとめまいを覚えた。


「ああ、ついに私は幻聴が聞こえるようになったのね。心なしか胸が痛いわ。きっと天に召される時が来たのね」


 もう全てを終わらせたいロザリンドは祈りを捧げた。


「ちょっと勝手に人生終わりにしないで! 君の胸の痛みは逆流性食道炎だ。とりあえず食べるのをやめたまえ」


 クッキーはぴょんぴょんと跳ねて叫んだ。


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