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MARS☆IDOL ☆赤い星のシンフォニー☆  作者: 南蛇井


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8/16

合格通知と真実

午後四時を少し過ぎた、白く冷たい廊下。


新宿軌道センターの帰路用コンコースを、三人は無言で歩く。

壁に取り付けられたスクリーンには、淡く点滅する文字が映る。


――「NEXT LAUNCH:T-48:00」


金属製の床に、足音が規則正しく反響する。

その音は、廊下の無機質さを際立たせ、どこまでも冷たく伸びていった。


三人の影が、白い光の中で細く揺れる。

言葉はない。心臓の鼓動だけが、かすかに自分たちの存在を告げていた。


廊下の静寂を破ったのは、涼子の端末だった。

小さく振動し、淡い青いホログラムが彼女の手元に浮かぶ。


画面には一行だけ。

件名:「合格通知/火星渡航プログラム」

差出人:Minerva Enterprises

本文:


『あなたのステージは、赤い星です。』


たった一文。

それだけで、地球上のどんな“合格通知”よりも重く、胸にのしかかる。


涼子は立ち止まり、画面を見つめた。

指先がわずかに震み、息を呑む。


「……火星? 本当に?」


思わず漏れた声に、玲美と香菜も慌てて端末を取り出す。

ほぼ同時に、二人の画面にも同じ通知が表示されていた。


玲美は即座に顔をしかめ、端末を乱暴に閉じた。

「ふざけてる。こんなSFじみた話、信じろっての?」

舌打ち混じりの声が、冷たい金属の廊下に響く。


一方で、香菜は一歩遅れて画面を覗き込み、

まるで宝箱を開けた子どものように瞳を輝かせた。

「でも……本当に行けるのかもしれませんよ? 火星。

 ね、見てください。“渡航日程:48時間後”って……!」


玲美は冷ややかに笑う。

「行ける? いや、“帰ってこれる”とは書いてないでしょ。」


香菜は一瞬、言葉を詰まらせたが、

それでも笑みを崩さずに小さく呟いた。

「……でも、ちょっとワクワクしますね……!」


玲美は呆れたように息を吐き、視線を逸らす。

その横で、涼子だけが黙って立ち尽くしていた。


ホログラムに浮かぶ赤い文字。

――「あなたのステージは、赤い星です。」


その光が、まるで未来の火種のように、

涼子の瞳の奥で静かに揺れていた。





――“夢を追うって、こういうことだったんだ。

足元の現実を離れて、文字通り“星”へ行くなんて。”


涼子の胸の奥で、何かが静かに震えた。

恐怖とも、興奮ともつかない感情が、

冷たい空気の中で脈を打つ。


それは理屈でも勇気でもない。

ただ、心の奥で“赤い光”が灯るような感覚だった。


ふと顔を上げる。

白い廊下の先、天井のガラス越しに、

昼間の空にひとつ――

淡く、しかし確かに赤い星が浮かんでいた。


その瞬間、彼女の中で何かが動き出した。

それは“希望”でも“覚悟”でもない。


――ただ、もう一度“歌いたい”という衝動だった。



三人の端末が、ほぼ同時に淡い光を放った。

青白い廊下の空気が、赤い文字に染まる。


ディスプレイの下部に、新たな通知が浮かび上がる。


《MARS TRANSIT AUTHORIZATION — BOARDING INSTRUCTION SOON》


玲美が眉をひそめ、香菜が息を呑む。

涼子は、ただその光を見つめていた。


赤い文字が、まるで血潮のように彼女たちの瞳を照らす。

その瞬間――廊下の照明が、ふっと赤へと切り替わった。


床に伸びた三人の影が、ゆっくりと揺れる。

そして、まるで何かに導かれるように――

その影は、静かに“地球”から離れ始めた。


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