三人の歌――「Red Line」
イントロの最初の一打が、
涼子の指先から火花のように広場へ放たれた。
その刹那――
セラ広場に集まった数百の市民たちが、
まるで無意識に、同じタイミングで息を吸った。
火星の薄い空気が、
ステージの上と広場の地面を結ぶ一本の見えない糸を震わせる。
■Red Line――境界を越える歌
玲美が一歩、前に出る。
喉が震える。
しかしその震えは、恐れではなく“決意”そのものだった。
この曲は、彼女たち自身の物語だ。
かつて火星の若者たちが抱えた不安。
「ここにいていいのか」「夢はこの赤い大地に似合うのか」
そんな問いに、踏み越える答えを与えるために作られた歌。
――赤い境界線を越える。
ここに立つ自分を、誰にも奪わせない。
玲美の声が、広場の空を震わせる。
イオンが重ねるコーラスは透明な刃のようで、
涼子のギターがその刃を導く軌跡を描く。
■世界へ広がる音
音は、壁を、国境を、惑星すら越えていく。
広場 → ミネルヴァ市 → 火星都市圏 → 宇宙中継 → 地球
制御を失った放射のように、
どの端末にも“火星の赤い音”が飛び込んでいく。
■分割される画面(多視点描写)
◆ 鉱山労働者
金属の削れる轟音が響く採掘現場で、
ヘルメットの通信機から突然流れ出した歌声に、
フォークを持つ手が止まる。
赤土のトンネルが静まり返る。
◆ 地球の教室
早朝、まだ薄暗い。
地理の授業を待つ子どもが、
古びた端末の通知に気づき、
画面に映る“火星の三人”に目を奪われる。
◆ 火星農場の女性作業者
ドームの内側で育つ青い作物の間を歩きながら、
ふと天井の透明パネル越しに空を見上げる。
歌が――まるで陽光のように降っていた。
◆ 宇宙船パイロット
リング軌道を巡航中。
計器の上に置いた指が、
音に吸い寄せられるように止まり、
無重力の空間にただ、歌だけが響く。
■境界が溶ける
歌が届いた場所では、
火星育ちも、地球生まれも関係なく、
人々の胸の奥に同じ震えが生まれていた。
“境界線は、ただの線だ。
越えたいと思えば、越えられる。”
Red Line のサビが、
広場から宇宙へ、そして地球へ。
すべての心へ染み込んでいく。
火星の赤い大地が、
いま――世界中に響きわたっていた。




