世界への解放配信
ステージ上の音が戻ったその瞬間――
広場の背後にそびえる通信塔のアンテナ群が、
まるで何かに呼応するように一斉に光を灯した。
管制解除。
それは、火星の空気が震えるほどの巨大な変化だった。
■火星全域へ――“赤い音”の奔流
解除信号が回線制御層をすべて通過すると、
セラ広場で鳴り始めたばかりの音が、
都市圏へ
外縁コロニーへ
地下採掘層へ
極地研究区へ
眩しい速度でストリーミングを駆け巡った。
職場の休憩室にいた人々が、
搬送車のドライバーが、
医療ドームの患者が――
それぞれの端末に突然、
赤い砂塵を背景にしたライブ映像が流れ込む。
「……これ、ミネルヴァのライブじゃないか?」
「止められたはずじゃ……」
「違う、戻ってる――戻ってきてる!」
■波及――地球へ、そして宇宙へ
火星衛星軌道上の中継システムが、
その膨大なデータ流を受け、
自動的に地球ネットワークへ転送を開始する。
わずか数秒。
地球の夜明け前の街角。
大型スクリーンに火星の赤い光が映し出される。
低軌道宇宙船のメスホール。
仕事を終えた乗員が、喧騒の中でふと画面を見上げる。
研究所のキッズルーム。
眠れずにいた子どもたちが、
机上の小さな端末に流れ込む歌の気配に顔を上げる。
誰もが言葉を忘れる。
“火星からの音”が――
いま、自分たちに届いている。
■広場は、世界の中心になる
セラ広場を包む空気は、
さっきまでの混乱とはまるで別物だった。
ざわめきも恐れも、
検閲の影も、
すべてがひとつの光の下に溶け落ちていく。
玲美・涼子・イオンの立つステージが、
火星全体が見守る舞台へ。
同時に、
赤い空の下の小さな広場は、
地球すら巻き込む“世界の中心”へと変貌していた。




