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MARS☆IDOL ☆赤い星のシンフォニー☆  作者: 南蛇井


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静寂に沈む広場――“音の断絶”

イントロが始まろうとした瞬間だった。


巨大スクリーンが、まるで誰かが息を飲むような「パチッ」という小さな音を残し、闇に沈んだ。

同時に音声ラインが一斉に落ち、ステージの周囲にあった全てのスピーカーが、瞬く間に“死んだ装置”のように沈黙する。


次の一秒、広場の上空にかすかに浮いていた残響すら、

金属フレームや照明タワーに吸い込まれて消えた。


――音が、世界から抜け落ちた。


火星の薄い大気はもともと静かだ。

しかし今の沈黙は、自然のそれではなかった。

広場そのものの“呼吸”が止まったかのような、不自然な真空だった。


ざわ……。


最初に声を漏らしたのは、舞台の手前で機材ケースを抱えていた技術者だった。

続いて、酸素タンクを持った補助スタッフ、子ども、医療班――

数百の視線が上を泳ぎ、疑念が波紋のように広がっていく。


「え……止まった?」

「故障?」

「いや……違う。これは……」

「規制だ……またかよ……」


期待に満ちた表情が、一人また一人と色を失い、

不安と恐れがゆっくりと広場を覆っていく。


ステージの上。

照明だけが、三人を切り取ったように照らしていた。


玲美は、ちょうど歌い出すために吸い込んだ息を、宙に残したまま固まっていた。

その息は行き場をなくし、胸の内で重く滞る。

ほんの一瞬、――声を失ったあの日の感覚がよぎった。


イオンはヘッドセットに触れる。

反応はない。ただ、自分の心拍だけが耳の奥で不自然なほど大きく響く。

彼は眉をわずかに寄せ、ステージの縁へ視線を送った。


そして――涼子。

ギターの弦に触れていた指先がぴたりと止まり、

音を失った広場を見渡しながら、ほとんど呟きにも満たない声を洩らす。


「……届かないの?」


その言葉だけが、無音の空気に“生きて”響いた。

広場で唯一の、確かな声だった。


その瞬間、遠くの運用システム塔。

上部に設置された警告灯が、赤く、ゆっくりと点滅を始める。


赤光が塔の金属外壁を染め、

広場へ鋭い影を刻む。


それはまるで――

「ここから先は禁じられている」と告げる刃。


誰も口にはしなかった。

しかし広場にいた全員が理解した。


“当局が切った”。


火星の夜が、冷たく締めつけてくるようだった。

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