ラウンド5:現代におけるチートの意味
(照明が穏やかな白と金に切り替わり、スクリーンには「Cheat in Our Time(現代のチートとは)」の文字が浮かぶ)
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あすか(ゆっくり、落ち着いた声で):
「これが、最後のラウンド。
テーマは――現代におけるチートの意味です。」
(観客席を見渡すように)
あすか:
「現代は不安の時代とも言われます。格差、戦争、災害、SNS、AI――
多くの人が“普通の努力ではもう報われない”と感じ、
何か特別な力=“チート”を求めるようになっているように見えます。」
(少し沈黙し、対談者に目を向ける)
あすか:
「でも、もし“チート”が希望であると同時に、依存の始まりだとしたら…?
この時代に、“強く生きる”とはどういうことか――皆さんにお聞きしたいと思います。」
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テスラ(真剣な表情で):
「現代は、情報が溢れ、速度が支配する時代だ。
だから人々は“簡単な力”に惹かれる。“ワンクリックで変われる魔法”を。」
(間を置いて)
テスラ:
「私はそれを否定しない。
でも――本当に変えるのは、“想像力”と“選択”だ。
チートは、その選択肢を増やす技術に過ぎない。」
ナポレオン(少し皮肉を込めて):
「“選択肢”が増えるのはいい。だが、それで人はより幸福になったか?」
テスラ:
「選択肢を“持つこと”と、“選び取る力”は別物だ。
その差を埋めるのが、教育と対話と、希望だ。」
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ナポレオン(低く語る):
「人がチートを望むのは、不安からだ。
この時代は混沌としている。自由を与えられたが、導く力を失っている。
だからこそ、人々は“特別な力”にすがる。導いてくれる誰かを欲している。」
(鋭く続ける)
ナポレオン:
「私が生きていれば…この時代は、もっと秩序を求めるはずだ。
チートではなく、“責任と指導力”こそが必要だ。」
神功皇后(静かに):
「では、あなたは“導く者”に選ばれぬ者たちを、見捨てるのですか?」
ナポレオン(一瞬言葉を止め):
「…見捨てはしない。
だが、全員が特別にはなれない。
その現実を、受け入れる覚悟は必要だ。」
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神功皇后(落ち着いた声で):
「現代における“チート”は、傷ついた心が求める救いでもあると思います。
無力さ、報われなさ、疎外感――そうした想いに、チートという物語が答えている。」
(少し笑みを浮かべ)
神功皇后:
「私は、与えられた力がすべてを解決するとは思いません。
でも、“誰かに手を差し伸べられた”という記憶は、
人がもう一度立ち上がる力になる。」
テスラ(頷き):
「そのとおりだ。
力そのものより、“力を与えられたという信頼”が、人を変えるんだ。」
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(ニーチェは黙って聞いていたが、ふっと微笑んで)
ニーチェ:
「やはり、君たちは優しい。
だが――私は問いたい。
“救われたい”という願いは、いつまで“他者任せ”なのか。」
(全員が静かに注目する)
ニーチェ:
「現代人は、チートを求める。
だが、それが自らの内にあると信じたことが、一度でもあったか?
世界のせい、時代のせい、運命のせい。
だが――“自分を変える力”を最初から持っていると、なぜ信じぬ?」
あすか(小さくつぶやく):
「……それが、あなたの“超人”ですね。」
ニーチェ(静かに):
「そうだ。“他者の力”ではなく、“自己超克”。
それは、誰にでも開かれている唯一の“真のチート”だ。」
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あすか(ゆっくり立ち上がって):
「皆さん、ありがとうございました。
チートは“ズル”でも、“救い”でも、“発明”でも、“警鐘”でもある。
でも最後に残るのは――“それをどう使い、どう向き合うか”。」
(会場を見渡し、少し微笑む)
あすか:
「たとえ特別な力が与えられなくても、
自分の物語を、最後まで書き続けることこそが、私たちの“力”かもしれませんね。」
(照明がゆっくり落ちていく。幕が降りるような静けさ)