飴玉
三題噺もどき―ろっぴゃくじゅうなな。
※今日の蝙蝠くんはショートケーキが上手くいってテンションが高いです※
「……」
パソコン画面とにらめっこをしながら、仕事をしていた。
ああでもないこうでもないと頭をひねるのは嫌いではないが、疲労はたまる。
そうそう集中が切れることもないのだが、長く続かないことだってある。
「……」
外はまた雨が降っているのか、窓を叩く音が聞こえる。
時計の針の音も聞こえ始め、なんとなく集中が切れ始めていることを悟る。
こういう時に、簡単に気分転換且つ糖分摂取が出来るようにと、机の上に飴玉が常備されている。大抵は決まったものだが、たまに変わり種が入っていることがある。
「……ん」
適当に手に取ったそれは、いつもの果物系のモノではなかった。
まず袋の形状が違うことに気づき、何だろうとくらい部屋の中で眺めてみると、サイダーの飴のようだった。
自分で買った記憶はないので、アイツが買っていつの間にか入れたんだろう。
「……」
袋を手で切り、何とはなしに口の中に放り込む。
その瞬間に、ぱち―と口の中で何かが弾け、痺れるような感覚になった。
「……」
何事かと一瞬驚きはしたが、炭酸のようなものだと分かれば吐き出しまではしない。
―初めてあれをのんだときの感覚を思い出した。炭酸を口に含んだときの弾ける感覚と痺れるような感覚が、どうにも毒薬を口に含んだときと似通っていたことがあって始めは受け入れられなかったものだ……。
「……」
もしかしたら、今炭酸に毒薬でも混ぜられていたら気づかないかもしれないな。まぁ、そんなもので死ぬような体質ではなくなったが。
ありとあらゆる毒に耐性がつくように慣らされていた地獄のような日々のおかげで。ただまぁ、効かないだけで、食感というか……感覚としてはあるので、慣れたところでという感じではあるんだが。
「……」
からからと口の中で転がる飴玉の音が耳に響く。
ちなみにアイツは飴玉を舐めずに、噛むタイプなのでこういう音ではないと思う。
もっと、ゴリガリという感じかもしれない。可愛げのないことだ。……飴の食べ方に可愛げも何もないだろうけど。
「……」
口の中でもてあそびながら、マウスを動かしたりキーボードを叩いたり。
飴玉の音が聞こえなくなったころには、雨音も聞こえなくなり、秒針の音も聞こえなくなり。
戻り始めた集中のなかで、またパソコン画面とのにらめっこが始まっている。
「……」
ブルーライトカット加工がされた眼鏡がズレるのもお構いなしに。
こんなんだから、意味もなく疲れるんだろうな……乾燥まですることは早々ないが、集中すると瞬きも忘れるのはよくないんだろうな。
「……」
「……」
「……」
「ご主人」
「……ん」
またノックもなしに……コイツはいつになったらノックを覚えるのだ。
今に始まったことじゃないし、直接言うことももうあきらめたが、いい加減に覚えてもらいたいものだ。主人の仕事の邪魔をする従者なんてそうそういないだろ。
「休憩です」
「ん……あぁ、分かった」
そういわれ、時計を見ると、いつもの休憩の時間になっていた。
集中すると時間が見えなくなるのも考えようだな……。もう癖のようになっているから治しようがないんだけれど。視界に入る所に電子時計でも置くかな……それはそれで邪魔になって別のところに置きそうだけど。
「お湯を沸かしてきます」
「っくぁ――」
軽く伸びをしながら、立ち上がる。
キッチンへと戻ったその背中を追いかけるように廊下を進む。
今日はやけに甘い匂いが立ち込めているな。
「……」
リビングに入ると、机の上にはすでに置かれていた。
三角形に切られた、1ピースのケーキ。表面を白いクリームで覆っており、上部には飾りの苺が乗っている。断面にもきちんと、苺が並んでいた。
……ショートケーキまで作り始めたのかコイツ。
「コーヒーでいいですか」
「あぁ、いただこう」
この調子だと、どこまでお菓子作りを極めるのか逆に気になってきた。
密かにバレンタインとやらを期待しておくかな。
「そういえば昨日は節分というものだったそうですよ」
「なんだったか……豆をまくやつか?」
「今日の夕食は恵方巻にでもしましょうかね」
「一応我々は鬼側じゃないのか……?」
「材料はあるので、自分で巻きますか?」
「……なんでお前人の話聞いてないんだ?」
お題:毒薬・雨・ショートケーキ