魔女と人形使いとパンケーキ
「信用度C判定っ?!」
あたしは目を疑った。メーリク市冒険者ギルドの掲示板に、ばーんっと張り出されてる!
C以下は張り出されるけど、あたしが・・この4級魔法使いエニィプルが・・
ちなみに、Aは善良。Bは普通。Cは微妙。Dは胡散臭い。Eは賞金首。だね。まぁどれだけギルドに証拠掴まれるか、ってのもあるけどさ。
「この間のトンズラ事件を機会にこれまでの所業を精査した結果ですぅ。エニィプルさん、逃げ癖ありますよねぇ?」
「うっ」
仕方がない。杖は壊れちゃってるし、当分バトル系の仕事は懲り懲りだったから、楽チンで信用度も上がりそうな仕事を職員のポヨヨに探してもらうことにした。
「バトルや魔法以外で何だったらできるんですぅ?」
「いや、杖無しでも魔法は一応使えるけど。えーと・・パンケーキ作るの得意、かな? ハハ」
魔法使いスクール生の時、スクールのカフェでバイトしてたから。
苦し紛れに言っただけだったけど、最長1ヶ月、午前9時半にブランチにパンケーキを作りにゆく仕事があった。
普通の家事手伝いでもできそうなもんだけど、相手は3級人形使い職で気難しいらしい。
でも楽チンだ。午後から溜まってる魔法書読みまくれそうだし、全然提出してない活動レポートをギルドに提出して心象アップ狙えそう! ウッシッシッ。
「人形使いのエルフねぇ。何か、根暗そう」
ダンジョン内では魔力効率が悪いのと高度な操作は難しいのとわりと遅かったりするから、意外と使う機会の少ない飛行箒に乗って相手の家に向かう。メーリク市の外れだった。
どうなんだろ? 時期によっては人形使いスクールの講師もやってるって言うけど、人形使いって少ないし、あたし、別の街のギルド出身だからピンと来なかった。
「イラッシャイマセ、えにぃぷる様デスネ。ドウゾ中ヘ。さーろい様ガ御待チデス」
お出迎えは小型ゴーレムだった。
「こりゃどうも! 失礼しまーす」
入ると、めちゃ神経質そうな年齢不詳なエルフが腕を組んで待ち構えていたっ。3級人形使いサーロイだ。
「遅いっ! 2分26秒遅刻だっ」
「ええ?」
早めに出発して余裕かと思って油断したっ。
「すいませーん・・以後気を付けます」
「そんな事だからC判定なのだ!」
酷っ。
「まぁいい! 私はサーロイ。エニィプル。ブランチだっ。私は日に2度しか食事しない。飢え死にしたら何とする?!」
癖強っ。
「はいはい」
「返事は1回だっ」
「はい・・」
ダイニングの奥が即広々した作業場で何かゴーレムを造ってるらしかった。
横目で見つつ、キッチンに向かう。作業場以外は小ぢんまりしていて普通の家みたい。小型ゴーレムが片付けるらしく、特に散らかってもいなくて、あたし必要? って感じもした。
材料は買い足しして経費を請求できる契約だったけど、基本材料は保冷箱の中に揃ってた。
無難にパンケーキ、ハムエッグ、サラダ、ヨーグルト入りフルーツジュース、炒り豆茶を作った。
「どうぞ」
「頂こう」
きっちりしてるけど食前の祈りとかはショートカットしてテキパキと作業的に食事を取る。ブランチだから量は多めしたけど、初見で加減はわからない。
それにしても知らないエルフの食事をゴーレムと一緒に側に立って見てる、っていうのも奇妙だな、と。
程無くサーロイは食べ終わった。綺麗に完食。
「悪くない」
褒められたのかな? とにかく初日は食器や調理器具を片付け、帰宅した。
2日目は早めに出て、途中で懐中時計や近く時計塔で時間も確認した。
「遅刻してないな。評価する!」
「どうも」
「今日の玉子はベーコンスクランブルエッグにしてみました」
「頂こう」
礼によってテキパキと無言で完食。結婚できなさそう。
「悪くない」
2日目も変わらない評価だった。
それから3日目、5日目、8日目と、あたしは飛行箒で通い続けた。雨の日は合羽を着てディフェンドの魔法を斜め上に張って、風の強い日は飛行箒は諦めて乗り合い馬車とクィックの魔法で加速してめちゃ走って通った。
玉子以外はフルーツの種類が変わるくらいだから、あたしはパンケーキよりむしろ玉子料理に凝った。
多少会話できる家事ゴーレムの話によれば、サーロイの夕飯はワインとパン数切れと酢漬けの魚と酢漬けの玉葱だけらしい。
ほぼブランチだけで生きてるぞコイツ!
栄養取らせようとレシピ本を参考に〇〇風オムレツの類いからイケそうなのを片っ端が作ってやったりしたねっ。ふん!
まぁ何作っても完食して「悪くない」としか言わないけど・・
そんなある日、
ぐぅ~っ、あたしのお腹が鳴った。
昨日、積んでた魔法書の中に好きな作者のヤツがあって、夢中で夜更かししちゃって寝坊して朝食取れてなかったっ。
「あ、失礼しました」
「朝食を食べていないのか?」
「ええ、まぁ」
「クッキーとレーズンと茶ぐらいはある。食べたらいい」
「ドウゾ」
「あ、ども。頂きます・・」
サーロイとゴーレムに進められるまま、食卓の端に座って、モソモソとクッキーとレーズンとお茶を頂いた。至って普通のヤツだ。
「それは何を作ってるんですか?」
段々完成はしているらしい家事用よりゴツいというか形状も違うゴーレム見て、何となく聞いてみた。間が持たん。
「損耗し易い4階補修作業用の小型ゴーレムだ。性能は従来型と変わらないが、コストを押さえてみている。今のギルドの予算でも投入数を1割増やせるはず」
「ああ~」
量産する元になるヤツかぁ。
「君の仲間も各拠点のコンディションが良ければ半死半生で救助されるハメにならなかったろう」
急に、その話する?
「でしょうね」
せっかく食卓に着けたのに、嫌われてんのかな?
「・・他人行儀に受け答える」
「いや、まぁ」
「エニィプル。関係性は行動の積み重ねだ。邪心があればやがて辻褄を合わせる為により悪事を重ねることになる」
酷いっ。
「あたし、そこまで悪くないです。治療費カンパしたし」
「バツが悪いから会ってないんだろう?」
「・・もっと上手くやると思ってたし、あんなの事故じゃないですか」
「配慮が無ければ、甲斐の無いヤツと判断されるんじゃないか? 無駄に誤解されないのも実力だ」
そんな急に正論っっ。あたしは席から立ち上がった。
「自分は人形と暮らしてるだけじゃないですか?! 今日はもう帰ります!」
「エニィプル」
「何ですかっ?」
「パンケーキの蜜、メープルシロップはそろそろ飽きたな」
「命令ですね? 明日変えますよっ。雇われてるんでっ、人形みたいに従いますよ!」
あたしは捨て台詞を吐いてサーロイの家を飛び出した。
「最悪っ」
ウワバミの巾着から出した飛行箒に飛び乗ってあたしは泣いた。
暫く、東の時計塔の上で涙が止まるのを待って、近くの倉庫街の店で大盛りパスタを平らげてから、飛行箒で旧葡萄園に向かった。
馬鹿にされたくないしっ。
「モリモッサ!」
八つ当たり気味に石垣用の材料らしいのを大量に荷車で運んでいたモリモッサに呼び掛けて近くまで飛行箒を降下させる。
「お、エニィプルか! 久し振りマッスルっ!」
「あ~、マッスルね。え~と・・」
「ん?」
「葡萄ジャムある?」
「売店だ。B級以上はもう今年の分は売れてしまったが、ヒラメ筋の話ではC級品ならまだある」
またC級。
「あ、そ。・・まぁ、その」
具合悪いなぁ。
「デシカーノか? 今日はまだいるはずだが、アイツは俺より器用だからな。重宝がられてる。農園のどこかで作業はしていると思うが、今どこにいるかはわからないぞ?」
「わかった。ありがと」
あたしは売店で葡萄ジャムを買った。途中、それとなく居るらしいデシカーノを空から探したけど、見付からなかった。
仕方無いからまた飛行箒で飛び上がる。
「あ~あ。何かつまんないな、 普通の学校に進学しとけばよかったかも? あっ」
モリモッサの所から、行きは通らなかった倉庫街の方への丘の葡萄棚の上に作業着のデシカーノがいた。棚の補修をしていた。
「よ、よお。元気かぁ~?」
「こっちの台詞。・・杖、壊れちゃったからさ」
ホント、壊れちゃったし。あたし、杖依存で魔法使うタイプだしっ。
「おおぉ」
変な間が空いた。傷はすっかりいいらしいけど、やっぱちょっと痩せた気がする。エナジードレイン連発されたらしいもんね。
「・・今度、ギモーヴでも差し入れするよ」
「悪ぃなぁ」
「じゃ」
素早く飛行箒を反転させて背を向け、上昇してく。
「気にすんなよぉ~」
「くっっ」
人が好いんだよっ。
・・・翌日。
「はい、パンケーキ葡萄ジャムソース掛けです」
「頂こう」
知らん顔で食べだすサーロイ。
「モリモッサの葡萄園のです」
「悪くない。新しい人形も直に完成する。早く終わっても規定の給金は支払うから安心するといい」
お払い箱? 保証する、って言っただけ? またモヤモヤして、口を開いてしまった。
「・・私、別に普通だと思うんですよ。周りがお人好し過ぎるっていうか。4級にしたら腕利きみたいな人ばっかしだし、それと比べて評価が下がるって不当じゃないですか?」
「ゴマメだと不貞腐れるなら、さっさと杖を買い換えて、魔法を高めるんだな。魔法使いが自由になるには、知の奥義に近付くしかない。きっと、どの職業でも違う形でそんな物じゃないか? 私も」
食事の手を止めて、昨日より仕上がってる感じがするゴーレムを振り返るサーロイ。
「その繰り返しをしている」
エルフだから歳がよくわからないけど、長く生きてる顔でそう言った。
あたしはさすがに反抗期って歳じゃない。明日から無駄に噛み付くのをやめようと思った。
10日後。
「どうだ?」
完成した4階作業ゴーレムは酷い猫背で、メイン腕以外に作業別の腕を何本も出してワサワサ動かせて、整備しやすい様にあちこち身体がパカパカ開くしようだった。
全体的に甲殻類系・・
「動きと見た目がキモいです」
「ハハハッ! エニィプル。機能美とはそんな物さっ」
初めて、ってくらいサーロイは笑っていた。
「オツカレサマデシタ。オ友達ノ口ニ合ウトイイデスネ」
「うん、じゃね。御主人が飢え死にしないよう、たまに様子見に来るから」
「オヤオヤ」
あたしは渡せずじまいだったギモーヴを入れた紙袋を持って飛行箒に乗って、まだ働いてるらしい旧葡萄園へと飛んだ。
で、後日。
「はい、エニィプルさん。今日から信用度C+ですよぉ? 掲示板に張り出しときますねぇ?」
「・・そりゃどうも」
レポート? 作業ゴーレム造ってる講師の世話を焼いたから?
あたしの信用度はちょっと回復した。まだ張り出さられるレベルだけどっ。
「よしっ、何か楽チンで感じいいパーティー構成でお金儲かってチヤホヤされる仕事ないかな、と!」
掲示板を確認したあたしは、サーロイの報酬で買った新しい+1の杖を手に、冒険者活動の本格再開を始めたんだ。




