灰婦人の怪 後編
おおぅ、野外劇場の様な客席の一角を粉砕して、ドラゴワームは腹等を八つ裂きにされて倒されていた。
眷属のブラックドッグ十数体の叩き潰された遺骸が散らばってる。消し炭とも煙ともつかない物になって消えてゆこうとしているぜぇ。
生き残りのブラックドッグも2体。1体は前肢を1本欠損し、瀕死。
そして、俺を一本釣りしやがってふ灰婦人は石の舞台上にいたぜぇ。大きく歪な鎌と一体になった鎖を引いてる。アレが最大の武器。
まともにやって勝てねぇし、リーチも異常。探知能力も高いんだろうなぁ。
スキル潜行、無しじゃ、距離を取ってもキツい。潜行がどれだけ通用すんのか? って話でもあるがよぉ。
加速視覚は長く持たない。他の情報を整理する。棲み処の諸々の配置、ドラゴワームの遺体の状態、途中のちょうどいい位置の硬い障害物! 草地の平坦な足場っ。
後はヨモギの魔法式の癖だ。ヨモギは教科書通り普通の魔法行使しかしない。魔法は普通。魔法式も普通・・
目の負荷がそろそろキツいからもう1回だけ頭の中でシュミレーションして、加速視覚を切る。
「っ!」
タイミングと方向を間違えないっ、俺はフルパワーで両足のフロッグシューズの底で草地の地面を蹴り付ける。
ディフェンドの障壁は特に指定が無い限り、被行使者の行動が優先される。
この場合、魔法障壁は俺の全身より両足の保護を優先して集約されるっ。
ドォッ!
大砲の弾でも炸裂したような音を立てて湿った草地が跳ね、引っ張られる勢いが落ち、鎖が弛み、俺は跳ねたぁ!
衝撃と集約で身体を守っていた障壁は一時弱体化したが、鎖が弛んだっ。
「んがっっ」
こっからだぁ! 俺は宙身を捻って遺跡の大きな破片にわざと自分をブツけにゆくっ。ディフェンドがなかったら頭オカシイ所だが、まだ足りないぃっ。
ゴッ!
激突の瞬間、魔法障壁の自動ガードで防いでまた弾かれ、勢いがさらに落ち、軌道が変わって鎖の緩みも維持された。
削れた魔法障壁はほぼ残ってない。もう1発!
「ぎっ!」
さらに身を捻って、ドラゴワームに破られた壁面の崩れた角にわざとぶつける。
バリィッ!
魔法障壁を全て破られながら、俺は続けて緩んだ鎖と落ちた速度の中、遺跡の劇場の中へと放り出されたぁ。
悪足掻きと見たらしい灰婦人は余裕の笑みを浮かべて緩んだ鎖を引き締め直しに掛かった。甘いぜぇっ。
俺は身を捻って向きと勢いを制御しながらスキル関節外し、でボギボキッと細くなって鰻のように狭まる鎖の包囲から抜け出した!
抜けると即、スキル、関節戻し、で元に戻ると、スキル転身受け身、で着地っ。
そのまま転がって前肢が欠損しているブラックドッグに迫り、咄嗟に怯んだ陰の中に光る両目にスィッチ入れ済みの癇癪ボムを1つ投げ込んでやったぁ。
パァンッ!
頭部を炸裂させ1体仕止めた。
「ガァウッ」
すかさず鳴き声は犬その物の無傷の方のブラックドッグが突進してきたっ。
灰婦人の方は俺が軌道を何度も変えた上にすっぽ抜けたせいで、鎖の長さや位置の調整に手間取っている。よしぃ。
俺は甘めの速度でブラックドッグの左右と足元に鋼のチャクラムを投げ付け、これに単純に真っ直ぐ跳んで避けたブラックドッグ。
「ふぅっ」
俺はより高く飛び付いてショートソード+1でスキル紅独楽の回転斬りを放って首を跳ね、仕止めた! 犬は片付いたぜぇ。
「・・ブリザード」
着地点に向かって吹雪を放ってくる灰婦人。資料通りぃっ、ちょこまか動く相手に対して灰婦人はこの魔法を多用する!
確かに範囲攻撃だがよ、ブリザードは火力は低くそんなに速い魔法でもない。
俺はスキル高速転身で素早く転がって、迷わずドラゴワームの遺骸の内臓に飛び込んだぁっ。
まだ温かいけど、くっさぁ~っっ。体液も目に沁みるっ。毒は持ってないが、絶対有害だぁ。早速あちこちチクチクしてきたぁっ!
吹雪は防げても灰婦人の探知力は高い、嘲笑ってるだろう。内臓の凍結は止んだ。
直ぐに正確な分銅か鎌の攻撃がくるはず。距離、分銅ではなく攻撃面の広い鎌で来た場合。
諸々考慮してタイミングを計り、内臓の中を傷口に沿って転身し、ドラゴワームのちょうど外骨格が重なった部位の裏に回るっ。
ガリィッ!
鎌だぁっ。正確に、ギリギリ回避行動に合わせて軌道も変えてきたが、外骨格に当たってズラされた。頑丈ぅ! 死骸は柔い腹ばかり損傷してたしなぁ。
俺は別の傷口から高速転身で飛び出すと、起き上がり様に光り玉を1つ投げ付け、炸裂させて閃光で灰婦人を怯ませる。
「ひぃぃっっ」
このままトンズラしたいけどまず逃げ切れない。ほぼ万全の灰婦人に今以上の好機も無い。もう一段詰めるぜぇっ。
「よっ、ほっ、ほっ!」
一応、その場から飛び退いていい角度に移動しつつ、テンポ良く、霊木の灰、聖水、癇癪ボム2つを続けて投げ付けるぅっ。
浄めの霊木の灰で全身を焼き、聖水で頭部と胴を中心に浄化の炎で炎上させ、実体がハッキリした所で両腕を癇癪ボムで吹き飛ばすっ。
これで鎖鎌は使えないぃっ。
「イィイーーーッッ!!! ブリザ」
絶叫し、吹雪魔法を全域に放とうとしたが、させないぜぇっ! 俺は投擲スキル、円月ギロチン、で魔力を込めた鋼のチャクラムを投げ付け、灰婦人の喉を深々と切り裂いたぁ。
「シューッ??」
不気味な笛のような音を喉から立てる灰婦人っ。首は落ちてない!
「硬いなぁっ??」
これで倒せないのかよぉ? 一瞬迷った。さらに押すか、ここで逃げるか? それとも・・
んん~~っっ。こんな時、無理する程俺は蛮勇じゃないぜぇ!
俺は口が曲がるような毒消し齧って、ホントは聖水を使いたいが惜しんで霊木の灰を自分に被って、ドラゴワームが空けた壁の穴に向かってスキル遁走を使って高速で走りだした。
遁走は逃げる場合のみ速くなる。今は1人だから使い放題だぁっ。
「げっ?」
走ってると毒消しか? 霊木の灰か? 耐えられなかったらしい、細い虫みたいなのが、俺の衣服の隙間からポロポロ落ちてくっ。最悪! 生き残ったらドラゴワームの体内には入るべきじゃない、ってレポート絶対書くぅ!!
でもチクチクはなくなったっ。目も開く。ポーションも飲みたいがまだ難しい。
壁を抜けた辺りでスキルの連発何かで魔力も減ったから、魔法石の欠片だけ使う。
ここで、
「シューッ!!!」
ヨタ付いて残ってる壁面に激突して砕きながら、灰婦人が追ってきた。
「拠点に張り付いてんじゃないのかよぉ~っ?!」
怒らせ過ぎたぁっっ。
そうして陰火灯が所々設置されたこの陰気な4階を不毛な追い駆けっこが続き、息も絶え絶えになった。
選択肢はいくつもあった。
思い切ってまだいるかもしれないゴリアスの所に戻って合流を試みてみる。
ちょっと遠いがギリ行ける範囲の転送門まで行って一気に離脱。
確かボロボロで未補修と警告されてる近場の魔除けの野営地に行ってみる。
ルート的に徘徊モンスターが多いが有人拠点の2階行きのエレベーターのある拠点まで行ってみる。
使えそうな近場のトラップ地帯に誘い込む。
使用可であるはずだが魔除けに破損が有り来月まで緊急時以外は使用不可となってる近場の3階行きエレベーターに行ってみる。
等々・・だが結局、
「最悪だ! 悪手ぅ~っっ」
うんざりだが、色々あ選択肢の中でもハードな近場の3階行きエレベーターを目指していたぁっ。
ポーションは何とか1瓶飲み干せた。
残持ち道具はポーション、癇癪ボム、聖水、霊木の灰、魔法石の欠片はあと1つずつ、光り玉は途中横槍入れてきた野良モンスターに使ったせいでもう無い。チャクラムはまだ18枚あって余裕有り。
エレベーターはもう少し。どうする? シュミレーションはできてるが、やれるかぁ?
この階では階の端以外では珍しい、天井まで続く岩と人工物の壁面の底に無人の寂れたエレベーター施設が見えてきた。
「シューッ!!」
興奮して速度を上げてくる灰婦人っ。
俺は作業手袋をして手でワイヤーを結んだ鋼のチャクラムは近くの草葉の陰の奇妙の石像の腹の辺りのレバーにチャクラムを掛け、引いた。
既に殲滅棲みのかつては湿地に適応した小鬼スワンプゴブリン達が多用したトラップの1つだ。
途端に全く別の位置の水溜まりの底から銛が数本打ち出されら2本が追い上げてきた灰婦人に命中し、1本が刺さった。
浄めの火で実体化させられているからよぉっ。
「シューーッッッ!!」
さらに激昂して髪を文字通り逆立てるっ。少しさ遅れさせた。俺はスキル物見で確認しつつエレベーター施設の敷地に転がり込んだぁ!
迷わず最後の魔法石の欠片を使い、物見で籠が降りてるのを確認済みのエレベーターを開いて乗り込み、聖水の瓶を片手の振り返った。
破損は有っても魔除け自体はある敷地の境界の外に灰婦人は来ていた。こちらを見ているぜぇ。
さっさと上がりたいがぁ、籠の下から張り付かれたらお手上げだ。
俺は聖水を頭から被り、火の点いたファイアジェム式ランタンを片手に持ち、もう片方の手にショートソード+1を持ち、指てクイっと挑発してやったさぁ~。
「シューッッ!!」
魔除けに焼かれながら突進してくる! 足で上昇スイッチも押し扉も閉めだしつつ、ショートソードの柄頭でランタンのガラスカバーを割りランタンの炎を剥き出しにした。
「シュシューッッ!!!」
操った髪で締まりかけの扉を抉じ開け、中に入ってきたっ。
デカいぃ。体長2メートルはあるだろぅ? 身体は浄化の火で焼かれ続けながら嗤ってやがるっ。
「お嬢さんんっ、俺と踊るかいぃ?」
「シューッ!!」
壊れた扉が閉じないまま、エレベーターは上昇を始めたぁっ。
初手は髪の操作ではなく蹴りだった。大振りの素人の蹴りで簡単に躱せたが蹴られた籠の壁面は凹み大きく揺れだした。
エレベーターの警告音と共に魔力灯が消え、替わりに黄色く明滅する警告灯が点く。
これを繰り返されるだけで終わるなぁ。
俺はランタンを髪の左側にぶつけて左側の髪を燃やしてやった。
開きっぱなしの扉で窒息や中毒は回避できるが狭過ぎて熱いっっ。
ランタンは一旦手離し、最後の霊木の灰を取り出す。
「シューッ??!!」
半狂乱になって足の蹴りと、まだ燃されていない方の髪を錐か鞭の操って暴れる灰婦人っ。籠の上昇は止まってないっ。俺は狭過ぎる籠の中を必死で回避し時ショートソードで反撃、牽制して回った。灰を使いたいがまだだぁ。
蹴りで肋骨を砕かれ、髪の錐であちこち裂かれ、接触によるエナジードレインで魔力と生命力を吸われたが、まだだ。まだだぁっ。
籠は上昇を続けるっ! 3階に・・着いた。
チーンという到着音と共に俺は灰婦人の顔面に霊木の灰をぶち撒け、顔面と両目を激しく浄めの火で焼いたぁっ。
「シューッッ?!」
籠の中の陰で仰け反る灰婦人っ。俺は籠の外に飛び出すぅっ。
ここは3階、木と土のフィールド。
「灰婦人っ! どうしたぁ~?!」
「シューッ!!!」
声と探知能力だけを頼りに籠の外の俺に灰婦人は飛び掛かってきたぁっ。途端、
ゴォオオオッッ!!!!
灰婦人の全身が一際強く炎上した。3階には陽光と同じ性質のサントーチが多数配置されてるぅ。
加えて3階のこのエレベーター施設も無人で閉鎖中だがここの魔除けは先に補修済みだった。
「・・・っ???!!!!」
声も無く焼かれる灰婦人。
「じゃあなぁ」
俺は最後の癇癪ボムを燃える灰婦人の口に放り込んだ。
ドォンッッ!!
灰婦人の頭部は消し飛び、全身も焼き尽くされ、銛1本だけ残し、灰と消えた。
「いつか、ホントに死ねるといいなぁ~・・はぁ」
俺はその場に倒れ込んだ。後はポーションと水筒に薬草茶があるが、それくらいだぁ。
このエレベーター施設に今、使える水晶通信器があるかどうかもわからない。
籠の故障はすぐ伝わりそうな気がするし、先に戻った連中が何か対応してくれそうだがよぉ。
「・・・暫くは、モリモッサの葡萄園でも手伝うかぁ」
全身痛過ぎるのと、薬草茶くらいは飲まない内に気絶したら死にそうなので気絶もできないが、身も起こせない。
錆びた銛1本か、とんだ宝探しだぜぇ。




