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4級冒険者ショート集  作者: 大石次郎


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灰婦人の怪 前編

んん、地下4階は湿地のフィールド。大小の陰火の燈台が配置された薄暗く、寒く、湿った環境何だぁ。


「はぁはぁはぁ・・」


4級盗賊職の俺がむやみに呼吸を乱すのは恥ずべきことだがよぉ、さすがに疲弊するし動揺もする。

魔力を少しずつ消耗して水上歩行特性ができるフロッグシューズを履いてなかったらとっくに終わってたぜぇ。


「シュー、シューーゥゥッッ!!」


裂かれた喉を不気味に鳴らして追ってきやがるぅっ。


派手な喪服を着た太ったロングフット族らしき女の死霊。

4階のユニークモンスター。自我を持つレイス! 灰婦人(はいふじん)

喉の損傷に加え両腕も失い、まだあちこち浄めの火の残り火に焼かれているが憎悪を募らせた瞳を俺を睨み、浮游して追ってくるっ。


完全に目を付けられたぜぇ~。



遡ること30分程前・・


俺達のパーティーは4階の取り零しのお宝を狙って潜っていたんだぁ~。


「タケシ達がとっとと引き上げてくれたから儲かりそうだなっ」


今回のリーダー4級狂戦士(きょうせんし)職のハーフドワーフ、ゴリアスは機嫌好く、止せばいいのに革袋のワイン飲み歩いたりしていた。


件の取り零しのお宝は先に潜ったタケシ隊が見付けていたがよ、仲間が消耗していたから断念して引き上げてギルドに情報を売却。それをゴリアスが買ったワケさぁ。

深追いせず、他の仲間が無茶しない内にさっさとギルドに情報を売っちまうのはいかにもタケシらしいぜぇ。


「でもよぉ~、4階は殆んど壁面もないし、地中や水中移動するヤツらも多いしよぉ」


実際、3階と4階でそこまでモンスターの強さはそんな変わらないが、この階層から事故率は急上昇だからさぁ。


「デシカーノ、ヤバそうなヤツらのポイントを広めに避けてる。灰婦人だけは棲み処ギリギリだがアレは固定型の死霊だ。決まったところに張り付いてるぜ? へへっ」


「それはそうだけどよぉ・・」


さっきからスキル敵意探知が微妙に発動してるが、この水や泥に潜める環境と負の魔力がやたら強い灰婦人の棲み処近くに進んでるからハッキリしない。


ここらは少ない方だが罠も点在する。水底や泥の底だと解除も儘ならない。つくづく盗賊泣かせの階だぁ~。


思い出したように時折露出している木の根が編まれたような壁面、泥と湿った草地の半端な足場、水溜まり、小さな沼、(もや)、低温、希に魔物の鳴き声、陰火の暗さ、そんな中を全員フロッグシューズを履いて進むのさぁ。


遠目に見えた毒を持つスワンプスライムの小集団を警戒していると、


「「「っ?!」」」


探知系スキルは全員持ってて皆気付いたが、俺のが1番精度があるぜぇっ。


「前方30メートルっ、左右っ、デカいっ!」


相手も気づかれたことに気付いたらしく前方の湿地が2ヵ所盛り上がりだすっ。


「この階、この位置だとドラゴワームかっ?! 巣から遠いんじゃねぇかっ?!」


全員を構えを取る頃には実際、ドラゴワーム2体が姿を表した。ミミズのような巨大な下等龍!


「?」


だがドラゴワーム達には損耗の痕があった。何らか交戦の結果、ここまで流れて来た??


「妙に消耗してるが、もう対策は立てられてねぇっ! 俺は赤字だがオメェらに損は無い! ヤバくなったら脱出の鏡を使えっ!」


「「「了解!」」」


ゴリアスは雑だが判断はできる。俺達も腹を括ったぜぇっ。


だが数分後、


「だぁーっ?!」


やっぱ4級で、俺達のパーティー構成でいきなり近距離遭遇して相手するにはちょっと厳しい物があったぜぇ~。


ドラゴワームの礫片(れきへん)のブレスがディフェンドの障壁を擦って貫通し、自慢の両手持ちの+1の杖をポッキリ折られ、お気に入りの+1級の帽子もズタズタにされ、片方の御下げのリボンも吹っ飛ばされた褐色の肌のロングフット族の魔法使い職エニィプルが、


「あ、無理。ゴメン抜けるわ」


あっさり諦め、自分の脱出の鏡に吸い込まれて離脱してしまった。

用済みになって砕けるエニィプルの脱出の鏡。


「なっ・・」


何だかんだでドラゴワーム2体にダメージは与えられていたから、唖然とするゴリアスと俺ともう1人ぃっ。


魔法使いの遠距離攻撃と妨害魔法の支援が無くなり、そこから俺達は一気に守勢に回ったっ。


「くっそっ、ここまでかっ! 離脱するぞっ」


ゴリアスは撤退を決めた。俺達は脱出の鏡を使おうとしたんだが、中々その隙がないっ。ドラゴワームは暴れまくり礫片のブレスを吐きまくるぅ!


「ええいっ、俺が隙を、おっ?」


埒が明かないのでゴリアスが1体に突っ込んだが、もう1体はゴリアスを無視して残りの俺達に飛び掛かってきた!


どうにか凌いだがゴリアスと分断されたぁっ。


「最悪だよっ!」


「一旦立て直すしかないなぁ~」


脱出の鏡は止まった状態で集中しないと転送が安定せず、下手すると構造物の中何かにめり込んで即死ぃっ。


「デシカーノ! ゴリアスには悪いけど、ディフェンド、取り敢えず2人分掛け直すよっ?」


「ヨモギ! 俺はお前に魔法石の欠片を使う、ヒールしてくれっ、この先の壁面にアイツぶつけてやろうっ。ダメ押しで癇癪ボム投げ付けてやるぜぇ~!」


4級騎士職の兎人(ワーラビット)族のヨモギは僧侶系の魔法が少し使える。段取り組めば上手く打開できるはずだぁ。


「じゃあいくよ? はぁ、しんどいっっ。・・ディフェンド!」


だいぶ傷んでいた魔法の障壁を走りながら張り直すヨモギ。俺は魔法石の欠片を即、ヨモギに使う。

魔力の最大値の少ないヨモギは回復した魔力で即、


「ヒール!」


自分と俺を回復っ! 俺は既に癇癪ボム3個を取り出し済みだぁ。壁面は迫っていた。


「行くぞぉ? 3、2、1で跳ぶぞ?」


「えっ、1で? 0で?」


「0だ! うおっ、距離がぁっっ、2、1、っ!!」


眼前の壁面ギリギリで俺とヨモギは左右に跳んだっ。

勢いと滑る湿地の足元と身体の構造上、止まれないドラゴワームは木の根の壁面に激突し、ぶち抜いてっ、その先にあった鬱蒼とした林に埋もれた遺跡のような物に転がって突っ込んでいったぁ~。


「癇癪ボム、いらなかったね」


「ああ、でもアレぇ、灰婦人の棲み処じゃねぇかぁ?」


俺は壊れた前方の壁面に跳び乗ってスキル物見で確認する。間違い無い、実際見るのは初めてだがギルドの資料通りだ。


「みたいだね。とにかく早く離脱しよう、ゴリアスなら相手が1体なら1人の方がやり易いだろうし」


「狂戦士職だしなぁ」


狂戦士は見境は無くなるがスキル激怒で戦闘力を倍増できる。大丈夫だろうよぉ。


俺とヨモギは脱出の鏡をそれぞれ取り出したんだが、


「っ?!」


確認しようと前に出ていたのと、なまじ敵意探知が敏感だからマズったのかもしれないぃ。ギョッてしたせいで2手は遅くなった!


猛烈な速度でバカげたリーチの鎖分銅(くさりふんどう)が灰婦人の棲み処の林から放たれ、ディフェンドの障壁を一部突き抜けて発動前の脱出の鏡を粉砕されたぁっ。


「デシカーノ?!」


既に脱出の鏡を発動させていたヨモギは驚愕したまま転送が始まり、


「ぅおっ?!」


鏡粉砕後に既に俺を取り囲んでいた分銅の鎖に対し、各スキル使用も間に合わないと踏んだ俺は癇癪ボムを持ってない方の手でショートソード+1を構え直し防御姿勢を取ったぁ。


初見は失敗! 次の行動をミスったら死亡確定だぁ~っ。


鎖は魔法障壁越し俺を捕獲っ。ぐんっ! と超高速で引っ張りだす。

ヨモギは転送されていった。これで最低限度、遺体の回収かアンデッド化させられた俺の始末の保険は掛かったなぁ・・


ボボボボッッッッ!!!


まだ残ってるディフェンドの障壁の魔法式が、全身に持続的攻撃を受けてると判断して最大展開しているせいで、湿地を引っ張られる俺は完全に球体だぁ。

派手に水と泥と草を跳ね上げて灰婦人の棲み処に引っ張り込まれてゆくぅ~!


目は通してある資料通りなら灰婦人の戦力は4級相当の魔法使いの魔法と自在に鎖が伸びる+1級の鎖鎌、声による精神攻撃、攻撃の通り難さ、浮游能力、眷属として陰のような犬のモンスター、ブラックドッグ十数体から二十数体の使役。


過去に何度も撃破されているが、一定周期で4階の棲み処から復活している。厄介だなぁ。


対して、使えそうな俺の持ち道具は、聖水2つ、霊木(れいぼく)の灰3つ、ファイアジェム式のランタン、魔法石の欠片3つ、ポーション2つ、光り玉3つ、癇癪ボムは既に出してるのと合わせて7つ、作業用グローブ+1、ワイヤー+1、大気石(たいきせき)1つ、投擲用の鋼のチャクラム33発分!


それなりにある、奇襲されてなかったらもうちょっとやりようがあったろうけどよぉ。


「っ!」


林まで引っ張り込まれるっ。ディフェンドの魔法障壁はそろそろ限界だけど、スキルの準備はできたぁ。

自分で体勢をコントロールできないから、いい身体の向きになるのを待つしかないっ。

このまま向きが上手く変わらない、ないし、木や岩や棲み処の石の構造物にガンガンぶつけて手っ取り早く始末しようとされたらそこまでだ。


頼むぜぇ~、長年倒しても旨味無しと放置気味何だっ、棲み処を荒した久し振りの人の獲物! フレッシュな状態で欲しいだろぉぅっ?


身体の向きが、狙った方向に変わった! 林の向こうに古代の劇場の様な構造物っ。外壁が大きく破壊され中が見えるっ。


俺はスキル加速視覚(かそくしかく)を使ったぁ。

景色がゆっくりになる。自分が速く動けるワケじゃないが、隅々まで観測可能っ!


ここでいい情報を拾えるかだ、見通してやるぜぇ!

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