英雄の子孫の従兄弟の次女 後編
「ネイエン体調はどうだい?」
50年くらいしか生きない短命なフェザーフット族は早く仕事に就くけれど、姉と同い年の本家の人はまだ若過ぎる頃から冒険を生業としていて、私の身体を気遣ってくれた。
「ネイエン! ウチは分家で道具屋だが、英雄ジョグエンの子孫っ。施しを受けてるワケじゃない」
父は本家の人のお父さんに子供の頃から憧れて、嫉妬して、少し可哀想な人だった。
「ネイエン、ハートストーンの欠片が手に入った。これは心臓の治療に使えるらしい」
本家の人は治らないはずの私の身体を少しずつ直してくれる。私はそれを残酷だとも思ってた。
「ネイエン、あんたがそんなだから、私まで教会学校で格下扱いされてるんだからね!」
姉は父以上に嫉妬が強かった。
「ネイエン、このグリーンエリクサーは滋養が高い。療養食に少しずつ加えて使うといい」
私が少しは歩いて回れるようになる頃、本家の人は私と前より距離を取り始めた気がした。
「ネイエン、お前が本家に見初められている等とあらぬ噂が立てられている。もう身体もいいんだろう? 遠縁がアバンテ郷で素材加工業を営んでいる。お前は座学はできるし、将来的にはそこの長男がかなり年上だが」
思えば父は本家と直接家族になってしまうことを恐れていたんだと思う。耐えられないと。
「ネイエン、冒険者になるといい。向いてるヤツはわかる。君は咄嗟の計算ができるし、遠くを見る目を持ってる。それは哀しいことでもあるけれど、才能何だ。俺は、隣の大陸に行くことにしたよ」
本家の人と会ったのはそれが最後。孤独な人だったと思う。その時に送ってくれたのは薬ではなく、短剣だった。
姉は短剣を見て激昂した。
「ネイエン、本家のあの人が遠くに行ってしまったのはきっとあんたとの噂のせい。昔から、いつもあんたが原因! いい? あたしだって初等教会学校しか出てないような、丁稚上がりの男と結婚したかったワケじゃないんだよっ?! あんたのっ、身体が弱いから!! 店を継ぐしかなかったっ。許さない。あんただけ自由になる何て許さないからっ!!」
もうこの家には居られない、と思った。
無鉄砲な選択をいくつもして、一番近いダンジョンに私は潜った。
リハビリで基礎体力はついていたけれど、事前訓練は数日だけ。膨大な時間の中で得た片寄った知識と空想だけが、私の実力。
それでも意外なくらい、筋は良かった。
流動するスライムの急所も一目でわかったし、不規則な動きをする炎の魔物のウィスプも本家の人から聞いていたコツがすぐに把握できた。
罠の対処、回復や水分栄養補給のタイミング、危険なトイレを済ます時の警戒、余裕を持って探索期間から生理の時期を外すこと。他にも色々工夫して、健康になった身体と私の篝火みたいな+1の短剣を頼りに上手く立ち回れた。
こんなに上手く行くんだ。って興奮して、本家の人と再会することさえ空想した。
・・・でも、足りない物があった。例えば、
人との出会いの運。
「ネイエンちゃ~んっ! どこかなぁ? ちょっとウワバミの巾着見せて、って言っただけじゃーん? というか、斬られた傷、回復薬で上手く治らねーんだけど? こりゃあ高くつくぜぇ? げへへっ」
「オギロブっ、2番手俺な!」
「ちゃんとスライム溜まりで最後処理しろよ?」
「それが楽しみ何だよっ、プシシっっ」
「気を付けろ。2人とも、あのチビ、モグリにしちゃ動きはいいし、回復効果が薄い+1の短剣持ってやがる。窮鼠猫を噛むってヤツだ」
誰にも相手にされないからって、組んだ相手が悪かった。着替えの前に殺気に気付いてなかったらと思ったら、ゾッとする!
私はメーリクダンジョン1階の飛龍の門ルートの探索価値の無い、人気の無い通路をヤツらから逃げ回っていた。
ヤツらの方が土地勘はある。逃げ回って助かることはきっと無い。1人ずつ、倒すしかないが都合良く気絶させる程の腕は無い。
でも・・人を殺す覚悟が持てない。相手がクズでもっ。
ただ生きてるだけでどれだけ大変なことか私は思い知ってるから。
「はぁはぁっ」
反撃を考えるとそろそろ体力が限界だ。ここでポーションを飲むか? それともせめて1人討ち取ってからか? あと2本しかない。
こんな状況空想してなかった!
と、床の1部に違和感があったような気がした。1階は廃墟と迷路のフィールドで陰火の燈台が不規則に配置されてるけど、暗い。見誤った。
ガチッ、作動音。瞬間っ、
バシュっ!! 通路の壁面の1部が爆ぜ、噴出した投網が私を捕らえて、床に転がした。
「ぐっ?!」
「サンダーショットぉっ、と!」
オギロブの手下の5級魔法使いの男が電撃弾の魔法を身動き取れない私に直撃させた。
「あぅっ!」
仰け反って網に絡まったまま壁まで吹っ飛ばされた。身体が、動かない・・
「よくやった! ネイエンちゃん、トラップの位置くらい頭に入ってるぜぇ? ここらは俺達のテリトリーだからよぉ」
「プシシ!」
「待て、まだ短剣を手離してない。俺が矢で指を落とす」
5級射手の男が私にクロスボウを向けてきた。ここまでか、せめて自決を。
私は+1の短剣ソウルダガーを囮に、逆の手で投擲ナイフをどうにか抜いた。
後は首を掻くだけ。5級のチンピラが蘇生アイテムは持ってないだろうし、持ってたとしてもそんな高価な物を私に使わないだろう。
空想だけじゃ、ダメだったね・・
クロスボウから矢が放たれた! 私は投擲ナイフを、
ガガッッ!!
2本の手裏剣? が凄い速度と精度でオギロブ達の後方の壁の上から飛んできて、矢と投擲ナイフを弾き飛ばしたっ。
「スキル、壁歩きからの迅速手裏剣だぞ?!」
壁に、ワーオコジョの忍者職?!
「何だテ」
オギロブが言い終わらず、手下達がワーオコジョ忍者に攻撃する前に、
「閃翔っ、風破脚っっ!!」
後方のダンジョンの暗がりから砲弾みたいに飛び出してきた大柄なバルタン族の格闘士職? が風を纏わせた蹴りの一撃で纏めて手下達を吹き飛ばして昏倒させた。
オギロブは慌てて飛び退いて武器を構え直し、何か宝玉を取り出した。
「クソッ、何で4級の冗談みたいなヤツらがっっ。これでも喰らいやがれ!」
宝玉から飛翔する大蛇、エアパイソンの群れが召喚された!
「即、てぇーいっ!」
ワーオコジョ忍者は火の属性の巻物を広げて投げ付け、爆炎を起こす!
ゴォオオオッッ!!!!
あっという間にエアパイソンの群れは壊滅した・・
「ふんっ」
風が使えるらしいバルタン族の人が烈風を起こし、そんなに広くない通路の空気を入れ替える。
「な、な、・・待て! 誤解だっ。俺達はこのモグリの子を保護し」
「ホーリーショット」
いつの間にか、近くに来ていた僧侶職らしいロングフットか? ノーム? の女性が神聖属性弾をオギロブの下腹部に打ち込み、
「ぺぅっ?!」
昏倒させた。
「随分、神聖属性が通りますね。業値が低過ぎるのではないですか?」
3人は私の側に来て網を取り、僧侶の人はヒールの魔法で回復してくれてから、なぜかセレブ用の美容品ビューティーポーションを渡してくれた。
「貴女達は?」
「オイラ達は正義のザンムシカ忍者隊っ!」
カッコいいポーズを取るワーオコジョ忍者。
「ヒラメ筋の声に従って来た! むんっ」
マッスルポーズを取るバルタン族の人。
「気にしないで。捜索を依頼され来ました。冒険者になるのなら段取りを踏むべきでしたね」
「・・はい。考えが甘かったです。すいません」
飲んでみたビューティーポーションは甘く薔薇の香りがしたけれど、とてもほろ苦くも感じた。
余罪、盛り盛りだろうオギロブ達をギルドに引き渡し、オイラ達はネイエンと一緒にメーリク市に来てた依頼人の親族の泊まってるっていう一般人用の宿に向かった。
もう夜中で超眠いし、ヌゥは散々介抱してた癖に「もう仕事は済みました」とか言ってバックレようとしたけど、引っ張っていった。
繰り返しになったらバカみたいだし、関係無いヤツらがいた方がいいかなって。
「あんたねっ」
親族はネイエンの姉ちゃんだった。顔を合わして早々強烈にビンタ炸裂! キッツぅ。
「ごめんなさい。掛かったお金やギルドへの罰金や家から持ち出した装備やお金は必ず返すよ。でも私は」
「やるならやりきってよ」
「え?」
「半端に世話を焼かせないで。あたし達の家が、ホントに惨めになっちゃうでしょ? 見返してよ? 自由になってみせてよ?」
「・・姉さん。ううっ」
ネイエンは泣き崩れちまって、姉ちゃんの方も立ったまま泣いてた。
「コレ、解決したよな?」
「大胸筋は思案してる・・」
「立ち入り過ぎるべきではないのですよ」
と言いつつ、ヌゥはこの後ネイエンが当面スクールに通う資金を貯められるよう、自分が泊まってる宿の仕事を紹介したりしてた。
ま、何年かしたら新しい仲間が増えそうだな! 忍、忍っ




