藁の火 後編
変動エリアは3階と2階の特徴の混ざったエリアであった。
3階は植物と土の地面の階。
ここは苔と岩に加え、植物が生い茂り、土もあちこち露出しておった。
2階には無いはずの、3階で良く見掛ける。陽光を発生させるサントーチと呼ばれる魔力灯の一種もちらほら設置されておった。
「2階と3階とガチャってんじゃん?」
「ライトボール1個減らしましょう。節約節約」
「ここもおおよそのマップはある。余計な寄り道もしないからな?」
「魔除けの野営地の位置もはっきりせんからの」
タケシの持つ部分的なマップによると実際、件のメーリクムーンストーン原石の露出ポイントはそう遠くなかった。
そこまで大して移動はないが、そこは未踏エリア。幸いトラップ地帯はマップのお陰で避けられたが、徘徊しておるモンスターとの遭遇率は高かった。
植物の特性を持つプラントスライム、歩行する植物リーフウォーカー、むやみに踊るダンシングマッシュルーム、出来損ないの土の人形の様なマッドドール等と立て続けに交戦!
ただこの後でギガロックスティンガーと戦うのはほぼ確定であったので、閃光を放つ光り玉や、小爆発を起こす癇癪ボム、といった。ここまで温存しておった戦闘補助系アイテムを気前良く使って退けていった。
「他人の金でアイテム使いまくるのサイコーっ!」
「ザンムシカ、セコいです」
「あ~ん?」
ともかく目的のポイントまですぐそこ、といった所まで来た。
「モンスターは、近場には見えないな。目当ての広間に入る前に交代で休憩しよう。俺が最初に見張りするよ」
「茶でも沸かしたいが、そうもいかんか。2人ともじゃれてないで水分と栄養を取るぞい?」
ヌゥとザンムシカも促し、水出し薬草茶入りの水筒と棒状糧食で簡単に食事を済ませ、ヌゥは魔法石の欠片で魔力も回復させた。
「ザンムシカも手裏剣の残数数えておくんだぞぅ?」
「あと46枚あるしっ、オイラなるべく拾ってるし!」
なぜかムキになるザンムシカであったが、ワシらの休憩は終わった。続いてタケシと体力の無いヌゥは引き続き休憩を取り、タケシ隊の小休止は終了となった。
「行こう。蝎を仕止めたら俺はちょっと探し物があるが探索道具を買ってる。皆は気にしなくていい」
「めちゃ気になるヤツ!」
「言って下さいよ~」
「これっ、ヤボだのう。こういう時はサラっと流さんか」
タケシはこんな手の込んだ小遣い稼ぎをするタイプではない。断片的に聞いた経緯からしてワケありだ。
断ったらソロではないにしても、雑な計画でも行きかねないので付いてきたような物であったからの。
「「え~??」」
タケシは苦笑していたが、ヌゥとザンムシカを諌め、ワケらは目的地の、マップ上は広間となっているが、岩場と密林が合わさったような空間へと足を踏み入れていった。
果たして、岩と密林の先にメーリクムーンストーン原石が多数露出していた。場の魔力も強く中空に魔力の粒子がいくらか発光して見えていた。
「聞いた通りだな。全員収納道具は持ってるよな?」
「空いたウワバミの巾着バッチリ持ってるぜっ? こんだけありゃ山分けでも借金にお釣りがくるぜぇいっ! ひゃっほぅ」
「神は、稼ぐこと恐れることなかれ、と仰ってたとかいないとか・・」
「ふむ。まずはロックスティンガーだの。既に2体死体は転がっておるが」
やや離れた位置にはギガロックスティンガーの死骸が2つ放置されていた。
傷口に、ノイズインセクトと呼ばれる羽虫の小さなモンスターとブルームワームと呼ばれる芋虫のやはり小さなモンスターが無数に集っている。どちらもダンジョンの掃除屋だ。
「同期のヤツらもそれなりに仕事をする。ま、確かに仕止めないとおちおち採集も忘れ物探しもできないな」
タケシはシャムシールを抜いて目を閉じ、集中した。スキル、心眼探知、を使ってるだろう。
「・・・! そこっ」
タケシは小石を蹴って、遥か前方の原石の小山に強く当てた。すると、
ゴゴゴゴッッッ
小山を砕いて巨大な岩の蝎が地から噴出してきた。ギガロックスティンガー!
「ヌゥ! ドルフ! 頼むぞっ? ザンムシカもっ」
「オイラをオマケみたいに言うないっっ」
「ブレッシング! ディフェンド!」
ヌゥは幸運魔法、守備魔法を全員に掛けた。
ワシはタケシと共に突進しつつ、魔力を練って準備する。
「ザャアアァッッッ!!!!」
相手も突進しながら耳障りな咆哮をあげるギガロックスティンガー。
シルエットは蝎その物だが、よく見ると海老、蟹、蜥蜴に似た風貌をしており、魔物学者の中には竜族に分類する者もおるとか。
何にしてもだっ。
「錬成っ!」
片手の掌を地面に当て、魔法式を描し、ギガロックスティンガーの足元に巨大な窪地を造り、半ば落下させて突進と身動きを止めた。
相手は即、巨大な針の尻尾を振り下ろしてきたが、
「せぇあっ!」
タケシがスキル、弧月一閃、でシャムシールを振るって切断し、後方に吹っ飛ばした。
ブレッシングのお陰か? 吹っ飛んだ巨大針は後ろのヌゥの脇の地面を抉っただけだ。
「離れろよぉっ? 雷手裏剣だぁっ!!」
帯電させた手裏剣を一息に数十投げ付けるザンムシカ。ギガロックスティンガーとその周囲は一時的に激しく放電する。
ワシとタケシは一旦飛び退く。
「ザャアアァッッッ??!!!」
錯乱して暴れながら窪地から這い出て原石を砕きなかまら暴れ回るギガロックスティンガー。
「ワシが行く!」
グレートアクスを手に回転しながら距離を詰めるっ。原石の破片が飛んでくるが、斧の回転と守備魔法とドワーフの頑強さで無視する!
「フーーンッッ!!!」
スキル、つむじ巨人斬り、でギガロックスティンガーを殴り付け、右のハサミを砕いて腹が見える形で転がしてやったっ。
「よしっ!」
突進するタケシ。
「ストロング!」
剛力魔法をタケシに掛けるヌゥ。
「せぇあっ!」
強化された弧月一閃で腹から背の外骨格までギガロックスティンガーを縦に両断するタケシっ。
「しゃあっ、オイラのアシスト適切ぅ~っ!」
勝利の踊りを踊り出すザンムシカを尻目にタケシは一息ついていた。
回復と周囲の警戒がざっと済み、タケシ以外のワシらがメーリクムーンストーン原石の採集を始めると、タケシは一際高く隆起した原石の上に乗って、探索アイテムの失せ物探しのオーブを起動させた。
輪状の魔法式が広間に拡がり、ある一点を差した。
「おっ? 何だ何だ? やっぱお宝かぁ?」
欲をかくザンムシカに構わず、案外近い位置だったそれを拾いにゆくタケシ。
それは地味な髪留めだった。
「何だそれ~? 何かのレア収集品とか?」
「ザンムシカ、ちょっと黙って下さい」
「ハハ・・いやぁ、気マズくなりそうだから黙ってたんだが、引退した仲間。ってのは嘘でな。実はこの間、身体消滅した同期のだよ」
「「え?」」
ワシは少し予感しておったが、ヌゥとザンムシカは驚いておった。ヌゥはタケシと世代が違い、ザンムシカは別の街のギルドから2年程前移ってきた新顔だからの。
ダンジョン周りではロスト自体は珍しくない。近しくなければ知らない物だ。
「後輩のパーティーの後見で3階に降りてたらしいけど、ちょっと早かったみたいでさ。後輩達を庇って重傷を負って、2階まで転送門で来たら運悪くダンジョンが変動していて、また後輩達を庇って酷い損傷で死んじまって・・蘇生が、失敗した」
タケシは髪留めを懐かしそうに見詰めた。
「この髪留め、俺が昔渡したヤツ何だよ。もしかしたらここかな? って。身体も無いし、回収でできた遺品が少なかったから。これも、ギルド経由で故郷に送ってやるよ」
「うむ、・・その髪留め。少し壊れておるようだ。ワシは鍛冶師だが、これくらいは直せる。直してよいかの?」
「・・・ああ、頼む、ドルフ」
ワシはわずかに返り血の付いた壊れた髪留めを受け取ると、鍛冶ハンマー+1と、相応しかろうと拾ったメーリク原石の中から純度の高い物を選んで割って欠片を取り出し、補修材料として合わせ、これまでで一番繊細にハンマーを振るって掌の上で錬成し、破損を直した。
その際、返り血も取り除いた。もうこれで済ませた方がよい。
「タケシにしては可愛い物を選んでおるの」
タケシに髪留めを渡した。
「十代だったからさ」
気恥ずかしそうにタケシは笑った。
十代。短命種の一生は藁に点いた火のような物であるの。




