雪の家
先頭をゆく雪だるま型のモンスター、ジャックフロストの持つ聖なるランタンの光に護られて、防寒具とドルフに調整してもらったスノーシューで固めた装備で進む。
「ヌゥ、大丈夫か? ヒール使えよ? ポーションもまだまだあるぞ?」
着膨れしたザンムシカはぬいぐるみその物で、可愛過ぎて正視が難しい。
「大丈夫です、ポーションも飲み過ぎると私はすぐポーション酔いしてしまうので」
「虚弱~」
「うるさいですねぇ・・」
等と軽口等を叩きながら雨季で水の力が高まった結果氷のエレメントも強まった極寒の冬のフィールドであるメーリクダンジョンの地下6階で、特別な護りがなければとても4級の私達2人では進めない薄暗い陰火の灯りのみの広大な雪の通路を踏破してゆく。
偶然か、あるいは非力さの賜物か、私達は導かれていた。
そうしてその童話のような小屋にたどり着けた。
役割を終えたジャックフロストはランタンを軒先に掛け終えると、ただの雪だるまに戻ってしまった。
「ジャックフロスト、案内ありがとうございました。ザンムシカ、ゆきましょう」
「よーしっ」
一応前髪を整え、ザンムシカの頭の雪も払ってやり、私達が近付くと、扉の鍵は独りでに開き、私は扉を開けた。暖気が流れ出てくる。
「失礼します」
「じっちゃん久し振り~」
小屋の煖炉の前に、途方もなく歳を取ったゴブリン族の、しかし高い知性を瞳に宿らせた男性が座っていた。
「よく来たね、2人とも」
「御所望のノルッケの店のスモモのカスタードパイ、お持ちしました」
ウワバミの巾着から木箱に納めたパイを取り出し、蓋を開けて見せた。
「おーっ、これこれ!」
「早く食べようぜぇ?」
私達は防寒具とスノーシューを取り、骨董のようなゴーレムに給仕をしてもらい、お茶会を始めた。
「うまーっ!」
「・・それで、今回の急なお招きは?」
何気ないハーブティだがエリクサーに匹敵する回復効果がある茶を一口飲んで切り出した。
「うむ、必要な案内は出したとはいえ、雨季に6階に招いてしまって悪かったね」
「構いません」
「いいってことよーっ!」
「ふふっ・・実はね、今のダンジョン主は最下層の9階に迫った上位攻略組と、一方で地上で合理化が進む最新のゴーレムの進歩に神経を尖らせている」
「ゴーレムの開発は進言すれば緩和できます。少なくとも戦闘型の物は、しかし上位攻略組はギルドで押さえは聞かないでしょう」
「ああ、見付かったダンジョンが攻略されるのは致し方ない。これは、そういう対価で成り立つ魔法だからね」
「先鋭化はなるべく避けます、我々もダンジョンの自壊は望んでいません。それから」
一番気掛かりだった事を聞いておく必要があった。私の職命でもある。
「初代様。このメーリクダンジョンが役割を終えた時、まだ私がお役に立てるなら、未熟ながら貴方の魂を天に送らせて頂けませんか?」
「オイラも必要な素材があるなら集めるぜ?!」
「・・ありがとう。そう、遠くない事だと感じている。おそらくこれからこの迷宮で冒険者を目指そうとする若者達が最後の世代だろう。その時は、頼むよ」
「はい」
「ドンと来いだ!」
そうして私達はお茶会を続けた。茶菓子とお摘みは他にも買ってあるし、話すべき地上の物語はいくらでもあった。
最初のダンジョン主を1000年の孤独を少しでも埋め合わせることは、その後2代渡るダンジョン主達の滅びの虚しさを少しでも灌げる気がしたから。
私達は、迷宮が終わりを迎えるその時までは、永久に雪深い小さなこの小屋で時折、細やかな物語を紡いでいた。




