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4級冒険者ショート集  作者: 大石次郎


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14/15

水竜の眠り

ダンジョンに入る前日、デシカーノに誘われヌゥの定宿の食堂に来た。入り口で傘を預ける。

ヌゥはザンムシカ以外に私生活で構われるのを大体面倒がるから何となく避けていた店だ。


「あ、デシカーノさん!」


ヌゥが後見人になってるという冒険者志望の子供が店員をしているはず。かなり筋がいいらしい。この子だろう。体力はともかく身のこなしは5級の前衛職でもいい方だ。


「おぉぅ、ネイエン。タケシを連れてきたぞぉぅ」


ん?


「お話伺ってます! 光栄ですっ」


「光栄って、俺、4級だよ?」


どうもこの子の周りで俺の冒険者活動が盛られて話された気配だ。

よくここに来るらしい連中とわりと組むことが多いのと、皆やりたがらないからパーティーリーダーを務めることが多いからだろう。

食事はリーズナブルで過不足無く、あっさりしていた。店も冒険者の店にしては清潔で、いかにもヌゥ好み。

夜中になるとボランティア帰りに違いないそのヌゥが疲れた顔で店に現れ、俺と目が合うと「げっ」と声に出された。

結構長い付き合いだけど酷くないか?



・・5階は水のフィールドだ。気温は低く、所々凍結しているが温水や熱湯のエリアもある。

光源もあり、相当高い位置にサントーチと陰火の燈台が吊るされているが、場所や時間、時期によってまちまちで、あまり安定しない。まぁサントーチを使ってる分、4階よりかは明るいかな?


「計測中デス、計測中デス」


パーティーには試作型のサポートゴーレムが同行していた。1階用の汎用量産機のベースになるらしい。何も5階で運用テストをすることもない気はするが。

4級魔法使い職で最近著名な人形使いの助手をしているらしいエニィプルが使用権限1位に設定されてる。

エニィプルが手間の掛かる事に積極的に取り組むというのはちょっと意外だったかな?


「ダメだね。このエリアはほぼ陸地も壁面もなくなってるよ」


ゴーレムの装甲から露出できる表示画面を確認してエニィプル。肉眼でも見渡す限り水と柱状の構造物、ウォータージェムの原石らしい鉱石、氷、霧靄、時折見掛ける水棲モンスター達。それくらいだ。

雨季以外はもう少し、陸が多い。5階は特に雨季の影響を受け易い。

水上歩行装備のフロッグシューズだけでは進行し辛く、魔力消費が少なく、脚を使った泳力も高まるケルピーシューズを全員装備していた。4級冒険者が使うにしては高価な装備だ。


「ここまで地形が無くなると、トラップの心配もほぼ無いなぁ。俺よりザンムシカの方が仕事できただろぅ」


あまりにもトラップが無い為、少々手持ち無沙汰になってきた盗賊職のデシカーノ。


「あのチビっ子、私、苦手!」


「ザンムシカいいヤツだぞ? 面白いし」


「出た、面白いっ。タケシさん達それよく言いますよね? 全然わからないですけどっ?」


「そうかぁ?」


雑談をする余裕はあったが、5階は単に水嵩が増し、水棲モンスターの勢力が高まっただけでなく、魔除けの野営地や転送門、エレベーターに野営地未満の緊急避難ポイント等の多くが使えなくなっており、注意は必要だった。


今回の仕事は優先度の高いメーリク市の冒険者ギルドからの依頼であったから、支給の装備は靴以外にも充実していたが、油断はできなかった。


牧歌的に見える水面をフワフワ浮游している試作ゴーレムも探知機能と簡易な魔除け機能は高かった。



途中、戦闘は大型の水の属性を持つスライム、レイクウェイブと鮫のような大蛇型モンスター、パイソンシャークの群れとの交戦があったが、レイクウェイブはアイスジェムを使ったエニィプルの氷系魔法で、パイソンシャークは単純に試作ゴーレムの火力の高さで倒す事ができた。


装備でゴリ押しするマッチョな攻略だが、4級で雨季に5階に挑むにはこれくらいのアドバンテージはやっぱり必要かな?


体力の無いエニィプルの為に水面で休憩も数度挟み、俺達は最初の目的地に着いた。


「ここだ。雨季だけとはいえ、今年は随分張り切ってるな」


そこは淡水種の人魚、アクアピープル族の5階の大型拠点ララ・ルー。

浮き葦という水面に浮き易い葦加工した物を素材とした浮島を純度の低い人工のウォータージェム鉱石で補強して住処としている。

知ってる範囲で、例年より規模の大きな雨季用に城壁等も発達させた島になっていた。

草と藻と出涸らし紅茶を合わせたような独特な発酵臭が漂っている。


「おぉぅ」


「5階自体あんまり来ないですけど・・」


臭いにたじろぐエニィプル。


「計測、計測デスッ!」


何やら試作ゴーレムが興奮? しているようだったが、興味津々といったアクアピープル達の中を進んでゆくと、


「水竜の調査隊ね、へぇタケシ君が隊長するようになったんだ」


当代のララ・ルーの族長アケーが浮遊して宙を泳ぐようにして現れた。

水の魔力の強い所ではアクアピープルはそこそこ飛行能力を発揮する。


そして、今回の俺達の仕事はこの時期だけ5階に召喚される眠り続ける水の上位竜の定期調査だった。


「アケー、今回はさ。あと短命種は回転早いから」


「言うね」


ララ・ルーで一晩(ダンジョン内で昼夜はわかり辛いが)休み、翌日俺達はララ・ルー達十数名のアクアピープル達と件の眠る竜の元へ向かった。


正直緊張したが、アクアピープル達は案内に慣れているのと水棲モンスターのあしらいが上手く、一度もまとも交戦せずに水竜の元のすんなりたどり着いてしまい、拍子抜けしてしまった。しかしすぐに、


「あれが水竜エドミュレイカ」


指し示された、氷、ウォータージェム原石、藻、水草、に加え、点在する水鳥系モンスターの巣に覆われた1つの砦のように巨大な、水面からでる背中、に俺達は圧倒された。

規模が違う上、眠った状態でも凄まじい魔力と生命力を感じた。


「おそらくダンジョン主が5階の水のエレメントの調整の為だけにこの時期だけ半端に召喚している上位竜ね。私達は、小山みたいなお寝坊さん、って呼んでるけど」


「そんな可愛いもんですか?」


「確かに山だな、これは」


「ピピピッ!」


試作ゴーレムは興奮し過ぎて? もう人の言葉で喋ってなかった。用心深いデシカーノは水竜に張り付いてる鳥等のモンスターを黙って確認しだしていた。


調査と言っても実際するのは試作ゴーレムだ。ハッキリ言ってしまうと俺達はコイツの運搬係。簡単な整備ができるらしいエニィプルはちょっと違う立場だったが。


デシカーノは引き続き竜に張り付いたモンスターの観測をしていたので、俺はアケーにもらった魚の燻製等を齧りながら、周囲の環境やアクアピープル達の配置等をざっと確認していた。


水竜自体に善悪の区別は無いようだが、生き物として偉大な物が眠っているので周囲も静かだった。


のだが、唐突に! 水竜の背の上にかなり特異な転送門の魔法式が2つ展開され、揃いの隊服のような物を来た子供じみた2体の魔族が出現したっ。


「っ! 下僕だっ」


ダンジョン主の配下! 俺達が下僕と呼んでいる自我を持つ魔族達っ。一斉に全員臨戦態勢を取った。


「こんな時期に無理して降りてきて、結局7階以下に挑めないクセに目障りですねぇ」


細長い方の魔族。直に遭うのは初めてだが有名なヤツ。3級悪魔のシュシュメキア!


「必死なフリで小遣い稼いで内輪で遊んでるだけ~~。ププププッッ」


これはぽっちゃりした魔族。名前は・・よくわからないっ。


とにかく、連中はランクの低い冒険者がダンジョンのインフラに関わる上位モンスターに絡んできたのが気に食わないらしい。

いや、調査自体はそれこそ何十年もやってる。何だ? 何が今回違う、ゴーレム? 少人数で高性能ゴーレムを使って調査を成立させたのが気に食わなかった??


等と考察している内に、細長い方が下等な魔族レッサーデーモン十数体を召喚! ぽっちゃりした方は使い魔のインプを数十体召喚したっ! マズいっっ。


水竜の背に巣を作っていた鳥系のモンスター達も仰天して逃げ惑い、大混乱になった!


シュシュメキアとぽっちゃりは直に参戦するつもりは現時点では無い風だが、レッサーデーモンとインプ達は殺る気満々っ。

早速、アケーに3体のレッサーデーモンが襲い掛かっている!

俺は飛び付いてきたインプの1体を蹴り殺し、小瓶の聖水を被ってシャムシール+1を抜いて水の上を走り、レッサーデーモン1体を斬り捨て、残り2体も追い払った。


「タケシ君、ありがとう」


「まだ終わってない、アケーを含めて数人ずつ組になるように指示してくれ!」


「了解!」


落ち着いて対処すればこれだけ水のある環境でアクアピープルの中でも手練れのアケー達が遅れを取る相手じゃない。

ゴーレムといるエニィプルと、デシカーノも取り敢えず大丈夫なはず!


俺はスキル、壁走りとスキル、縮地を併用して一気に水竜の背を駆け昇る! 錯乱した鳥系モンスター達には構わず避けてゆく。


シュシュメキアとぽっちゃりは接近する俺に余裕の表情で手近なインプとレッサーデーモン達を引き寄せたが、

レッサーデーモンはサンダージェムを使ったエニィプルの電撃魔法で吹っ飛ばされ、インプは試作ゴーレムの散弾の連射で蜂の巣にされ、ぽっちゃりはデシカーノのチャクラムの連射スキルで竜の背から弾き落とされた。


残されたシュシュメキアはギョッとしていたが、俺は光り玉を投げ付け、怯んだ所をスキル、弧月一閃で左腕を斬り落として交錯した。

落とされた腕は灰のようになって消えてゆく。


「あっ、コイツ!」


「主の人形何だろ? 暇にしてるんだな。ウチのゴーレムはよく働くぜ?」


「・・はい、死刑ですね」


シュシュメキアは据わった目付きに変わり、魔力を高めて水竜全体を覆う魔法式を展開した。

ドクンッ! 竜の背から鳴動が伝わり、水竜の力が急速に活性化しだしたっ。起こそうってか?


「あっ! シュシュメキア! 何してんのっ、主に怒られるっ?」


ボロボロになって背に戻ってきたぽっちゃりが慌てている。


「水に沈めてやりますよっ」


「あーダメダメっ、コレ、ダメなヤツ! 一旦撤収~っ!!」


ぽっちゃりは隻腕になったシュシュメキアを軽々と抱えるようにした。


「オイッ、何だ? こっからいいとこなのです、あっ」


ぽっちゃりは強引に転送門を発動して何処かへとシュシュメキアと共にテレポートしていった。


「タケシ! 下僕は退散したけどよぉぅ」


「わかってる! アクアピープルっ、竜を眠らせられるかい?!」


「可能だと思うけどっ、集中させて!」


アクアピープルは隊列を組んで魔法歌(まほうか)を歌う準備を始めた。俺は身動ぎしだした水竜の背から駆け降りてそちらの支援に向かうっ。

こんなと戦ったら5階ごと壊れちまうっ。


だがまだ雑魚が結構残ってた。


「ファイアボールっ! ああもう、もうちょっと陸地があったら電撃で1発なのにっ」


「防衛防衛デス!」


「火力がいるっ、デシカーノはエニィプルをガードしてくれっ!」


「おぉぅ」


攻撃はエニィプルとゴーレムに任せ、俺とデシカーノは援護に専念した。


やがて列を組み、魔法楽器を取り出し、魔法式を編み上げたアクアピープル達が歌いだした。


歌その物が魔法式となって水竜を覆い、鎮静の効果を発揮する!


起きようとする力とせめぎ合いになった様子だったが、けし掛けたシュシュメキアが去った事もあり、水竜はどうにか鎮まった。

鳥のモンスター等もレッサーデーモンとインプを駆逐すると竜の背に戻りだした。


「・・何とか、なったか」


「暫くは念入りに小山ちゃんを見守るよ」


「頼む、探索者以外にはあまり手を出さないとは思うが、下僕達には気を付けてくれ。思ったより自我が強いみたいだし」


「了解。ところで」


急に距離が近くなったアケー。


「回転早い短命種君はお爺ちゃんになる前に、またゆっくりララ・ルーに滞在しに来てね?」


「あ、いや、クエストが、あれば・・」


デシカーノとエニィプルが、無、の表情をし、試作ゴーレムがピポピポ言う中、俺達の定期調査任務はどうにか無事に終わった。



案外楽かと思わせて最後は冷や汗かかされたが、俺達は地上のメーリク市に戻り、風呂を済ませた後で平服でヌゥの定宿の食堂に来ていた。


「伝説の竜かぁ! カッコいいですね」


店員のネイエンは冒険の話に一際関心が強い。


「何かタダの、背中、って感じだったけど?」


身も蓋も無いことを言うエニィプル。


「ええ~?」


「あるこーるヲ検出、えねるぎーニ変換シマス。・・ひっく」


何やら件を出してエールを飲んでいる試作ゴーレム。いいのか?


「あの竜は勇者に試練を与える使命があるらしいぜぇ? まぁ俺達じゃないけどさぁ、へへっ」


モリモッサの農園のジャムを使ったサワーを機嫌好く飲んでるデシカーノ。


「いいじゃないか。いつか本物の勇者の伝説に繋がるなら、俺達だって本物の伝説の一部さ」


そう俺達も伝説! 伝説のバター焼きポテトと伝説の冷やしエールと、伝説の竜の良い夢と、未来の勇者殿に、乾杯だ!!

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