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4級冒険者ショート集  作者: 大石次郎


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13/15

朧月

メーリクダンジョンは雨季が近付くと、水の影響を受ける地下6階から2階の攻略難度が上がり、逆に灼熱の環境の7階から8階の攻略難度は下がる。

3級以上の上級冒険者にとっては好機だが、それは一握り。

この時期、仕事にならない大半の冒険者は別の地に移動するか完全に冒険者活動を休業してしまい、市は閑散としだす。

必然としてならず者が活発になる時期でもある。


そんな小雨の夜、油問屋モモノク商店に悪名高い強盗団ヤスデ一味が犬型のモンスター、ワーグを引き連れ押し込んでいた。

手引きの男に強固な魔法障壁の張られた裏口を開けさせ、不運な店の夜番の者達を有無を言わせず殺害し、分隊は奥で寝ている住み込みの丁稚や若い女中の類いを殺しにゆかせ、本隊は手引きに型を取らせた鍵でやはり障壁付きの蔵を開けた。

だが、ほぼ空であった。


「どういうこった?!」


覆面をしたヤスデ一味の首魁、竜人(ワードラゴン)族のヤスデは怒気をはらんで呻いた。


「じ、実はっ、夕方になって不意に口座の整理すると旦那様が仰有って・・繋ぎをする間も無く」


実際、店主は数代に渡る主に副業で用いた口座が増え過ぎて煩雑化していたのと、それらをざっと数え直してみるとどうも代々の虎の子の類いの金も少なからず有り、大っぴらにし難く一先ず自宅に持ち帰って口の固い会計の専門家に預金できる形に処理してもらう必要があった。

持ち出しは午後には早々に終わった来客対応後に3回に分けて行われ、上手い具合に手引きの者が外したタイミングで2回行われ、最後の1回で事態を知った時には既に遅い。

全て店主が思い付きで、番頭やベテラン従業員以外にはロクに話を通さず数日で決め不意に始めた為、蔵に関しては難を逃れた形だった。


「テメェ」


「ひぃっ、まさかこんな空にしてるとはっ!」


ヤスデは手引きの者を+1はある蛮刀(ばんとう)で斬り棄てた。

即座に訓練されたワーグ達が死骸の脳と心臓を食らった。こういった手合いの者達の蘇生による情報引き出しを避ける常套手段であった。


「チッ、ここまでだ! 3手に分かれるっ、散るぞっ!」


ヤスデ一味はただやみくもに殺戮しワーグ達の腹を満たし、夜の小雨の中、散っていった。


翌朝、メーリク市衛兵署(えいへいしょ)で主に強盗野盗の類いに対応する3番隊がモモノク商店に検分に来ていた。

脱税云々はまた別の隊の仕事である。


「ヤスデ一党めっ、派手にしたもんだ。蘇生は?」


悔しげな隊長のナガオン。惜しい所まで当たりを付けた矢先の惨状であった。


「ダメです、全てワーグを使われました。・・センスメモリー頼りです」


物に触れて記憶の断片を探るセンスメモリーの魔法は適性の求められる魔法だが、メーリク署は常駐で数名使い手を確保していた。


蘇生が叶わなくとも死霊(しりょう)使いを雇って死者の霊を呼び出して聴取する方法もあるが、高額な上に殺害された直後に頭を噛られている場合、ほぼ確実に霊は混乱しており効率的とは言えなかった。

まずセンスメモリーの使い手より希少な交渉可能な死霊使いを探す所から始めることにもなる。


「・・だが多人数と手間でスカを引いてる。(いそ)(ばたら)きをするはずだ。いくつか細かい目溢しは仕方ねぇ、ヤスデ一党の尻尾を是が非で掴めっ!」


「はっ」


ナガオンは小柄なフェザーフット族であったが、血の染みた布を掛けられ失った頭部の箇所の凹んだ丁稚の遺体が運ばれてゆくのを見ながら、鬼の形相をしていた。



2日後、続く小雨の中、ナガオン他数名の3番隊員はドワーフ族の工房の多い区画の外れの寂れた労務者宿を物陰から伺っていた。

と、そこへ


「メーリク迷宮は安定したダンジョンですが、雨季だけはいけませんな」


軽装だが帯刀はしているワーフォックスの男が番傘を手にふらりと現れた。


「何だ、助っ人はお前かよ。ホウデメッヒ!」


「御生憎でしたね。この宿ですか?」


細目を少し開けて見るホウデメッヒ。


「ヤスデとその側近達はな。仕事になれば転移の道具で跳ぶ。まだメーリクにいやがる。それだけだ」


「面倒何で押し込みませんか? 頭だけ斬れば十分でしょ?」


「雑な事を言うない。1つネタを押さえてんだ。一網打尽にしてやるぜい」


そのネタの為に随分小者の類いを見逃すハメになっており、後には引けない筋であった。


ナガオンは数名宿周りに残し、ホウデメッヒを連れて両替商のミミカ屋の向かいの店の2階に押さえた部屋に来ていた。

窓から半身で伺う。

贔屓の客らしいのを1人の猫人(ワーキャット)族のハーフらしいロングフット族の女の従業員が店先まで丁寧に見送りに出ていた。

ナガオンが手引きと見ている女、サキであった。機嫌好くしているが、隙の無い様子もあった。


「いい女ですね。不幸と業が骨身に沁みてらっしゃる」


「他にもいくつか候補があるが、俺の班はアイツでいく。ただ、俺達ゃ顔が割れてるからな。署はわざわざお前を寄越したんだ仕事してくれよ」


「ワリに合いませんねぇ」


そう言いつつも興が乗った風なホウデメッヒだった。


さらに数日後の夜、サキは小ざっぱりとした格好に着替え、ミミカ商店からかなり離れた洒落た酒場に来ていた。


「何か軽い物である?」


サキはバーテンに扮したホウデメッヒに言った。


「ええ」


ホウデメッヒは自然に応え、他の作業と変わらぬ様子で一杯のカクテルを作った。


「ミスティックムーンです」


鋭くカットした黄色い果皮の柑橘をあしらった苦味のあるムース状のソースを浮かべた度数は低いが甘さは薄いカクテルだった。サキの好みは既に調査されている。


「いいね」


気に入った様子のサキ。


「メーリクだと雨季前のこの時分の夜の晴れ間に、朧月がよく出ますので」


さりげなく言い、直ぐに別の作業に入り、程好いタイミングで再びサキの近くのカウンター内で食器の整理をしだすホウデメッヒ。


「・・私の故郷は山村だったから、暖かい日に雨が降って夜に晴れると、よくそんな月が見えたわ」


会話の続きを始めるサキ。この女がヤスデの情婦の1人で酷い扱いを受けていることも調べられている。


「冒険者の方々はこの時期、よく帰郷されます。ふるさとには帰られないんですか?」


やや強いが押すホウデメッヒ。


「色々有ったからね」


「そうですか。メーリクも良い街です。人の入れ替わりが多くて、返って気楽何ですよ」


「そうね・・私もいつか誰かと入れ替っちゃうでしょうね」


ホウデメッヒは薄く笑みで返し、あとはカウンター作業の合間に当たり触り無い会話を少しするくらいだった。

サキは存外長居をしたが、居合わせた無関係な男の客に口説かれると面倒がって帰っていった。

ホウデメッヒは直ぐにキッチンの奥に引っ込み、紙煙草を山程吸って待ち構えていたナガオンに合流した。


「どうだ?」


「ありますね。しかし事前にこちらに寝返らせるのは難しいでしょう」


気位がある。だが今回の連中の仕事が上手くいったとしても、もうあの女は限界だろうとホウデメッヒは了解していた。



果たして、雨は降らず、雨雲ばかりが早く流れる生温かく暗い夜。

ヤスデ一味は現れた。


ミミカ屋の構造はそう悪くない。蔵はともかく丁稚や女中の寝所が蔵や裏口から遠く、夜番が詰めている小部屋も多少は裏口から離れていた。

前以て小芝居を仕込むのは無理筋としても、消音効果の道具等を使用すればサキが手引きしている間に逃がす間がある。


裏口からそれなりの広さの裏庭になっており誘い込みにもいい。

扉を潜っても店の魔法障壁が解除されるワケではなく、転移対策になった。ワーグには消臭剤で初手は対処できる。

ナガオンは店主には話を通したが、前回のしくじりで慎重になっているであろうサキに気取られぬよう、敢えて蔵はそのまましてあった。


雲間の淡い月明かりの中、サキが内から解錠し、ヤスデ一味とワーグの群れが入り込む。

一味は油断無く得物を持ち、ワーグを引き連れ、まずは夜番狙いで店内を目指し裏庭を進んだ。

ここで店外に密かに回り込んていた隊員が扉を閉め直し封鎖の魔法道具で厳しく固めた。

一味が戦慄する中、物陰から3番隊と武装したホウデメッヒが姿を表し、サントーチのランタンを構える。

陽光を苦手とするワーグが悲鳴を上げて怯む。


「そこまでだっ! メーリク衛兵盗賊当たりの3番隊っ、ナガオンだ! 神妙に御縄に付けぇい!!」


「売りやがったのか?! どいつもこいつもっっ」


ヤスデは激昂して蒼白になっていたサキに蛮刀を振り上げた。


「違うっ」


容赦せずに血生臭い得物を振り下ろすヤスデ。

これを加速走行スキル、縮地(しゅくち)で突進したホウデメッヒが刀の峰を用いた強打スキル、岩鳴り(いわなり)で大きく払った。

この火花を皮切りに一気に乱戦となった。


「勘違いしないで下さい。君達が間抜けだっただけですよ?」


「爆ぜろっ!」


ワードラゴン族のスキル、サンダーブレスを吐く一味の他の者やワーグを巻き込んでもまるで構わない攻撃であったが、ホウデメッヒはサキを片手で抱えて飛び退き、隊員の1人に投げ渡した。


「化かしたね」


「御免なすって」


ホウデメッヒは酔ったヤスデ以外の配下やワーグにはさほど構わず、対ヤスデに集中し、裏庭を駆け回った。

速さと技量で勝り、ヤスデを浅く削ってゆく。


「はぁはぁっ、犬っころが! 喰い殺してやる!!」


ヤスデはスキル激怒を使い種族的特性も有り、身体を膨張させ纏っていた黒装束を破って胸部のヤスデの彫り物を見せ付けた。

竜その物の姿である。


全身が帯電し、圧倒的な身体能力でホウデメッヒに突進し続け、進路上の手下やワーグを引き裂き、武装した3番隊員達を弾き飛ばした。

しかし、ホウデメッヒが縮地と岩鳴りを器用に器用に捌きいなしながら岩鳴りの衝撃で多少は損耗を蓄積させてゆく。


「激怒スキルは心に芯が無いと無駄に暴れるばかりですよ?」


煽りにヤスデは咆哮を上げ、より強力な雷のブレスを吐くべく大きく仰け反り雷を口に溜めた。

この機をナガオンは見逃さず、乱戦にあまり加わらずにランタン持ちに専念しているかに偽装させた2名に合図を送り、動きを止めたヤスデに向かって地属性のペトロジェムを投げ付けさせた。


ビシィイイッッッ!!!!


全身を半ば石化され、雷を打ち消され驚愕するヤスデ。

これに合わせて飛び掛かっていたホウデメッヒはスキル、兜割(かぶとわ)り・改、でヤスデを両断し、仕止めた。


程無く、残存のヤスデ一味は捕えられ、ワーグも駆逐された。

目に障るサントーチのランタンの光量は押さえられると、流れる霞の雲の向こうの月が際立つようになっていた。


ホウデメッヒは月を見上げながら連行されるサキに語り掛けた。


「長い務めになりますね。1度は故郷に帰られるとよいですよ。上手い具合に、忘れられているでしょう」


サキもまた風は強い淡く青白い空を見上げていた。


「いい月ね」

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