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4級冒険者ショート集  作者: 大石次郎


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12/15

戦士のソナタ

・・バザ紛争は先日の和平交渉の成功で終戦していた。だが、


「本部っ! どーなってる?!」


蘇生の当ての無い死んだ通信兵の担いだ水晶通信器に怒鳴る。

急拵えの魔法障壁展開器等、そう持たない。


戦神(せんじん)を信仰する敵将は戦死を誉れとして退くことを知らず、薬物浸けの敵兵団も死を恐れることなく進軍を続けていた。

ただの特攻ではない。物量がこちらの8倍はあった。象型のモンスター、ギガファングビーストを多数有しているのも始末が悪い。


「防衛線は放棄して構わない。飛竜魔法兵団を派遣した。爆撃で処理する」


「しかし、市街地がっ」


後方にはこれまで支援してくれた街があった。


「我々本部は渓谷地帯での交戦を提案していた。君の隊の閣下には無下にされたがね」


物資もヒーラー隊もロクに寄越さずに!


「後になれば何とでも言える!」


「閣下もお亡くなりになられた事でもある。賢明な判断をしてはどうかね? ゴリアス分隊長閣下。ハッ」


「インテリ糞野郎っ!」


俺は乱暴に通信を切った。


「ゴリアスどうするっ? これじゃ玉砕にもならない!」


下級貴族な上に所属も違ったが、なし崩しで俺の副官になっている熊人(ワーベア)族の男が問うてくる。


「バルタン隊は街に避難勧告っ! こうなっては防衛は無駄だっ。俺達は後退しながら少しでも陽動する!」


避難と言っても街の先は野生のモンスターと夜になれば紛争で増えに増えたアンデッドモンスターだらけの荒野が広がるだけだが、全て手遅れだった。


「了解っ」


ここで前面全域をカバーしていた魔法障壁が相手方の自爆特攻の連発で破れた。後は点在する小規模魔法障壁だけだ。


俺はバカみたいに重い、ファイアジェム式の連射ボウガンを構えた。


小規模魔法障壁へも特攻が始まる。寄せ集めの軍隊だ、応戦と撤退開始は同時多発的になる。


「馬鹿野郎がっ、馬鹿野郎どもがっ! 何も手に入らねぇぞっ?! オォォーーッッ!!!」


俺達は誰もが知性の足りない作戦に踏み込むしかなかった。



「ぅっ?!」


俺はピアノバーのカウンターで目覚めた。ダンジョンで一稼ぎしてすぐに来たもんだから、疲れが抜けてなかったんだろう。呑み過ぎてもいた。

嫌な汗をかいている。


「夢か、・・最悪だぜ」


当然だが、ピアニストの演奏が続いている。いつの時代から弾いてるのかわかったもんじゃない初老のエルフが弾いている。


「ソナタか」


知ってる曲の展開部だった。目が覚めるような転調ってヤツだ。


「やぁゴリアス」


不意に知った声がした。


「ホウデメッヒ」


狐人(ワーフォックス)族の4級侍職だ。腕利きだが、面倒なヤツ。


「君、バザ紛争還りでしたよね? この間、貧民街のDの3区のバザ難民系の孤児院が揉めてるのを見掛けましたよ? 借金でしょうね」


グラス片手に探るように言ってくる。

ブン殴られても仕方ない絡み方だが、相手を選んで絡んでるとこちらがわかっていることを知った顔で絡んできている。


こういうヤツ!


「俺は知らないぜ。帰還兵全員の責任ってか? 冗談だろ?」


「ただ忘れるのは後味が悪いですし、君を見掛けたから言ってみただけですよ? お邪魔しましたね」


言うだけ言って、さっさと獣人の女ばかりのテーブルに去ってゆくホウデメッヒ。


俺は無視を決め込んで、酒の代わりにスモモの炭酸水と瓜の酢漬けを頼んでイライラしていたが、


曲が再現部に入った。繰り返しのテーマ。


「あーっ、具合悪い」


ホウデメッヒっ、明らかに引っ掛かりそうな間抜けを探していたに違いない。



件の孤児院を探して行ってみると、早速入り口で子供らとチンピラが小競り合いをしていた。


一応ギルドで事情はざっくりとは調べている。何の事はない。


難民系孤児院で特にバックも不正も無い所はどこも金欠。チンピラが高利貸しを仲介。借金が溜まった所で人身売買紛いの話を迫ってくる。

どこにでもある糞ルーチンだ。


ただこのチンピラ一味はどうもバザ紛争で国を失った側の難民系ストリートマフィア。孤児院は国は戦勝したが、紛争地は酷い有り様で逃れてきた者達の施設。


意趣返しでハメた、ってとこか。

と、金玉を孤児に蹴られたチンピラが激昂してナイフを持ち出した。生粋のマフィアじゃないから素人臭いヤツだ。


俺は何も言わず近寄ると、ナイフを握り砕き、俺より背の高いロングフット族のチンピラを下から睨んでやった。


「金玉も握ってやんぞ?」


チンピラはヒッ、と玉を押さえて下がった。


「ど、ドワーフの雑種かよっ、覚えてやがれ!」


教科書通りに捨て台詞を吐いて駆け去っていった。だが、半端者だけにほっとくとムチャする可能性は高い。


「通して下さい」


いつの間にかできていた冷やかしの人集りを抜けて、僧侶風のハーフエルフの女が来た。

少し傷付いた俺の手を見て、前置き無く手早く手当てを始め、ヒールの魔法を掛けた。施設の者だろう。


「ムチャをしますね」


「ああ、まぁ」


「お茶を出します」


断って去ろうとしたが、振り返らずに、俺におっかなびっくりな子供達と孤児院に入っていってしまったので、タイミングを逸した。

治療の所作といい、強情なタイプだな。


茶は安いがバザ地方のバザルイボス茶だった。

僧侶はバザの慈善派のシスターらしい。俺の腕の軍時代のタトゥーを見ていた。


「まだ紛争は尾を引いています」


「憎悪が残らない戦争何て無いだろ? ホットドッグのオニオンピクルスみたいなもんだ」


「・・・」


スベったな。チッ。

こっから特に話すことはなかったがシスターは茶を出す義務感を感じてるようだし、こちらも飲まないワケにはゆかなった。

それにしたって子供達が感心を示して部屋の外から様子を伺ってるのも、あまり慣れられるのも敵わない。俺は飲み終わるとさっさと孤児院を後にした。

スベっただけだ。オニオンピクルスネタはもう一生言わねぇ。



その足でチンピラ達のアジトに向かった。


「あっ、アイツですアニキ!」


チンピラは13人か。武装は軽いが、軍崩れらしく一様に3連短銃を持ってるな。

アニキ、はそれなりの面構えをしていた。


「そのタトゥー、ノノキ連隊か。落ちぶれたもんだな」


所属してた頃よりタトゥーが増え過ぎな上に何のタトゥーかさっぱりわからん。無駄に足しやがって。


「ぬかせっ」


俺が言うのも何だが、短気だな。一斉に発砲された。

攻撃の統率だけは軍仕様だ。それでも短銃の型が軽い。俺は平服だが、鉄のドワーフの血が半分流れ4級の狂戦士職の身体と特性がある。

相手は大型のモンスターや岩を紙みたいに切る強壮な特殊個体でも何でもない。

俺は多少加減して、スキル、激怒を発動させた。

後の治療が面倒なのでめり込んだ鉛玉は筋肉を締めて外に出す。


「何だコイツっ?!」


「いやだからナイフ握り潰したって言ったじゃないッスかっ?!」


動揺してるが、向こうもここで逃げたら一味として終わり。まして俺の腕のタトゥーを向こうも見ている。


「連合の帰還兵だ! 舐められてたまるかっ!!」


「「「うっ、うぉおーーっっ!!!」」」


ヤケクソ気味だが逃げはしなかった。いい加減、連中も相手が人なら急所を狙えばいい気付くだろうから油断はしない。

1人ずつ、互いに邪魔になるよう位置取りを意識して殴り飛ばして昏倒させてゆき、最後のアニキはそれなりの頑強さから逆算して腹に拳を打ち込んで、吹っ飛ばして悶絶させるに留めた。


「フーッ、フーッ!」


足りない。相手がかつての敵軍となれば尚更だ。俺は怒りと闘争心で意識が飛ぶ前に事前に用意しているアイスジェムの欠片を自分に使った。


ビキィイイッッッ!! 全身が霜付く。ダメージが入るくらいでちょうどいい。俺の属性は火だしな。


「フゥッ!」


全身の霜を払い、湯気を出しながらどうにか激怒を解除できた。


「・・借金は立て替えてやる。もう終わったことだ。孤児相手に見苦しい真似をするな」


「ううっ、ゲホッゲホッ、何も終わってないっっ。俺達の祖国はバザのカスどものせいで消えたっ」


「俺達はもう古い。次の代に同じことをさせるのか?」


「・・・っっっ、クソがっ!」


ギリギリ堪えていたチンピラ達のアニキは膝をついた。


「チクショウっっ・・」


男が泣く様を眺める趣味は無い。俺はウワバミの巾着から相当額の金貨の入った袋を取り出し、投げ渡し、その場を去った。



思ったより出血が多かったのと取り出し難い位置に鉛玉が1発入っていたので、ツテのある貧民街の治療院で手当てを受けた。

そこにボランティアに入っていた1度もパーティーは組んだ事の無い無愛想な僧侶のヌゥに「一晩くらいは入院するように」と厳命されちまった。

6人部屋の病室で大人しく寝ていると、孤児院のシスターが入ってきた。


「借金を立て替えてくれたのは貴方ですね。その傷も・・」


「いい。帰ってくれ」


「ゴリアスさん」


「間が悪かっただけだ。もう関わるつもりもない」


「ありがとうございました」


「よせよせ」


頭を下げられ、心底困惑させられた。


翌日、あちこち包帯や湿布薬をしている俺は馴染みのピアノバーに入ると、


「はぁ、またこの曲か」


件のソナタが演奏されていた。

店内にホウデメッヒの野郎はいなかったが、代わりがいやっがった。


「おうっ、ゴリアス! 久し振りじゃんっ?!」


「お久し振りマッスル!」


ザンムシカとモリモッサか・・。面倒そうなザンムシカと、パーティーで役割が被る上に冒険者活動の頻度の低いモリモッサとは組んだことはなかった。


「ホウデメッヒから聞いたぞ? 金欠だって? そろそろオイラと組む時が来たようじゃん?」


あのお喋り狐野郎っ。大体どこで知った??


「僧帽筋も言っている。時が来た! それだけだ!! とっ」


意味がわからん。


「めちゃ儲かりそうな話何だよ? マジでっ」


「因みに俺はケーレゾ市で農園の物産展があるから不参加だっ、ハッハッハッ」


「・・ちょっと一回、黙ってくれねぇか? メーリクエールの黒を一杯」


俺はカウンターに向かった。


「何だよぉっ」


「まぁまぁザンムシカ、俺の、メルメル鶏の大葉ササミ蒸しを分けてやるぞぉ?」


暫く無視して傷に沁みるな、と思いつつ飲み食いしていたが、曲が展開部に切り替わった。

目が覚めるような転調。そして、俺の預金額。

俺は毛むくじゃらと鳥マッチョの席に振り返った。


「で、分け前は? 俺は安くはないんだぜ?」


「おっ? そうこなくっちゃ!」


「むむっ」


他のヤツの思考が簡単に入ってくる。今はこの稼業がちょうどいいぜ。

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