爆進! 兎騎士団!! 後編
というワケで私、ヨモギの監督の元、訓練と偵察と誘導と仕込みが組織的に行われることになった。
元々やってるだろう偵察と誘導を平行して念を押すのは、訓練期間を確保しつつ、決行時の成功率を上げる為。
まず一回拠点近くまで接近されてるから、ほぼ拠点は特定されてると考えるべき!
騎士スクールの頃、講師だったか正規の教官だったかに言われたことがある。
「天才やツテだけでどうにかできるヤツじゃないなら、鍛える時は鍛えられる環境をまず確保して目的を整理しろ」
当時は、はいはい、って聞き流しててたけど実際冒険者になって、骨身に沁みた。時間取るの大変だし、何やっていいかわからなくなるよね。
そんな体感を忘れず、偵察班と誘導班とトラップ班が頑張ってくれてる内に、討伐班を拠点の広場に集めた。
私は4級冒険者に過ぎないけど、ここでやるべきは私! できる私っ。できろ私っ!
「皆、集団戦だからっ、あまり複雑に考えず自分の役割を深化させて!」
「「「うぉいっ」」」
ちゃんとんした教官じゃないからやっぱ土木作業現場みたいなノリになるね・・ま、いいや。
元々工作は慣れてるらしいトラップ班何かは別として、両手で持つ大盾を使う防衛役とボウガンを使う遠距離攻撃役とそんなに得意じゃなさそうだけど向いてそうな人達にヒールだけはどうにか覚えてもらう回復役の3班に分かれて特訓してもらう!
ソロや5名前後の小規模パーティーの感覚だと単純過ぎるだろうけど、20人を越えてくると個別に細々しても混乱するだけ。逆に言えば役割分担がハッキリすれば人数はそのままパワーになる!
偵察班や誘導班ではトロルを拠点から遠ざけていられるのはせいぜい2日。
トラップ班の仕掛けもちょうどそれくらいで完成する。2日でどうにか、トンネル戦に慣れてはいても基本的には田舎の自警団レベルのエノルースル達を物にしなくっちゃ。
私はトンネル内の昼夜はよくわからないけど、時間で言ったら日暮れまでビシバシ皆を鍛え、訓練が終わったら彼らが備蓄しているポーションや魔法石の欠片を惜しまず使わせて無理から回復させて翌日に備えさせた。
最終日の夜、ランタンを置いた広場で1人、明日に備えてポーションを飲みながら作戦書の確認をしていたら、回復し切れない筋肉痛で大儀そうにエノルースルが歩いてきた。
「こんばんはエノルースル」
「これを」
エノルースルはあたしに古い型の脱出の鏡を差し出してきた。
「昔、救助した冒険者が礼に置いていったヤツだ。マズくなったらヨモギが使ってくれ。元々あんたの仕事じゃない」
「受け取るけど、その時は救援を頼むよ?」
古びた脱出の鏡を手に取った。
「ああ・・勝手にしてくれ。そこまで頑迷じゃないさ」
「皆は、外の世界に出ないの? ここ3階で、すぐそこ何だよ?」
エノルースルは隣に座って、癖の強いパイプ煙草を暫く黙って吸ってから話し出した。
「怖いんだ。それにここが故郷だと感じている。最初がどうだったか何て、俺達の世代には関係無い」
「故郷は帰る所だよ。それに初めてみれば怖さ何て面白さのずっと後ろにいる。私は貴方達と知り合えたし」
「運が良かっただけじゃないか?」
「運と出会うには行動しないと」
「ヨモギ団長は幸せな人だよ」
「私、団長だったの?」
「兎騎士団だろ? へへっ」
エノルースルは照れ臭そうに笑った。種族が違うからわからなかったけど、たぶん結構若い男の子何だって初めて気付いたよ。
やるべきことはやれるだけやった。
私達は誘導班が誘い込んだ、3階にはあまり無い陰火の燈台を設置したトロル3体の今のねぐらに偵察班の案内で来た。
ヒーラーとタンクは別所で控えてる。
4頭身くらいの、土の塊みたいな棍棒を持つ巨人が3体眠っている。トロルに文化は無い。分裂や大地からこの姿で産まれ、寝てるか狩りをするか食事をするか、だけ。
「我が物顔で寝てやがる」
小声で忌々しそうなエノルースルと頷き合い、私はロングアタッカーの皆に手で合図した。
一斉にトロル達の棍棒を持つ利き手に矢を撃ち込む!
「「「ヴァアアァーーッッッ??!!!!」」」
驚いて起き、痛みと損傷で棍棒を取り落として慌てる。私達は笛を吹き鳴らして煽り、
「後退!」
全速で来た道に取って返すっ。私用に何人かランタンを持ってくれてる。トロル達は激昂して追ってくるけど、利き手の再生の遅れですぐには棍棒の投擲ができず、そうこうしている内に曲がりくねった通路に入り、上手く投擲を狙えなくなる。
それでも鈍そうに見えて1歩が大きいからすぐに距離が縮む。
所々の横穴の高所等に控えているトラップ班は通路の足元に仕込んだ爆破トラップを起動させて、軽くダメージを与えつつ、追跡を遅らせる!
もう一息っ。目指す広間になったトンネルの空間に到着! 体力を温存していたタンク隊とヒーラー隊と合流っ。
ヒーラー隊はすぐに走ってきた私達にヒールを掛けて回復。役割を終えた同行の偵察班は後ろの通路まで後退。
ここは見晴らしがいいから先頭のトロルが広間に入る手前で再生した手で棍棒を投擲してきたけど、タンク隊が一斉に大盾で弾くっ。想定通り! 私達は後ろの通路近くまで下がって迎え撃つ形。
ワーモォール達は全員日除けゴーグルを掛けた。
トロル達はいきり立って広間に雪崩れ込んできた。私は高所の安全圏の岩に潜んでるトラップ班に手で合図する。次の瞬間っ、
ボゴォオオオッッッ!!!!
爆破と共に天井が大きく崩落し、3階のフィールドが露になり、サントーチの擬似陽光がトロル達に降り注ぐ!
声も無く石化して砕け散ってゆくトロル達っ。だが1体はたまたま最後尾にいて日陰へ転がり逃げるのが間に合ったっ。
「プランC! タンク隊行くよ! ヒーラーとアタッカーは最大支援!! 最後だっ」
「「「うぉぉーーーっっ!!!」」」
「ブレッシング!」
私は日陰に逃れた半身石化して片腕になったけどまだ棍棒を持ってるトロルにタンク隊と共に突進っ。ロングアタッカー達が援護射撃しまくる!
「ヴァアアァーー!!」
怒りと恐怖に狂ったようにタンク隊を殴りまくるトロルっ。ヒーラー隊がヒールを連発する。
「はっ!」
私はタンク隊をピョンと飛び越え、ブレッシングの幸運頼りにトロルに飛び付き腕を駆け上がる。ロングアタッカー達がトロルの両目を射って牽制してくれるっ。
「よいしょーっ!」
槍スキル、ユニコーンスティングで全魔力を乗せたハンドスピア+1でトロルの眉間を打ち抜き、脳を粉砕した。
全身が石化して砕けてゆくトロルっ。
「兎騎士団、完勝っ!!」
落下しながら叫んだ。
「「「わぁああーーーっっっ!!!」」」
着地した途端、胴上げされちゃったよ。
ワーモォールの戻ったら怪我人の治療もそこそこに、大宴会になった。
「エノルースル。この木苺のお酒、美味しいよねっ」
「ヨモギ」
「何?」
エノルースルは封された手紙を渡してきた。
「親書だ。ギルドに渡してくれ。高い税金を払う余裕は無いがよ・・へへ」
「わかった。世代を経たダンジョン生活者へのマニュアルもちゃんとあるから、心配しないで」
「頼んだ。・・最後に来たのが、あんたで、俺達は運が良かった。何てな」
「でしょー? ふふふっ」
バッチリ大団円、となったワケだけど・・
「ヨモギ団長! 何てこったっ、ロープを切らないでくれよっ? 上に吸い込まれちまっ」
後日、代表でエノルースルとお供の2人が地上に来てくれたんだけど、空の高さに仰天して、全員自分達と私の腰にロープを巻き付けて、しがみ付いてきちゃう感じになった!
「切らないよ? というか、ポヨヨ、コレ、大丈夫かな?」
ポヨヨもメーリク市の案内にとギルドから派遣されてる。
「ダンジョン生活者の空恐怖症はよくあること何ですよぉ?」
「高い、高過ぎる・・おいっ、ヨモギ! アレは何だっ、甘い匂いがするっ!」
「クレープ屋だよ?」
「食べたいぞっ」
「俺もっ」
「あたしもっ」
クレープ好き何だ。
「わかったわかった、奢ったげるよ。ポヨヨ割り勘ね」
「えぇ~っ?」
「だが、くっっ、あそこまでたどり着けるか? フラフラするっ」
「いや、40メートルくらい歩くだけだから」
綱渡りしてる感覚なのかな?
「うおっ? 馬だ! 馬が籠を引いてるっ、轢かれるぞヨモギ! 注意しろっ」
「馬車ね。馬車道走ってるから」
今歩道ね。
「うぉおお、何だあの鳥の群れは? 食えるのか?」
噴水広場の鳩の群れに反応っ。
「鳩ね。ドバトは美味しくないのと衛生面に問題あるかも?」
「ヨモギ! アレは何だ?!」
「もう何~??」
エノルースル達は数日こんな調子で、私はそれから数年、メーリクダンジョン3階のワーモォール達の世話人として活動することになったんだ。




