爆進! 兎騎士団!! 前編
サントーチの灯りが眩しいくらい。私はメーリクダンジョンの地下3階のとある草地の丘に仰向けに寝転がっていた。
さっき飲んだメロン味のポーションの回復効果と滋養と水分が全身に回ってゆく。腹に1発食らった鈍痛が引く。モンシロチョウっぽい蝶々が飛んでいる。
周囲にモンスターの気配は無い。
わりと近い所に私が倒したデカい猪型のモンスター、チャージボアーの死骸が転がってるだけだ。
ノイズインセクトの斥候が少し集り出してるね。
「あー、ハグれちゃった。これは完全に」
何だかんだで仲間と大きく離れてしまっていた。1番近い魔除けの野営地まで結構遠い。あそこ、水晶通信器あったっけ?
「しょうがない、行くしかないかぁ」
私は身を起こし、マップとコンパスを確認。ああ、通信器あるね。型古っ。
野営地の水のタンクのコンディションは不明か・・。
こっからトラップの無いルートは・・めちゃ遠回り、というか、こんなとこ、普通通らないよね? 何も無いし。
このマップ情報古くないかなぁ?
不満と不安で挙動不審になっちゃったけど、私はハンドスピア+1を手に出発することにした。ダンジョンでは安全地帯以外がずっと安全ってことはない。
まして林と草地が延々続く3階は、部屋や通路の体を成してる所の方が少ないからね。4階よりかはマシだけど・・
マップじゃ分かりにくい高低差や木も草の育ち具合以外はそう違和感も無く、モンスターとの無駄な交戦は避けつつ進んだ。
この間のデシカーノに続いて半死半生での救出は避けたいよね。
ちょうどいい木の上に登って葉に身を隠しながら現在位置を念入りに確認し、問題無さそうだったから、野営地までもう少しだな、何て思いながらワーラビット族の跳躍力と着地力でピョンと少し先に跳んで草地に降りるた。すると、
ボコッ! 着地点を中心に半径5メートルくらいの円形に草地の地面が抜けて、陥没した!
「あ」
抜けた草地の破片と共に落下してゆく私! トラップ? いや違う、ダンジョンの変動による物だ。土の地面の3階は比較的陥没が多い。使われないルートなら尚更リスクは高いのに、失念してたっ。
4級なのに、私のバカ! と思いつつ、そこは4級っ。私は素早くハンドスピアの柄にロープを結び付け、ズレても石突きの出っ張りに引っ掛かるように落下している円柱状の壁面に槍を投げ付けた。
ガスッ、槍は壁面に突き刺さり、私はどうにかバランスを取ってぶら下がった形になった。
「よっし」
明かりが届いてる下を見ると、そう深くない。縦穴の底は横穴になっていて崩落でそこに小山ができてた。
「4階じゃないね。乾いてるし、近過ぎる。ま、帰ったらギルドに報告しよ」
と言った側からガコッ、刺さっていた槍が周りの壁面ごと抉れて取れちゃった。
「嘘ぉ~っ?! ディフェンド!」
守備魔法で障壁を張り、事故らないようにロープを引っ張って槍を回収しつつ、結局私は眼下の横穴の小山に落下した。
「あっぶなっっ」
高さや小山の硬さがそうでもなかったから、障壁は7割は残ってた。こっから登り直すのしんどいな、脆い壁面は、スキル、壁走りで走った方が返って安全。
等と考えながら土煙が晴れるのを待っていたら、
「?!」
小山を囲まれるている気配! 土煙が晴れると、癖の強い造りのボウガンを構えた揃いの妙な装備で身を固め日除けゴーグルを掛けたモグラ人族が小山の天辺の私を取り囲んでいたっ。
取り敢えずディフェンドはキープ!
「・・・私1人に物々しくない?」
メーリクダンジョン発見の比較的初期、3階でワーモォール族の目撃例が頻発したことが確かあったらしいけど、すぐに姿を消していたはず。
「何だ、冒険者か。それもそうか、上から来たしな・・」
リーダー格らしいのが何やらブツブツ言い出したけど、一団のボウガンの構えは解かれない。
「よくわかんないけど、誤解だったのかな? じゃ、上に戻っていい? 急いでるんだ。ハハ」
笑って誤魔化してみる。
「ダメだ。一旦、俺達の拠点に来てもらう。安心しろ、冒険者を食べる程、食糧には困ってない」
リーダー格はニッと笑ってきたけど、モグラジョークは私にはちょっとよくわからなかった。
私は状況的に縦穴を登り切るのは無理そうだし、横穴に逃げるのは不確定過ぎたし、戦うのは相討ちか瀕死になるのがオチだと判断し、拘束は受け付けず装備も手離さない、という条件でワーモォール達についてゆくことにした。
モグラ達は警戒はしつつも日除けゴーグルは上げ、微妙な間合いで私を囲んで迷路のようになった横穴を誘導していった。
種族的に暗所でも見えるはずだけど、一応私の為に拾い物っぽい古びたランタンを近くにいるモグラ達は持ってくれていた。
「初期に先住のワーモォール製のトンネルが3階のあちこちにあった、って授業で習ったけど、まだあったんだ」
リーダー格に話し掛けてみる。
「授業? ハッ。今は最低限度だ。だが、お前達が3階は探索し尽くしたと思ったらしい20年程前からは多少動き易くはなった」
「へぇ」
もう少し詳しく話したかったけど、リーダー格は私がやたら話し掛けだしたのを億劫がって隊の前の方に移動してしまった。
魔除けの門や物理的に閉ざされた門をいくつか抜けて、やがてワーモォール達の拠点に着いた。
「暗っ」
灯りは申し訳程度だ。酸欠や一酸化炭素を嫌ってか篝火ではなく3階の地表から拝借したらしいサントーチをかなり光量を落としてあちこちで灯していた。
中型の拠点だけど蟻の巣みたいに多層構造の部屋が多く、最大で80人くらいいるかも?
「俺達にはこれくらいでいい。トーチは迷宮から切り離してあるから、燃料の節約にもなる。こっちだ」
また前に出てきたリーダー格は私にランタンを1つ渡して歩きだす。私はディフェンドを解除した。いい加減意固地だし、魔力切れそうだし・・
そのまま少人数で1番構えのしっかりした蟻の巣みたいな部屋に通された。
「今は暫定で族長をしている。俺の家だ。俺達はこのダンジョンの先住者だ」
「だよね。だと思った。私、ヨモギ! 4級騎士職だよ。あ、貴族じゃないからね? ギルドの冒険者職」
「わかっている。俺はエノルースルだ。座るといい」
「どうも」
それから大した会話も無いまま、食事が運ばれてきた。エノルースルは大きなミミズを調理した感じのワイルドな料理だったけど、私のは茶、蒸留酒、果物とハーブと芋に淡水魚や淡水甲殻類、何かの鶏肉の概ね普通の料理だった。
「冒険者を救助したり捕獲して、飯を食わせることもある。毒は入ってない。食え」
「・・頂きます」
食べないってワケにもいかないし、簡単にお祈りしてから手を付けてみた。淡白でスパイシーな味付け。
そこからポツポツとエノルースルは彼らの身の上を話し出した。
200年程前に何らかの経緯で彼らはメーリクダンジョンで1番彼らに取って住み易かった3階に定着。
やがて50年程前にメーリクダンジョンは地上に人々に発見され、彼らは大慌て!
全体の3分の1はさらに地下を目指し、別の3分の1は抜け道から地上へと出て行ってしまった。
最後の3分の1は冒険者からコソコソ逃げ回りながら、たまに関わると口止めをしてどうにかやり過ごしてきたらしいけど、段々肩身の狭い暮らしに抜けてゆく人々はさらに増えていったらしい。
「残ってるのはもう70人くらいだ。地下を目指したヤツらがどうなったかはわからない・・」
6階に、暗黒神を信仰する堕落したワーモォール、ヘルモォール達が棲み着き未だギルドは殲滅も交渉もできてない。
その事は取り敢えず黙っとこう。これまでの人達も言わなかったみたいだし・・
「俺達の事は秘密にしてほしい」
「それはいいけど、よくこれまで秘密を守れたね」
「年に1人か2人程度だ。危うそうなヤツは近付かないし、そもそもそういうのはどの時点でかで襲ってくるから返り討ちにしてきた。場合によって」
エノルースルは配下に素焼きの小瓶を持って来させた。薬品臭がする。
「刺激は強い。この忘れ薬を飲ませたりもする。数年は記憶が飛ぶから、なるべく使わないが」
「私! 口は固い方だからっ」
断固拒否っっ。
「最初、何かと勘違いしてたみたいだけど?」
話変えよ!
「ああ、トロルだ」
「えっ? 3階にトロル??」
トロルは6階のモンスター。分類で言ったら下位の巨人だけど特殊なモンスターで、土と岩と巨人の中間のような存在。日光を弱点とするけど脳か心臓を潰さないとすぐ復活しちゃう!
「どうもダンジョンの変動で、先祖や地下に潜った連中のトンネルと3階が一部下層と繋がったらしいんだ」
エノルースル達はそれらしいトンネルは既に塞いで、入り込んだ下層のモンスターもトンネルの人工崩落や爆破トラップ、遠距離からのヒットアンドウェイで倒してきたけど、再生力の高いトロルが3体残っていて、獲物の気配に拠点まで近付いてきたのをどうにか安全圏に追い払った帰りに私に遭遇してエノルースル達も慌てたんだって。
「ヨモギ、無理にとは言わないが、よく見れば中々手練れだ。良かったら手伝ってくれないか?」
「うーん・・・」
色々考えた。ざっと見た感じのエノルースル達の戦力、聞いた範囲の戦法。そして、彼らの独特な立場。
「条件があるよ?」
「報酬か? 金目の物はあまり」
「じゃなくて! 訓練と偵察と誘導と仕込みをしっかりやろうっ」
トロルは厄介だけど、詰んでるって程じゃない。それにエノルースル達の今後を考えると今、出会した私がスルーしたら、きっといい事にならないからね。




