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5話【崩れる策略】

馬車が町の中心部に到着すると、ネロは丁寧に馬車の扉を開け、ユリエラに手を差し伸べて降りるように促しました。ユリエラはその手を受け取り、しっかりと地面に足をつけると、周囲の景色を見渡しました。


彼女の目には、活気ある町の中心部が広がっています。人々が行き交い、店先では魅力的な商品が並んでいます。さらに、建物の外観や街並みは美しく、歴史や文化を感じさせる雰囲気が漂っています。


ネロは傍らに立ち、ユリエラが安全に降りるのを手助けしています。


「うわ~凄い!!」


ユリエラは元々の世界では、地元の商店街が閉まっている光景が普通だったことを思い出しながら、異世界の活気ある商店街を見て驚きを隠せませんでした。異世界であっても、店先には活気があり、人々が行き交っている光景は彼女にとって新鮮で、魅力的なものでした。


「ユリエラには辛い思いをさせていたから、好きなものを好きなだけ買うといいよ。どこへ行きたい?」


ユリエラはどこへ行きたいかと尋ねられて、少し困った表情を浮かべます。元いた世界では毎日仕事に追われ、休日もあまり贅沢な時間を過ごすことはありませんでした。普段はスーツ店に足を運ぶ程度で、シャレたショッピングというものはほとんど経験がありませんでした。アクセサリーといっても、元の世界の地味な自分の姿を思い浮かべてしまい、選べる気がしませんでした。

そのため、異世界の華やかな商店街でどこに行きたいか悩むのです。


「どこに行きたいかなんて…実はよくわからないんです。今まで働いてばかりだったので…。」


ネロはいたたまれなくなり、思わずユリエラを抱きしめました。


「もう絶対に、ユリエラを不幸にしないから。」


ユリエラは心の中で不安に思いましたが、ネロが自分のことを純粋に思ってくれていることを感じ、振り払う勇気が出ませんでした。


「ありがとう、でも人前だから少し恥ずかしいかも。」


ネロは照れ笑いしながらも、優しく微笑みました。彼はユリエラの気持ちを尊重し、抱擁を解きました。その後、彼は礼儀正しく手を差し伸べ、一緒に商店街を探索する準備ができていることを示しました。


街を楽しむ二人は、賑やかな商店街を満喫していました。街の賑やかな雰囲気に包まれながら、ユリエラは新しい世界に興味津々で、ネロは彼女の楽しい表情に幸せそうに微笑みます。


アクセサリーショップに入ったネロは、ユリエラのために髪飾りを選んでいます。彼は丁寧にユリエラの髪の色や顔立ちに合うものを選ぶため、色々なアイテムを試しましたが、最終的にはユリエラの笑顔にぴったりとマッチする髪飾りを見つけます。ユリエラはネロの真剣な姿に感心しながら、彼の選んだ髪飾りを試してみます。


次に、二人はドレスショップに立ち寄ります。ネロはユリエラにドレスを選んであげようとします。彼は優しく彼女の意見を尊重しながら、彼女が喜ぶであろうドレスを丁寧に選びます。


その後も、飲食店で休憩したりしながら楽しい時間を過ごしました。ユリエラは初めての異世界の街並みに興味津々で、色とりどりの商品に目を輝かせていました。ネロは彼女の興味を引く店や場所を紹介しながら、彼女が楽しむことができるよう配慮しました。


「じゃあ、そろそろ帰ろうか。」

「えぇ。」



帰り道、ユリエラとネロは帰る準備を整えていました。しかし、突然、不穏な気配が漂い、道路の両側から急に賊が現れました。ユリエラとネロは驚きながらも、即座に身を守る姿勢を取ります。賊たちは武器を手にして襲い掛かってきます。


賊たちはネロを容赦なく突き飛ばし、彼を地面に倒れさせました。同時に、もう一人の賊はユリエラに向かって魔法の煙をかけ、彼女を麻痺させました。ユリエラは身動きが取れず、力なく倒れ込みます。そして、賊たちはユリエラをさらい、馬車に乗せて姿を消しました。


絶望的な状況に取り残されたネロは、驚くべき冷静さを保って微笑みました。心の中で、彼は事態が自分たちの思惑通りに進んだことに満足していました。


「うまくいったね。」とネロが言うと、執事が静かに姿を現しました。「後は、ユリエラ様を少し驚かせれば成功です。」執事の言葉に、ネロは微笑みながら頷きます。彼らの計画が着実に進行していることに確信を深めながら、ネロは再び冷静な表情を浮かべました。


一方で、麻痺が解けたユリエラは、急いでメーベルを解放しました。

ユリエラがメーベルを解放すると、赤いピアスが不思議な薔薇の花に変化しました。彼女は薔薇を手に取り、感じたことのない力を感じました。そして、その薔薇を手に乗せて、魔法を放ちます。魔力を込めて火の攻撃魔法を打ちました。彼女の魔法が放たれると、魔法の炎が輝き、賊たちに向かって急速に進行しました。


最初の賊は魔法の衝撃で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられました。もう一人の賊は、ユリエラの魔法によってその場に光るロープで縛られて、身動きが取れなくなりました。


しかし、まだ一人の賊が生き延びており、ユリエラに向かって刃物を振りかざしました。しかし、ユリエラは機敏に身をかわし、メーベルを振りかざして、光の刃を賊めがけて放ちました。その光の刃が賊の体に突き刺さり、彼を倒しました。


戦いが終わると、森の中で雨が降り出し、湿った大地がぬかるんでいました。ユリエラは雨に打たれながら、不安げな表情で周囲を見回します。


「キル… 聞こえる…?助けて、キル…」と、ユリエラは雨の中で座り込みながら呟きます。彼女の声は不安と焦りに満ちており、周囲にはただ静かな雨音が響いていました。


「ユリエラ!」


ガバッと背後から抱きしめられた瞬間、ユリエラはキルエルかと思いましたが、すぐに聞き覚えのある声が響きました。それはパピルスの声でした。彼女は涙を流しながら、振り返って彼を見つめました。


「やっぱりメルドロイドはダメですね。僕と一緒に逃げましょう。」

「逃げるってどこに…。」

「魔法学校に行きませんか?あそこは寮ですし、自由が利きます。」

「どうして?」

「メルドロイド家が賊を仕組んでいました。ユリエラを傷つけて、どこにも行けないようにしようとしていました。」

「そんなっ!嘘よ…。」


パピルスは立ち上がり、自身にかけている魔法を解き、大人の姿になるとユリエラを抱っこしました。


「風邪をひきます。話は後にしましょう。」


パピルスは魔法で扉を出してその中に入りました。


するとそこは、とても広い豪華な部屋でした。部屋の中には魔法でひとりでに動く物で溢れ、不思議な空間が広がっています。壁には美しい絵画が飾られ、床には柔らかな絨毯が敷かれています。部屋の隅々には魔法で作られた奇妙な装飾品が並び、輝く宝石が部屋を照らしています。


「ここは…」

「ここは僕の部屋ですよ。風邪を引くといけませんからね。」


パピルスは魔法の力を使って、ユリエラを宙に浮かせ、優しく体を支えました。その間、彼の手から放たれる魔法の輝きが、ユリエラの服や体の汚れを一瞬で取り除き、さらに衣服を乾かしました。その間、ユリエラは驚きと安心の表情を浮かべ、パピルスの技術に感心していました。その後、ゆっくりとユリエラを近くのソファーに座らせました。彼の手元には暖かな毛布が用意され、ユリエラを包み込むように優しく掛けています。


「凄すぎる。便利ね。」


ユリエラは、パピルスの魔法の技術に驚嘆しました。この世界では、生活を便利にする魔法の方が難易度が高く、攻撃魔法の方が難易度が低いとされているため、パピルスがどれほどの技量を持っているかに感心していました。彼の魔法は、ただ単に力を示すだけでなく、人々の暮らしをより豊かにするためのものだった。その技術の高さに、彼の魔法の才能を改めて認識したのです。


「そうですね。できるようになると便利です。」

「それで、メルドロイド家が仕組んでたってどういう事?」

「はい。メルドロイド家はユリエラを賊に攫わせて、傷をつけさせようとしていたのです。そうすれば、世間的にユリエラが他の誰かと結婚する事も公爵家の外へ出る事もなくなると考えたようです。」

「そんな!?」


ユリエラが驚きの表情を浮かべると、パピルスは深くため息をつきました。その表情からは、彼もまたこの策略に驚きと怒りを覚えていることが伝わってきました。


「しかし、ユリエラが賢明に対処したおかげで、その計画は台無しになりました。」

「初めて魔法を人に向けて…とても恐かった!!もっと早く来てくれれば良かったのに!」

「申し訳ありません、ユリエラ。僕がもっと早く助けに来れなかったことを心からお詫び申し上げます。しかし、ユリエラの勇気と知恵によって無事でいられることができたのです。そのことを誇りに思ってください。」

「パピルスや、キルが私に魔法を教えてくれたおかげよ。あのままメルドロイドで何もせず過ごしていたらと思うとゾッとするわ。」


ユリエラは想像しただけで背筋が凍るほどの恐ろしさを感じました。もしパピルスやキルが彼女に魔法を教えてくれていなかったらと思うと、恐ろしい未来が目に浮かびます。


「それはそれで、幸せかもしれませんけどね。何不自由なく好きなものを買い、好きなだけ遊んで暮らせるでしょうし。」

「でも、それは偽りの幸せだと思う。何不自由なく遊んで暮らすことは、人生の意味や成長につながる経験を積むことができないわ。本当の幸せは、辛い事や苦しい事を乗り越え、自分自身を成長させることにあると私は思う。」


パピルスは驚きながらも、ユリエラの行動に対する感心の表情を浮かべました。


「流石です。辺境伯が言ってた通り、ただの12歳ではないようですね。」

「まぁ、パピルスほどじゃないけど、人生色々学んできましたからね。」

「日本でですか?」

「そう、日本で……え?」


ユリエラは意外そうな表情を浮かべ、不思議そうにパピルスを見ました。


「僕の母国には日本からの女性の転生者が5人もいました。なので、すぐに分かりました。この星の創造主が日本出身なせいですかね?日本人ばかり流れてきているようです。」

「本当!?私以外にも転生者がいるって事!?」

「はい、身近な方ですと、クラリアス辺境伯が10年ほど前に養子にとられた娘さんも転生者だと聞いています。おっと、これは秘密でした。忘れて下さい。」


パピルスの口から漏れた秘密に、驚きと恐れを感じるユリエラは、口を手で覆いました。


「え…喋ってみたいです。」

「それは厳しいですね。軍の最高司令官殿の話を聞く限りでは、相当な執着男に囚われていて、近づくこともままならないと聞いています。」

「えぇ!?メルドロイドみたいなところにいるって事!?」

「あそこは相思相愛の仲なようですから、メルドロイド家とは異なりますが、その方はこの国の第二王子であり、元はケイロス帝国の王であるため、彼女をかなりの力で縛っています。直接話すのは難しいでしょうね。」

「設定がややこしすぎる!!それで相思相愛って…。え…ちょっと待って…まさか…。」


ユリエラは気づいてしまいました。キルエルが現れない理由について、その背後にある何かに気づいたのです。彼女は、キルエルが他の誰かとくっつけたがっていること、彼が呼んでも現れなくなったこと、なぜかメルドロイド公爵家に住めるように手配したこと、そしてパピルスに護衛につかせていることなどを考えてみると、すべては自分の養子の娘のように、ユリエラもそのようにすれば良いと考えたのではないかと気付きました。


「パピルス、キルにはどうやったら会える?」

「え?辺境伯様?…えっと、んー…検討もつかないな…。」


パピルスは本当は知っていました。彼はずっとユリエラのそばにいたからです。キルエルは透明な姿で、ユリエラを見守っていました。パピルスのような実力を持つ者でさえ、彼は微かにしか見えません。魔法を覚えたばかりのユリエラには、その姿は見えませんでした。


森の中で雨に打たれる中、ユリエラがキルエルを呼び続ける姿を、キルエルは彼女と同じ目線でずっと見守っていました。そして、パピルスをユリエラの元へと運んだのも、キルエルでした。高難易度の瞬間移動魔法を軽々と使い、パピルスを召喚したのです。パピルスはキルエルの指示通り、背後からユリエラを抱きしめました。キルエルが自分で声をかけるようにすれば良いとも思いましたが、「抱きしめてやってくれ。」との指示を受けたため、パピルスは行動しました。盗聴魔法をかけていたため、何が起こったのかは理解していました。


なので、パピルスにとって、その状況は非常に気まずいものでした。


一方でユリエラはキルエルに会うために、今後自分がすべきことを考えました。予言書のような物語の本には、ラティー王子と騎士のセトラ、そして今目の前にいるパピルスの好感度を上げれば、キルエルの孫に会えるということを思い出しました。彼女はまずはそこを目指すことを決意しました。


「ねぇ、ラティー王子と公爵家のセトラって人に会うにはどうすればいい?」


パピルスは突然の話題の変化に驚きましたが、同時にユリエラの目の色が微妙に変わったように感じました。


「難しいお話ですね。それこそ、先程ご提案した魔法学校はいかがでしょうか?メーベルを持つ方々は必ず通われる学校です。11歳からの入学が可能です。少なくとも、セトラ様にはお会いできると思います。ラティー王子は卒業だけを目標にされているので、単位ギリギリしか出席されないはずです。」


「そう、決めたわ。そこへ行く。」

「了解しました。手続きを進めますね。入学が決まるまで、この部屋をお使いください。」

「え?いいの?ありがとう!」


ユリエラの隣にいるキルエルは満足げに微笑みました。魔法学校への入学も実は彼の提案だったのです。パピルスはキルエルの提案が成功し、安堵の表情を浮かべました。


その後、パピルスは再びメルドロイド公爵家を訪れました。公爵は結界が消えたことを恐れ、邸宅の前でメーベルである大剣を地面に突き刺し、仁王立ちして魔物の脅威に備えていました。彼の姿は堂々としていて、周囲には厳かな雰囲気が漂っていました。


パピルスは恐る恐る公爵の前に立ち、頭を下げて謝罪しました。


「公爵様、途中で抜けてしまって申し訳ございません。私の失礼な行動をお許しください。」


その声は謙虚で、目上の人に対する敬意が感じられるものでした。公爵は厳かな表情でパピルスを見つめ、少しの間沈黙が続きました。


「私が幼い頃、一度だけ結界が消失したことがあった。魔物の大群がすぐに押し寄せた。近日もユリエラが失踪したことで結界が消失した。魔物がこの領地を襲った。お前が消えてすぐに結界が消失した。どうしたことか、魔物が襲ってこない。なぜだ?」


「その件で、クラリアス辺境伯から手紙を預かっております。」


パピルスは手紙を公爵に手渡しました。

公爵は手紙を開封し、その内容を静かに読み始めました。そして、深い溜息をつきました。


―――――――――――

――――――――



尊敬すべき公爵様へ


私、キルエル・クラリアスより、お手紙をお届け致します。心よりお元気でいらっしゃいますことをお祈り申し上げます。


この手紙にて、公爵領に巣くう時を止められた魔物たちについて報告させていただきます。喜ばしいことに、私が全ての魔物を倒し、公爵領の安全を確保いたしました。これにより、魔物たちは今後は極めてまれに国外から入ってくる程度の存在となるでしょう。公爵領は再び安寧を取り戻すことができることを心から嬉しく思います。


したがって、不要になったホルマックス家を解放していただけるよう、お願い申し上げます。


敬具


――――――――

――――――


「…こんな簡単に終わるものなのか。君も、もう帰るといい。ここに仕事はない。」


公爵は狂気じみた笑みを浮かべ、屋敷の扉を開けて中に入っていきました。

読んで下さってありがとうございます!

お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)

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