表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/11

4話【魔法士団長現る】

翌日、公爵は昨晩、黒ずくめの不審者3人がユリエラの部屋に入ろうとしたという報告を受け、王宮の魔法士団長を招き、ユリエラの護衛を確保しました。 屋敷の警備が不十分だったことへの対策でもありました。


ユリエラの心は複雑でした。 目の前にいるのは攻略対象であり、自身と同じくらいの歳の少年、パピルスでした。 彼はピンクの瞳とふわふわのピンクの髪の毛を持ち、外見からは少年に見えますが、ユリエラにとってはキルエルのように実は年老いているのではないかという疑念が頭をよぎりました。


王宮魔法士団長パピルス・ホルマックスは、可憐なユリエラに向かって礼を尽くしました。


「お初にお目にかかります。王宮魔法士団長パピルス・ホルマックスでございます。 どうぞよろしくお願いします、可憐なるお嬢様。」


ユリエラはパピルスの苗字が同じであることに驚きました。


「え…あ…ユリエラ・ホルマックスです。此方こそよろしくお願いします。」


「同じ苗字みたいですが、僕はスイートローズ王国のホルマックス家の三男です。恐らくこちらがホルマックスの本家ですね。」


ユリエラは驚いた表情を浮かべながら、興味深そうにパピルスを見つめました。


「そうなんですね。実は高熱が出てしまった時、以前の記憶を失ってしまっていて、自分の家のことや両親のことが全く思い出せないんです。」


「ふーん、それは大変ですね。でも、それだけではなさそうですが。」


パピルスは興味深そうにユリエラの話を聞き、その後もじっと彼女の身に付けている魔法のネックレスやバルコニーのガラスを観察していました。 その様子からは、まるでキルエルの魔法の痕跡をたどっているかのような様子が伺えました。


ユリエラも内心では、‶絶対にキルの魔法痕跡を辿っているな、この人は…〟と思っていました。 彼の様子からは、何かを探っているような雰囲気が感じられました。


執事が「それでは何かございましたらベルを鳴らし下さい。」と言って部屋から出ていきました。 この世界のベルはとても優秀で、鳴らすと魔法道具を持つ人の耳に届くという仕組みになっている。


二人きりになった瞬間、「お~い。ユリエラや~」といってキルエルが壁から現れました。 パピルスは咄嗟に魔法を使おうとしましたが、キルエルの方がわずかに早く、パピルスは光るロープでぐるぐる巻きにされ、口にも光る猿ぐつわをされて身動きがとれない状態となりました。


「キル!?今絶対出て来ちゃ不味そうな雰囲気ですけど…。」

「そうじゃろ?ワシも思うた。いや~ちとな。いじめとーなってな。こやつを。」


パピルスは怒っているようで、しきりにうめいています。


「おー、おー、自分が一番だと思うておったようじゃがのぅ。ちと、甘いのぅ。」


キルエルはパピルスを煽りながらニコニコとしています。


「キル、性格が悪いですよ…。」


「ホルマックス家の血筋は魔力が膨大でのぅ。なんせ近隣国の魔塔主の血筋じゃから、この部屋にこやつを置いておいけば結界も継続されたままになり、ユリエラは外に出放題じゃ。」


「えっ!それは便利ですね。」


「じゃろ?上手く使ってやろうと思ってな、ちと細工して、こやつが来るように仕向けてみたんじゃ。」


「キル、貴方また策を…。」


パピルスは殺気を出しながら、しきりにうめき続けていました。


「先に策を講じたのは何代目かのメルドロイド公爵じゃ。ホルマックスの分家をこの国に置いて、定期的に血筋の者を屋敷に連れ込み、結界を作動させておる。 ホルマックスの血筋にのみ反応する結界をな。」


その言葉を聞いて、パピルスは殺気をしまい、大人しくなり、じっとキルエルを睨みました。しかし、その話が半分嘘で出来ている事にユリエラは気付いていました。何故なら、公爵家へくる途中キルエルが公爵領の全ての魔物を倒して回っていたので、公爵が一番恐れる魔物の襲撃はもう起こらないのです。キルエルの事だから、また何か策があるのではと思ったユリエラは結界が必要なくなった事実を黙っている事にしました。


「ようやく落ち着いたかいのぅ。」


キルエルはパピルスの猿ぐつわだけを解きました。


「その話、本当ですか?クラリアス辺境伯。」

「本当も何も、お前さんほどの優秀な魔法士なら気付いておるじゃろ?屋敷に入った時点でのぅ。」

「…おかしな結界だとは思っていました。」

「そうじゃろ。ワシはこうして鳥籠の中のお嬢さんを助けようと思うておるだけじゃ。こやつの父親も必死で魔力量を隠そうとしたんじゃろうなぁ。ユリエラは気付いておらんようじゃが、魔法を使う時、髪の色が…桜色に染まるんじゃ。」

「え!?」


ユリエラは驚きを隠せませんでした。 まさか魔法を使っている間、自分の髪の色が変わるとは思ってもみませんでした。


「時に、パピルスよ。何歳になったんじゃ?」

「この国に来てからは12歳という事になっています。」

「ほぅ。 ではスイートローズ王国ではどうじゃったんじゃ? どれ、本当の姿を見せてみぃ。」


キルエルはくるりと指を動かしてパピルスの魔法を解きます。 すると目の前には20代は越えていそうなピンク色の長い髪をした美青年に早変わりしました。 その美しい姿に、ユリエラも驚きを隠せませんでした。


「年齢詐称の人増えたー!!」

「どうじゃ、ユリエラ。ちと年上じゃが、好みか?」

「うーん…この世界の住民がイケメンばかりでわかりません。後、小さな姿の方が可愛いです。」

「確かにのぅ。後はセトラか。」

「何気に攻略対象全員と合わせようとしてません!?私はできれば距離を置きたいのですが…。」

「何故じゃ。イケメンを選びたい放題じゃぞ。」


キルエルは今度は指をパチンと鳴らしてパピルスをふたたび少年の姿に早変わりさせました。


「キル、私は恋愛結婚がしたいので、このようにお見合いさせられるのは困ります。」

「なんと。しかし、攻略キャラを射止めるには早いうちがえぇよ?」

「そもそも、公爵だとか魔法士団長だとか、結婚したら面倒な人ばかりじゃないですか!」


その言葉にパピルスは吹き出してしまった。


「ぷはっ!なんですか?このお嬢さん。面白い方ですね。」


ユリエラは「面白い方」と言われて、ピクリと眉を動かしました。


「ちょっ!ちょっと!それは男性が女性に興味が湧いた時に使う定番のセリフです!絶対に私を好きにならないで下さいね!」


パピルスは驚いた表情を浮かべながら「あ、あはは…そ、そんなことはないですよ。それにまだ子供ですし?」と笑いながら言いました。


「こうみえてユリエラは30歳らしいぞい。」

「い゛っ!?」


パピルスは顔を引きつらせ、ドン引きした表情を浮かべました。


「さて、パピルスや、ワシを裏切ったら猿ぐつわが強制的に発動するよう、ちと魔法をかけさせてもらったぞぃ。覚悟して生きるんじゃな。」

「は!?それはないですよ…辺境伯。」

「安心せい、ワシちゃんと国王派の人間じゃからな。」


パピルスはしょんぼりとした表情を浮かべました。


「さてと、ワシそろそろ、帰るでのぅ。そうじゃ、しばらくの間お前さんがユリエラの家庭教師をしてやってはくれんか。ほれ、一応他国とはいえ、貴族の出じゃろ?」

「…拒否権がありません。」

「うむ。左様。じゃあの!」


キルエルは軽く手を振りながら、壁の中に消えていきました。

そして、パピルスは深い溜息をつきながら、よろよろと座り込みました。


「魔塔じゃチヤホヤされないから、この国に来たのに…これじゃあ僕も鳥籠の中じゃないか。グスン。」


「御気の毒に…。」


ユリエラは自分が少し悪い気がして、気の毒そうな目でパピルスを見つめていました。


「全くですよ。で、魔法を教えれば良いんですか?メーベルはお持ちですか?」

「メーベルって何ですか?」

「魔法を使う為の媒体ですよ。」

「あぁ!これの事ね!」


ユリエラは机の上に置かれている赤いピアスを手に取り、パピルスに見せました。


「…メーベルは必ず肌身離さず持つのが常識です。命の次に大事なものなので。」

「へぇ…。」


パピルスは丁寧に、ユリエラにメーベルの使い方を教えました。まず、手に持った状態で「メーベル」と口にするか、心の中で言うことで、媒体を変形させることから始めます。そして、メーベルについている宝石の色によって属性がわかります。得意な属性から伸ばしていく感じで使っていくと、効果的だとパピルスは説明しました。


ユリエラの魔法の才能に興奮したパピルスは、昼食を忘れて夜まで魔法の指導を続けました。しかし、夜遅くまで魔法の勉強をしていることに心配を募らせた執事が、ドアを軽くノックして部屋に入ってきました。


「ユリエラ様、パピルス様、そろそろお食事をとられてはいかがでしょうか?」


ユリエラとパピルスは互いに顔を見合わせ、夜に気づいて笑い合いました。お互いに時間を忘れていたようです。そして、執事の提案に従い、二人は一緒に食事をすることにしました。楽しい雰囲気の中で、彼らは魔法の話題や日常の出来事について話し合いながら、美味しい食事を楽しみました。


ユリエラは食事を終え、心地よい入浴を済ませた後、耳に優美なバイオリンの音色が届きました。その美しい音色は静かな夜空に響き渡り、ユリエラの心を引き付けました。

バイオリンの音色に誘われるように、ユリエラはバルコニーに出ようとすると、突然パピルスに手を止められました。彼は静かにユリエラの手を握り、優しい表情で彼女に微笑みかけました。


「ユリエラ、今夜はもう遅いですよ。外は危険かもしれません。」彼の声は心配そうでしたが、同時に優しいものでした。


ユリエラは彼の言葉を受け入れ、バルコニーに出ることを諦め、彼と共に部屋に戻りました。


バルコニーの外にいるネロフライトを悟られないように、パピルスは彼に睨みを送りました。彼は深い眼差しでネロフライトを観察し、周囲に気づかれないように慎重に振る舞いました。


パピルスは静かにネロフライトのバイオリンを観察し、その楽器が実はメーベルであることに気付きました。彼の目は鋭く、音色が魅了の効果を持つことも察知しました。パピルスは深く考え込んだ後、ネロフライトの目的や意図についてさらに探求することを決意しました。


一方で、執事がネロフライトの元へ姿を現しました。静かに報告すると、ネロフライトは少し不満げな表情を浮かべました。


「そうか。邪魔だなぁ。あの魔法士団長。」


ネロフライトの口調には苛立ちが感じられ、不満を滲ませています。彼はユリエラが就寝したことを知り、その後ろめたさや焦りがうかがえます。


「まあ、仕方ない。でも、僕の計画に影響が出るのは困るな。あの魔法士団長がうまく邪魔をしないことを祈るしかないか。」


執事はネロフライトの心情を察し、軽く頷きながら「私も彼の行動には注意を払います。ですが、あまり心配せずに、計画は着実に進行しています。」と慰めました。


ネロフライトは執事の言葉に少し安心したような表情を浮かべましたが、まだ不満が残っているようでした。


「そうだな。とにかく、僕たちの目的はユリエラの心を掴み取る事だ。そのためには、彼女の信頼を勝ち取ることが肝心だ。魔法士団長が邪魔をしても、僕たちはそれに対応していくしかない。」


執事はネロフライトの言葉に頷きながら、「ユリエラ様の信頼を勝ち取ること、それが最優先事項ですね。私もそのために全力を尽くします。」と答えました。


その後、執事とネロフライトは共に戦略を練り、ユリエラへの接近方法や次の行動を話し合いました。彼らはユリエラの信頼を得るために、様々な手段を考えていくことにしました。



数日が経ち、ユリエラはいつも通りパピルスに指導を受けながら魔法の練習に励んでいました。しかし、突然バイオリンの美しい音色が耳に響きました。その音色に魅了されたかのように、ユリエラは手を止めて部屋を出ようとします。


自分自身の意思とは異なる行動に戸惑いを感じながらも、その誘惑に抗えないように思えました。


パピルスがユリエラを止めようとする手を伸ばしたその瞬間、部屋の扉にドアをノックする音が響きました。ユリエラが無意識にドアを開けると、そこには執事が立っていました。


執事の姿を見て、パピルスは一瞬驚きの表情を浮かべましたが、すぐに冷静さを取り戻しました。しかし、その一瞬の隙間でユリエラは、執事の存在を無視して外に出ようとしました。


「これはこれは、パピルス様、旦那様がお呼びでございます。」


「公爵様がですか?」


ユリエラがドアをくぐり抜けて走り去る間に、パピルスは執事に気付かれないように機転を利かせました。一瞬で魔法を発動し、ユリエラに盗聴魔法をかけました。その魔法は、ユリエラの行動や会話を遠くからでも聞くことができるものでした。


パピルスは執事に向かって礼儀正しく微笑んで、「では、私も急がせていただきます」と言い、素早く部屋を後にしました。


ユリエラは、心地よい音色に包まれながら、まるで夢の中にいるかのような感覚に浸っていました。その美しい音色に引き寄せられるように、彼女は自然と足を進めていました。気が付けば、彼女は屋敷の2階に位置する部屋の前に立っていました。その部屋からはバイオリンの音色が心地よく流れ出しており、彼女はそれに魅了されていました。


バイオリンの音が突然途切れ、静寂が訪れると同時に、ユリエラも夢から覚めました。意識が戻り、彼女は自分がどこにいるのかを理解し始めました。


ユリエラが「えっ…ここはどこ?」と呟くと、目の前のドアが静かに開きました。


「ユリエラ!どうしてこんなところに?」

「ネロ!?どうして…。」

「どうしてって、ここは僕の部屋だよ。」


ユリエラは心の中で「まずい、距離をとらないと…」と思いながら、後ずさりしました。


「ごめんなさい、道に迷ったみたいで…。」

「それは大変だったね。でも、丁度ユリエラに用事があって迎えに行こうと思っていたところなんだ。」

「え!?用事ですか?」

「僕達、同じ歳だし、気負わなくていいんだよ。それに、敬語もいらないよ。父上からユリエラを町へ案内するように言われたんだ。引きこもってばかりだと滅入るでしょ?買い物とか、どう?」 


ネロは優しく微笑むと同時に、彼の笑顔は紳士的な温かさを宿していました。

ユリエラは公爵の提案なら諦めるしかないと悟り、買い物に出かけることを決意しました。



ユリエラはネロにエスコートされて門の方へ歩いていくと、眩しい陽光が彼女たちを包み込みました。足元では石畳が煌めき、風にそよぐ木々の葉がさわやかな音を奏でます。ネロの傍らには高貴な雰囲気を纏い、しかし優しさが滲み出る姿がありました。


道を進むにつれて、庭園の美しい景色が次第に広がっていきます。色とりどりの花々が風に揺れ、小鳥たちのさえずりが耳をくすぐります。ユリエラはこの美しい景色を眺めながら、馬車が待つ門の近くまで歩みを進めていきます。門の近くには立派な馬車が用意され、華麗な装飾が施されていました。


「あ…敷地の外に出ても大丈夫なのかな?ダメだって言われてなかったっけ。」

「大丈夫。父上が言った事だよ?」

「そっか。」

「安心していいよ。」


ネロは優雅な仕草で馬車の扉を開け、ユリエラに手を差し伸べました。彼の手には穏やかな温もりが漂い、その姿はまるで王宮の騎士のような威厳さと気品を感じさせました。


ユリエラは優しくその手を受け取り、馬車に乗り込みます。馬車の中は贅沢に飾られ、柔らかなクッションが心地よい座り心地を提供しています。窓から差し込む陽光が室内を照らし、まるで幸せな夢の中にいるような雰囲気が漂っています。


ネロは馬車の外から優雅に乗り込み、ユリエラの隣に座ります。彼の視線は常に彼女を優しく見守っており、安心感と信頼感が溢れる空間が馬車の中に広がります。


馬車は軽やかに動き出し、静かな道を進んで町へと向かっていきました。

読んで下さってありがとうございます!

お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ