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11話【エルキースの企み】

ユリエラは自分のメーベルと向き合っていました。彼女の手には、ウロボロスの名のメーベルが握られています。そのメーベルは真っ黒で、不完全を意味しているらしく、使い物にならないとパピルスに説明されていました。


もう一方のチェリー・クラリアスの名のメーベルは、赤く可憐な薔薇のような姿をしていました。その美しいメーベルは、媒体としてしっかりと機能しているように見えました。


薔薇を手の平に乗せているだけで攻撃魔法を使うことができるが、それはどうやら薔薇本体の力ではないようだ。転生者による異変の可能性が高いようだった。


ユリエラはどうすればいいかわからずに困り果てていました。その混乱の中で、彼女は何気なくウロボロスの名のメーベルを解放し、マッチ棒を取り出しました。そして、試しに火をつけてみました。


すると、淡い炎の奥に、キルエルの胸倉に掴みかかる赤い髪の少女の幻影が浮かび上がりました。


その幻影は、不思議なほどにリアルさを帯びていました。ユリエラは驚きと戸惑いを隠せず、その幻影に目を見張りました。彼女は炎の中で揺れる幻影を見つめ、その意味深い出現に興味津々の表情を浮かべました。


(もしかして…マッチ売りの少女?)


それから、ユリエラは次々と火をつけていきました。マッチが燃えるたびに、淡い炎の中にキルエルと赤い髪の少女の姿が浮かび上がります。


その映像は、キルエルと少女が共に過ごした日々を次々と切り取ります。笑顔で手を取り合い、青い空の下で歩く二人の姿。時には笑い、時には寄り添い、互いに支え合う様子が、炎の中で揺らめいています。


ユリエラはその姿をじっと見つめ、それぞれの瞬間が彼らの心に刻まれた思い出であることを感じ取りました。


そして、ユリエラはその女性に嫉妬心を抱いてしまいました。キルエルが語っていた妻とは、この赤い髪の少女のことなのではないかと彼女は思いました。


幻影の中でキルエルと少女が幸せそうに過ごす姿を見て、ユリエラの心は苦しみました。彼女は自分とは異なる女性がキルエルの側にいたことに焦りを感じ、心の中で不安と嫉妬が渦巻きました。


それでも、ユリエラは自分の感情に向き合いながら、彼らの幸せな姿を静かに見守りました。彼女は自分の心の中で葛藤しながらも、冷静さを保ちながら炎を眺め続けました。


ユリエラは気がつけば、ボロボロと涙を流していました。幻影の中で見たキルエルと赤い髪の少女の姿が彼女の心を揺さぶり、涙が止まりませんでした。その切ない感情が彼女の心を押し潰すように重く、どうにもならないほどの悲しみに包まれました。


やがて、ユリエラの魔力が切れ、彼女は倒れてしまいました。その場に身を預けたまま、涙を流しながら息を荒くし、心の奥底からの悲しみに打ちひしがれた彼女の姿が、寂しい静寂の中に浮かび上がりました。


意識を取り戻した時、ユリエラは柔らかな光が廊下を照らす中、ヴェルンツ騎士団長に抱かれて寮の廊下を進んでいることに気づきました。心地よい静寂が廊下に漂い、穏やかな空気が彼女を包み込んでいます。ユリエラは深く息を吸い込み、周囲の環境を感じながら、自分がどうしてここにいるのかを理解しようとしました。


「気が付きましたか?」とヴェルンツ。


「うん…。どれくらい寝てた?」という問いに対し、パピルスが答えました。「ほんの数分です。すみません、もっと早くに魔力切れに気付くべきでしたね。」


彼の言葉は優しく、自責の念に満ちていました。その声には心配りと共感が感じられ、ユリエラは少し和らぎを感じました。


「ううん。…パピルスは悪くないわ。私がパピルスなら止めれる気がしないもん。」


「それは何とも言い難いですね。」


パピルスはここ最近、近くでユリエラを見守っていたため、彼女の心情に敏感になっていました。そのため、彼女が幻影を見て魔力を使い過ぎていることに気付いていても、ユリエラの感情を察することができ、彼はとても止める気になりませんでした。


彼女の苦悩や嫉妬心が彼の心にも伝わり、その重苦しい感情がパピルスの胸を押し潰すようでした。



ユリエラはその後、自らの心の中に渦巻くキルエルへの嫉妬心を打ち消すかのように、魔法や剣術を鍛える日々を送りました。


彼女は朝早くから訓練場に姿を現し、真剣に魔法の詠唱を練習しました。時には目隠しをして、感覚だけに頼りながら魔力を集中させる訓練に励みます。剣術の方も例外ではありません。彼女はヴェルンツの指導のもと、素早い動きと正確な斬撃を身に付けるために努力しました。汗と努力の跡が、彼女の身体を包み込むようになりました。


ある日、いつも通り剣術の訓練をしていると、オズマン中尉が走ってきました。その姿を見たヴェルンツ騎士団長は首を傾げました。彼らは交代制でユリエラの護衛を担当しており、この日はヴェルンツの番だったはずでした。


「オズマン?どうしたんだ。」

「ヴェルンツ、貴方に用はないわ。」


オズマン中尉はパピルスの前に立ち、敬礼をしています。


「パピルス魔法士団長、メロウト王が至急王宮へとの事です。」

「え?僕がですか?おかしいな…そんなはずは…。」

「ここは変わりに私とヴェルンツが見張っております。」

「分かりました。数分で戻ります。」


パピルスは、静かな呪文を唱え、瞬間移動の魔法を発動させました。空間が彼を包み込み、まるで風が彼を運んでいくかのように、彼の姿は消失していきました。


オズマン中尉がヴェルンツを小突くと、ヴェルンツは身をかがめ、床に手をついて魔法陣を展開しました。その瞬間、周囲に眩い光が放たれ、オズマンとヴェルンツ、それからユリエラはその場から消えてしまいました。光の中にいた彼女の姿が消えると、そのまま静寂が部屋に広がりました。


「なんとか成功しましたね。」

「危なかった。」


ユリエラは周囲を見回しました。そこは豪華な豪邸のようで、上品な執事や忙しそうなメイドたちが控えめに頭を下げていました。壁には絵画が掛かり、高い天井からはシャンデリアが輝いていました。ユリエラは、何らかの貴族の邸宅に違いないと思った。


「オズマンさん?ヴェルンツさん?いったいここはどこですか?」

「ここはハイドシュバルツ公爵家です。エルキース聖下のご命令でお連れしました。」

「エルキース聖下?」


奥から聞こえるコツコツという足音に耳を傾け、ユリエラはその方向を見た。そこにはキルエルの姿があったが、彼の雰囲気は何か違っていた。彼は別れ際、成人男性の姿になっていたので、すぐに別人であることに気付く。


「どうもどうも!転生者のユリエラさん。僕はエルキース・クラリアス。よろしくねー!」

「クラリアス!?キルエルの関係者ですか!?」

「う、うん??キルエル・クラリアスは僕の父だよ?」

「父!?」


ユリエラは目を見開いて驚いた。まさか、そこにいるのはキルエルの息子だとは思ってもみなかったのだ。その出会いに戸惑いを感じながらも、彼女の心には混乱が広がっていった。


―――息子って、そっか。クラリアスの血だから不老気味なのね。出会った頃のキルより少しだけ大きいような?でもなんだろう?…どうして…。


ユリエラの両目から涙がポロポロと溢れ出した。


「え…どうして…。」

「え?僕何かした?どうしたの?」

「わかりません…だけど…。」


ユリエラは知らない場所に連れてこられたというのに、エルキースを見た瞬間、謎の安堵感に包まれた。その感情に戸惑いながらも、彼女は自分自身も不思議に思っていた。


そして無意識に唇が勝手に言葉を紡いだ。


「会いたかった…。」


(あれ…何言ってるんだろ?もしかして、キルエルに会いたすぎて、そっくりな息子さんを見て口走っちゃったのかな。)


「え?泣くほど会いたかったの?僕に。」


エルキースは目を点にさせながら、ぱちくりと瞬きしていた。


「あ…えっと、これは…。」

「まぁ、いいや。そんな事より、此方へ来て欲しいんだ。」



エルキースは丁寧にユリエラの手を引いて、静かな足取りで地下へと導いた。オズマンとヴェルンツはその場で待機するようだ。ユリエラは不安を感じながらも、エルキースと共に地下へと階段を降りていった。


暗闇の中に降り立つと、そこには薄暗い灯りが数箇所点され、不気味な雰囲気が漂っていた。地下室の空気は湿り気を帯び、冷たさが肌に触れた。


「どこへ行くんですか?」

「僕の実験室さ、ずっと待ってたんだ。聖女の器を。」

「聖女の器って…何ですか?」

「転生者には必ず聖なる力が宿ると言われているんだ。君もそうだろう?誰かの怪我を治したいと思えば治り、花を咲かせたいと願えば咲く。そんな奇跡的な御業を使ってみせてよ。」


(使ってみせてって、初めて聞いたんだけど…そんな話。)


「どうやって使うの?」

「強く願うだけだよ。」


(強く願うだけ?)


ユリエラは心の中で悩みました。エルキースの期待には応えられそうになく、何を願えば良いのか全くわからなかった。


「どうしたの?」

「何を願えば良いか分かりません。」

「あぁ、そうか。じゃあ傷をつけてあげよう。無理やりにでも引き出そう。」


エルキースが刃物を手にした瞬間、ユリエラの心臓がドキッと止まるような恐怖が襲った。


「やめてっ!!」


しかし、その時、幼い姿のキルエルが現れ、エルキースの手を掴んだのです。彼らの姿を見て、ユリエラは驚きと安堵の入り混じった感情に包まれた。キルエルは幼い姿のままで、やはりエルキースの方が少し年上のような外見だった。


「父上?」

「キル!?」


キルエルの幼い姿にもかかわらず、彼がエルキースを掴む手は強く、確かな力強さを感じさせました。もう一方の手は空いていて、ユリエラを守ろうとする姿勢を見せた。その瞬間、ユリエラは彼の姿に不思議な安心感を覚えた。


「実に愚かな息子じゃ。オズマンとヴェルンツには厳しい処分が必要じゃな。」

「どうして此方に?それにどうして、その子を庇うのです?」

「ユリエラよ。すまんがメーベルを解放して見せてやってくれんか。赤い方をな。」


ユリエラはコクリと頷き、「メーベル!」と叫んでメーベルを解放しました。眩い光とともに姿を現したのは、鮮やかな赤い薔薇だった。


「その薔薇はまさか…母上の…。」


ユリエラにとって、その薔薇は心を揺さぶるものでした。なぜなら、それはキルエルと赤髪の女性との最後の別れの時に出現したものだったからです。黒のメーベルで見た、その記憶がよみがえり、複雑な感情が心を駆け巡りました。


「察しの良いお前さんなら、もうわかるじゃろ。この子に危害を加えるのは許さんぞ。」

「はっ、はははは。母上からの贈り物という事でしょうか?痛い事はしませんよ。少し聖属性の魔力を拝借するだけです。ね?父上、良いでしょう?」

「俗世に染まりよって…、お前さんの息子のノエルがどれほど苦しんだと思っておる。はぁ…全く。あの世で嘆いとるぞ。」

「うるさいなぁ~。昔から父上はうるさい。父上こそ、禁忌の魔法か何か使って母上を呼び戻したのではありませんか?でなければおかしいではないですか。」


(さっきからなんの話?母上の薔薇って、私もちょっと気になってたけど、メーベル出せなかったら別の人のメーベルを私に付与したって事?)


「ユリエラ、こやつは少しおかしくなっておる。一旦引くぞ。」

「え、あ、うん。」


キルエルは手を振りながら魔法陣を描きました。彼の周りには微かな光が輝き、空間が歪み始めました。彼は瞬間移動の魔法を使って、この場からすぐに離れようとしていた。


「そうはさせないよ!父上は分身体だから、こうすれば!!」


エルキースが手を振り、何か言葉を呟いた。その瞬間、キルエルの姿が消え、エルキースとユリエラだけが残された。


「さぁ、邪魔者はいなくなった。続きをしようか。」


ユリエラはエルキースが刃物を振り上げた瞬間、目を固く閉じた。しかし、その後何も起こらず、ただ静寂が続いた。彼女はゆっくりと目を開けると、目の前には大人に成長した本物のキルエルが立っていた。


「キル!!」


ユリエラはキルエルの肩から血が滲んでいるのを見て心配になりました。


「ユリエラ、今はなにも考えるでないぞ。ワシが例え酷い怪我をおってもじゃ。恐いなら…目をとじておれ。決して何も願うでないぞ。」

「わかった。」


ユリエラは目を閉じて、必死に別のことを考えた。


「エルキース、ワシもチェリーを亡くした時、誰よりも悲しんだ。だが、同時にワシなんかと一緒にならん方が良いと思った。不老の一族はあまりにも悲しい一族じゃ。エルキースもそうじゃろ。乗り越えるしかないんじゃ。」


激しい殴り合いのような音が響き渡っていた。その音は、壁や床に響き、部屋全体を揺るがせるほどの激しさだ。


(何が起こってるの?今チェリーって言わなかった?だめだ。…何も考えちゃだめ…キルの言う事を聞かなきゃ…。)


「父上!!そこをお退き下さい!父上こそ、乗り越えられていないじゃないですか!」

「えぇい、やかましい!これには事情があるんじゃ!ワシは確かに乗り越えておった。じゃが、悪戯に墓を暴かれたんじゃ。いくら側におっても、また別れがくるというのにな…。」


眩い光がユリエラを包み込み、その光の中からエルキースとキルエルがピタリと動きを止め、ユリエラを見つめた。


「ユリエラ!いかん!!何も考えるな!」


ユリエラは目を見開いて驚いていた。周囲を包むほどの強烈な光が、自分から発せられていることに戸惑いを覚えた。


「私っ!何も考えてない!!なんで!?」


「はっ、はははは!!聖女の誕生だ!!あぁ…素晴らしい…聖なる属性の魔力が部屋を満たしている!!さぁ、我妻よ!!目覚めの時だ!!はははは!!」


床全体に広がる金色の光が、煌びやかな魔法陣を形成していきました。その複雑な模様は、まるで星々が宇宙に散りばめられたような美しさを放っていた。


その光の先にある棺桶がゆっくりと開き、その中から金色の淡い光を放ちながら美しい女性が現れました。


「じゃっじゃーーーーん!ミカちゃんでーす!」


その場にいた全員が、意外な人物の登場に驚き、言葉を失いました。まるで時間が止まったかのように。


「ミカ…様。何故此方に。」

「アキト君の調査が終わって、キルエルを呼びに行こうとしたら部屋にいなかったんだもん、ここまで呼びにきちゃった!」

「そうでございましたか。ご足労おかけいたしました。」


「嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ!!!僕の妻は!?僕の妻をどこへやったんだ!!!」


エルキースの声が悲痛な叫びに変わり、彼は頭を抱えながら半狂乱になっていました。その姿はまるで絶望の淵に立たされた者のようで、彼の心情を見た周囲の者たちも戸惑いと共に彼を見つめていました。


「すみませんのぅ、わしの愚息が。」

「えっ!キルエルの息子さん!?」

「ちと、執着心が凄くてのぅ。死んだ嫁さんを蘇らせようとしておったようなんじゃ。」

「わ!魔法陣もバッチリじゃん!でも、こういうのアキト君は許さないよ。」


(ミカ様って何者!?アキト君って誰!?何がどうなってるの!?誰か説明して~~~~!!!!)


読んで下さってありがとうございます!

お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)


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