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悪役/貴族令嬢

今日も私が美しい

 

 ああ、今日も。(わたくし)が美しい…!



 シャンデリアの光を浴びて燃えるように輝く赤髪。

 まるで太陽のような琥珀の瞳はどの宝石よりも勝る。

 男の目を惹きつけてやまない、まさに女性にとっても理想的なスタイル。


 いっそ裸の方が美しいのでは?と錯覚しそうになるほど、衣装も霞む美しさ。


 違う人がやればケバくなってしまうキツめのアイシャドウすらも似合う色気と品に溢れる造形美には、思わず感嘆の吐息が漏れた。


「ああっ…! この美しさ…これぞ罪だわ…!!」


 私は噛み締めるようにポツリと呟いた。


「? 何か仰られましたか?」

「いえ、何も」


 少し、独り言が多過ぎたようだ。

 すぐ隣にいた彼女によそゆきの笑顔を作れば、彼女(おそらく伯爵家の令嬢)は不思議そうに私が手に持つグラスを見た。


「あら…ワインを、飲まれるのですか?」

「ええ、最近好きになりましたの」

「そうですか…。あまり、ご無理はなさらないように」

「ありがとうございますわ」


 ぺこりと互いに軽く会釈をしてその場を離れる。

 私はひっそりと、今度は安堵の吐息を漏らした。


 というのも、自身の美しさに目が離せないばかりにあまり他家の令嬢について詳しくない。

 彼女が何という名前なのかすらもわからないほどなので、家族や友人からはあまり他の方々と喋りすぎないようにと、きつく言いつけられている。


 曰く、ボロが出るから、とか。


 これに関しては自分自身も若干自覚はあるので言われた通りに他の方々に近づきすぎないようにしていたら、いつの間にかあだ名がついていた。


 ”荊の女王”と。


 コツリと踵を鳴らして歩けば令嬢達からの注目が集まる。


「荊の女王様だわ」


 私は結構、このあだ名が気に入っている。まさに薔薇のように美しい私にはピッタリのあだ名だ。


「今日も赤ワインをお飲みになられるのかしら」

「まさに気高い女王様って感じよね。話しかけるのも恐れ多くてとてもじゃないけど近づけないわ」


 私は誇らしげに胸を張る。男性だけでなく女性の方達からも注目を集めてしまう。

 社交界一の罪な女と言っても過言ではないだろう。


「あら、今日はレーズンチョコは召し上がられないみたいよ。いつも赤ワインのお供にされていますのに、珍しい」

「お飲み物も今日はシャンパーニュだわ。失礼だけれど、似合わないわね…」


 私はグイッとグラスを煽る。この鼻から抜ける芳醇な香りと口に残る渋みが堪らないのだ。


「やはりワインはこれに限りますわ」


 口の中に残る余韻を舌で味わう。なんという幸せ。


 会場の端っこにて幸せを噛み締める。


 けれど、やはり物足りない。やはり、あれがなければ。


「見つけた」


 スイーツやフルーツが盛り付けられたお皿が並ぶテーブルの上に、それはあった。


「これこれ、やっぱり締めはレーズンチョコでないとね」


 手に取ったのは一見普通のチョコに見えるが、中にレーズンが入ったレーズンチョコ。


 ほろ苦いチョコの風味と中のレーズンの酸味が丁度良くて食べるのをやめられないの魅惑の一品。


「ん〜…さいっこうだわ…」


 私が幸せを噛み締めているとほのかに周りがざわめく。


粉雪姫(こゆきひめ)よ」

「舞踏会に参加されるなんて、今日は珍しいことだらけね」


 ”粉雪姫”と呼ばれるのは私の唯一の友人。


 白に近いホワイトブロンドの髪に優しいアイスグリーンの瞳。

 陶器のように白く軟い肌と私とは真逆の儚げな美貌で有名な令嬢だ。

 何より彼女を粉雪姫と言わしめるのは見た目だけでなく、本人自身も病弱な体質であまり表舞台に立たないことから、消えてしまいそうな儚さと美貌を讃えて粉雪姫とあだ名がついたとか。


 それにしても荊の女王といい、粉雪姫といい、誰があだ名をつけたのかは知らないがつけたものは相当センスがいい。

 直接褒めてあげたいくらいだ。


 私が心の中で感心していると、会場の音楽が鳴り止む。


「そろそろだわ」


 今日の舞踏会はこの国の第二王子の婚約式発表も兼ねている。


 ちなみに王子の婚約者は、何を隠そう、この私だ。


 荊の女王改め、カメリア・クロウナー。クロウナー公爵家の一人娘であり、当主の父はこの国の宰相を務める。

 身分的にも、第二王子の婚約者に選ばれるのは当然と言っていい。


 しかしながら、実は私はそんなに婚約者である第二王子のことが好きではない。


 第二王子ー名前をオードウェル様というのだが、その名を口にして呼んだのは片手で数えられるほどしかない。

 婚約が決まったのが約5年前。当然初めてそこでお会いしたのだが、オードウェル様は最初から私に興味のかけらもないようだった。


 そんな婚約者を慕うなど、私はそんなに安い女ではない。


 振り向いてくれない婚約者の背中を追うより、自身の美しさに磨きをかける方がはるかに有意義な時間だ。


 そういうわけで私たちははじめから冷えた関係で、これは社交界でも有名な話だった。

 そんな関係で結婚なんてできるのかしらと思うが、まあ今更どうにもできないので何もしない。


 噂では、オードウェル様は私の友人であり粉雪姫と呼ばれるミレイナに夢中のようだが。



「皆、今宵は集まってくれてありがとう」


 王族だけが立てる壇上にてオードウェル様が口上を始める。


「今日は僕の婚約式発表を兼ねているのは皆知っていると思うが、僕と彼女の関係があまり良くないのは有名な話と聞く」


 なんだか雲行きが怪しくなってくる。

 周りもその空気に気付いたのか、皆が心配するような視線を私に向けた。


「全く不甲斐ない話だが、僕はどうしても許せないんだ。皆も彼女の悪名については知っているだろう? 他者を一切寄せ付けず高圧的で傲慢な態度からついたあだ名が、荊の女王様」


 酷い言い様。それにしても私のあだ名にはそんな経緯があったのか。


「そんな彼女との未来をどうしても想像ができないんだ。…なので僕は皆の前であるここで宣言する」


 オードウェル様が射抜くように私を睨み見た。


「カメリア・クロウナー嬢。君との婚約を破棄させていただく」


 私はバレないようにひっそりとため息をつく。


「…それは、国王様やお父様の許可を得てのご発言でしょうか?」


 口元を扇子で隠しながら静かに問いただす。オードウェル様は小さく鼻で笑った。


「君でもそんな常識的な発言ができたんだな」


 人を何だと思っているのだろうか。


「父上や宰相殿に許可は得てある。特に宰相殿に関しては快く承諾してくれたよ」


 …そうだろうなと、心の中でため息をつく。

 周囲で静かに拝聴していた貴族達は密かにざわつく。


「君は父親からも見放されているんだね。いっそ哀れだよ」


 これに関しては父が全面的に悪い気がするが、今更そんなことを抗議しても彼にはきっと届かないのだろう。


 扇子で口元を隠したまま黙り込む荊の女王様に会場の誰もが憐れみの視線を向けた。


「彼女との婚約は破棄となったが、今夜は僕の婚約式発表を兼ねた舞踏会だ。皆には僕の新たな婚約者との門出を祝ってほしい」


 オードウェル様は壇上から降りてくると、迷うことなく真っ直ぐに貴族達の間を縫って進む。

 第二王子の行く先の人物に見当のついた令嬢達は皆そそくさと離れていった。


「ミレイナ・ラスベク嬢。私は君と人生を共にしたいと思っている。どうかこの私の人生の伴侶となってくれないだろうか」


 キラキラとした笑顔でオードウェル様は私の前に跪いた。


 …きっと彼は、王子である自分の誘いを断る人などいないと、本気で信じているのだろう。


 なので私は心からにっこりと笑ってみせた。


「お断り致します」

「………………………え?」

「それでは、ごきげんよう」


 困惑のまま固まってしまったオードウェル様を置き去りに会場を去ろうとしたが、一つ言い忘れたことを思い出して振り返る。


「そうだわ。婚約破棄の件は喜んでお受けいたします。……………………と、友人のカメリアが仰っておりましたわ。それでは」


 意識があるかどうかもわからない第二王子と周囲の貴族達にカーテシーをし、今度こそ私は会場を後にした。





 〜後日〜


 クロウナー家の客間にて、私は出されたお茶を嗜みつつ目の前のお父様に抗議の声を上げた。


「私に婚約破棄の件を教えなかったのは、お父様の仕業でしょう」

「いやあ、はっはっは。なかなか面白かっただろう」


 愉快愉快と笑うお父様にため息が止まらない。オードウェル様は私がお父様に見放されていると言っていたが、ただ単にお父様はこう言った悪戯が好きなのだ。悪質極まりない。


「それにあれは、第二王子のためでもあるんだ。陛下もオードウェル様には少々手を焼いている様でな。一度痛い目を見させようと言うことで、ああなった」

「全く人騒がせな」

「まあ! 人騒がせというのなら、あなたもですわよ。カメリア」


 私の隣に座るのは、荊の女王と呼ばれた薔薇の様に美しい女性。


 そう、私だ。



 ー遡ること3ヶ月前。


 体の弱い友人ミレイナのお見舞いにラスベク邸にお邪魔していた私は、その日もいつも通り夕方まで楽しく談笑をした後帰路につこうとした。


 ミレイナは体が弱いため玄関までは行けないが、いつも階段の前までお見送りをしてくれる。

 なのでその日も階段前で別れの挨拶を交わし、階段を降りて玄関へと向かおうとしたのだが、うっかり足を滑らしてしまいそのまま転げ落ちる形で階段下まで落下した。

 その時ミレイナが足を滑らした私を助けようと手を伸ばしてくれた様だが、力の弱いミレイナが私を支えることができず一緒に落下。


 私たちはところどころ出血や打撲を負うも命に別状はなく、そのままラスベク邸で丸一日寝込んだそうだ。


 そうして次に私たちが目を覚ますと…


 ミレイナは私ーカメリアに。そして私はミレイナになっていた、というわけだ。



 時に現実とは物語よりも奇なる。



 最初ミレイナは大いに混乱をしたし、ラスベク邸の人たちも大混乱の大騒ぎだった。


 私も当然驚いたが割とすぐに立ち直った。


 なぜなら、私が美しかったから。


 今更隠すつもりもないし大いに自覚をしているが、私は自己愛が非常に強い。いわゆるナルシストと呼ばれるものに近い。


 できることなら一日中自分自身を見つめていたかったし、鏡を見つめながらワインを煽るのが毎日の日課だった私にとってこの入れ替わりは案外願ったり叶ったりの状況だった。


 だって、


「完全なる第三者として私を拝めるなんて…こんな夢の様なことが起こってもいいのかしら?!」


 鏡に映る私ではなく、目の前には等身大の私。これ以上ないほどの幸せだった。


 次第にそんな私の様子に落ち着きを取り戻したミレイナとラスベク邸の方達(ミレイナの両親も含め)との間で、話し合いが行われた。


 ちなみに私は参加させてもらえなかった。話し合いにならないからだそうだ。


 話し合いの結果、お互いの意識がお互いの体に戻るまでの間、ミレイナは私として、私はミレイナとして演じながら生活することとなった。


 のだが、私にはなぜかルールが追加された。


 1つ、必要以上に他の方と近づかないこと。

 1つ、必要以上に喋らないこと。

 1つ、あまり目立つところにはいかないこと。


 まあこれは私が私だった時から両親に言われていたことなので、私はすんなりと受け入れた。


 私は自分自身にしか興味がない上に、一度語りだすと止まらないという悪い癖があるため、両親からは幼い頃より友好関係について口酸っぱく言われてきた。

 できるだけ近づかない、喋らない、なぜならボロが出るから。


 そんな中でミレイナと出会ったのは本当に偶然だった。


 彼女の体が今より元気だった頃。


 彼女が散歩に出掛けていた際被っていた帽子が風の悪戯で連れ去られようとしている時。

 ちょうど良いタイミングでそこにたまたま通りかかった私が、普段より鍛えていた脚力でジャンプし帽子をキャッチ。

 ミレイナがお礼にとお茶に誘ってくださり、仲良くなったというわけだ。


 この時ミレイナには私の本性がバレた。けれど彼女はそんなありのままの私を肯定し受け入れてくれた。

 私の唯一の心の友であり、ミレイナを紹介した時の両親の喜びようは今でも忘れない。


 ちなみに私は普段から毎日の筋トレを欠かさない。美しくしなやかな肉体美に筋肉は欠かせないという持論のもと、普通の令嬢は絶対しないような鍛錬を行なっていたところ、腹筋は綺麗に割れ、それはもうあらゆる力がついた。


 ちなみに美しい理想のスタイルも手に入れることができたので私は万々歳だったのだが、なぜかミレイナと両親には嘆かれ、嫁に行くなら騎士の家系に嫁ぐべきでは?という論争が繰り広げられた。


 まあ私にとっては些末なことだったので気にしない。どこの誰に嫁ごうと、自分自身が一番愛しいのは変わらないのだから。


 〜〜〜〜〜〜


「私は怒った顔も素敵なのね」

「もう、話をすり替えないでちょうだい。本当に、第二王子殿下が貴女のところに行った時私肝が冷えましたわ…」

「いやあしかし、殿下のあの呆けた顔。くくっ…今思い出しても傑作だ」

「おじさま、それは不敬ですよ? 全く、この子にしてこの親ありですわね…」


 困った様にため息をつく。その横顔さえも私は美しい。


「…………そんなに見ないでください、カメリア」

「照れた顔も一級品ね。隙がなくて困ったわ、どうしましょう」

「……はあ」


 これにはお父様も困った様に眉を下げた。


「しかし、お前のその自己愛は筋金入りだな。私がお前と同じ歳の頃なんて、自分が嫌いで仕方なかったというのに」

「まあなんて勿体無い。この世に一人としていない唯一無二の存在を愛さないなんて」

「いつからだったかな? 確か6歳か? カメリアが突然泣き出したかと思えば、”私だけは私を愛します”なんて言い始めた時は驚いた。それまで我儘放題で半ばお前の未来を諦めていたというのに、途端に今度は筋トレとやらを始めるから。我が子ながら面白いとは思ったが、それはそれで未来が心配になったな」


 なんと懐かしい。そんなこともあったなと感慨深く感じるが、なんだかお父様の語り口調がむず痒くて同時に小恥ずかしい。


「お父様、そう言ったことはぜひお母様だけに話してくださいまし」

「まあそう照れるな、娘よ。赤ワインでも持ってこようか」


 完全に娘のご機嫌をとる父親のそれだ。まあありがたく頂くが。


「思い出したわ! 私カメリアに文句があるの!」


 突然大きな声を上げたミレイナは私の美しい顔に可愛らしい怒りの表情を浮かべてこちらを見た。


「私、赤ワインは嗜まないと言いましたよね?! 私がいつも飲むのはシャンパーニュです。貴女があの夜赤ワインを飲んでいたから怪しんでる人もいたんですよ! もうあれほど気をつけてと言ったのに!」

「それをいうなら貴女だって、私の体でシャンパーニュを飲んでいたではないですか」


 私がすかさず言い返すと、ミレイナはぎくりと肩を揺らした。


「うっ……見ていましたのね。だって…飲んでみたのだけれどどうしても…その、渋みが好きになれなくて…。甘くてスッキリした方が好きなんですもの…。一杯だけなら怪しまれないかなと思ったんですけど…」

「似合わないとすら言われておりましたよ」

「うぅ…ごめんなさい、カメリア…」


 こんなに美味しいのに、残念。と思いながら使用人が用意してくれた赤ワインを楽しむ。


「まあ、でも良かったのではないか?」


 お父様は穏やかな笑みを浮かべながら私とミレイナの顔を順番に見た。


「カメリアはこの世で一番愛している自分自身を見つめられる特権を得て、ミレイナちゃんは病気知らずの健康的な体を手に入れられた。後はお互いの意識が正常に戻ることだけだが、まあこれに関しては事例がないからなあ。でも結果的には素晴らしいことじゃないか?」


 それは私も同意だ。


 ミレイナの体が病弱だったのは、圧倒的なまでの体力不足と彼女の偏食のせいだった。


 元々幼い頃から体が弱かったのもあるが、彼女はいわゆるインドア派というやつだ。


 本を読むのが大好きで外で遊ぶことをしなかった彼女は、一日中自室に籠ることもざらだったという。

 さらに彼女の大好物はパンやケーキなどの甘味類。逆に野菜などは苦手だそうで、お肉も油の味が好きじゃないとかで滅多に口にしないそう。


 それでも幼い頃ならまだ取り返しのつきようもあるはずだ。

 しかしながら彼女の両親はそれはもうミレイナを可愛がっていた。そのため彼女が自室に籠ることも大いに肯定し、彼女が好きなものだけを食べさせることが義務だと言わんばかりにパンやケーキばかりを与えた。

 そうしてミレイナは自室で本を読むことが大好きで野菜嫌いの小麦粉大好き引きこもり令嬢として育ったというわけだ。


 当然、体力もつかなければ体調も悪くなる。


 私はミレイナの体に入れ替わった次の日からせっせとせっせと体力作りに勤しんだ。


 これはミレイナのためというよりは筋トレが日課になっていたから行なっただけなのだが、日に日にミレイナの体が軽くなるのが楽しく、後半はほぼ彼女のために筋トレをしていた。


 もちろんバランスの取れた食事も欠かさない。


 一日3食、野菜もお肉も炭水化物もバランスよくしっかり食事を行なったところ、ミレイナの体は驚くほど元気を取り戻した。


 今では風邪の一つすら引きそうにないほど頑丈と言っても過言じゃない。


 それに顔色が良くなったためか、彼女の美しさにも磨きがかかった。


 急な事態にも臆さず、あまつさえ友人の美しさすらも磨き上げられることのできるこの不屈の精神……まさに天は私を選んだと言わざる終えない…!


「ああ…恥ずかしい…っ。自分の病弱が体質じゃなくて怠けていた結果だったなんて…。穴があったら入りたいです…!」

「そう思うのなら偏食をおやめなさいな。野菜もお肉も程よく食べて、少しでも運動することです」

「うっ…おっしゃる通りです…」


 美しい瞳に涙を溜めて反省する私の顔が良すぎる。


 まあでも、今では私の厳しい指導のもと彼女も偏食を治そうと頑張っている。


 当然だ。私の肉体美を維持してもらうには小麦粉など言語道断。もちろん筋トレも毎日行ってもらっている。

 最初は弱音を吐きまくっていたミレイナだが、最近では食べ慣れたのか野菜もお肉も美味しそうに食べている。

 ご褒美として、週に一度だけ小麦粉を許している。泣いて喜ぶミレイナをみていると、少しだけ可哀想になったが甘やかすつもりはない。


 美しさを維持するには我慢も努力も必要だ。


「でももう少しだけ手加減してあげてもいいんじゃないか? 彼女には慣れないことばかりだろうから、せめてお菓子を週に二日にしてやったらどうだ?」

「おじさま…!」

「ダメです」


 がっくりとミレイナが肩を落とす。


「ふふっ」


 ミレイナのあまりにも素直な反応に思わず笑みが溢れた。


「もう、笑わないでちょうだい。…それにいいのよ、週に一度に限定されたことでより幸せを噛み締められる様になったもの。貴女のおかげで私も成長していると実感できて最近は楽しいの、すごく感謝してるわ」

「当然よ。貴女は私の唯一の友人なんだから」

「それは誇るところなのか?」


 お父様の言葉は無視させていただく。


「せっかく生きているんだもの。美しいまま健康に長生きしたいじゃない」

「…そうね。その気持ち、わかるわ」


 いつか皆死んでいくのなら、私は美しく老いて死にたい。


 どうせ死の間際まで一緒にいるのは自分自身なのだ。ならば自己愛で満ちた人生のほうが豊かだと私は思う。


 それに、自分を愛さない理由が、私にはない。


「…いっそ、カメリアとミレイナが一緒になるというのも、私はいいと思うがな」


 お父様が意味深に笑う。こう言った時は大概がお父様の悪戯の範疇なのだが、ミレイナは少し顔を青ざめさせた。


「おじさまの意地悪にも慣れたと思ったのだけれど…、今のはなぜか簡単に想像ができてしまいましたわ…。いえ…カメリアのことが嫌とかそういうわけではないのですが…! その、私は異性のお方と恋愛がしたいと言いますか…。できるならロマンチックな恋がしてみたいというか…」


 ミレイナが素直すぎて逆に心配になる。お父様は、この真剣にお父様の意地悪を受け止めてしまうミレイナの反応が楽しいらしい。


「でも、案外悪くないかもしれませんわね」

「え!? カメリア!??」


 ミレイナが私の声で素っ頓狂な声をあげる。

 そんな声も出すことができたのかと、彼女が私の体に入ってから新しい気づきばかりでとても楽しい。


「貴女はいじめがいがありすぎるわ。気をつけたほうがよろしくてよ」

「どういうこと? 待って、冗談? それとも本気、どっちなの?」


 慌てふためく私の顔を見る。


 燃える様に輝く赤い髪も、太陽の様な琥珀の瞳も、慌てふためくその表情も、全てが愛おしい。


 私は生涯カメリア・クロウナーとして、自分自身を愛し抜くだろう。


 それが私の生きる意味で、生き甲斐。


 なんて幸せなことなのだろうか。



「ふふっ、今日も私が美しい!」


ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!


最後にご評価頂けますと、幸いです。

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