さわやかチョコあいす
「実は風花と付き合ってるんだ」
二人でご飯を食べて、お話ししようって来ていたカフェ。半年ぶりに出会った同級生の晴樹は、そこで驚くかもしれないと言って私に教えてくれた。大学生デビューもしていない、高校の頃のままの姿だ。
「そうなんだ、おめでとう!早く言ってくれれば良かったのに〜」
嘘だ。
「これ他のクラスメイトにも言ってなくてさ。雪乃にはさ、いつも相談に乗ってくれてたから一番に伝えたくて」
へぇ、どっちから言ったの?あんた?それとも風花?とでも聞ければ良かった。けれど丁度、頼んでいたアイスクリームがそれぞれ運ばれてくる。私はタイミングを逃し、言葉が喉の奥から出てこなくなった。黙り込む私を見て、晴樹は声をかける。彼はいつも優しいんだ。
「どうしたの?」
頭では何も考えていなかった。ほぼ条件反射で答えていた。
「いいや、何でもないよ。それより、いつから付き合ってたの?全然素振りなかったけど」
記憶を振り返れば、そんなことはわかりきっていた。たまに二人で遊びに行ったりしていたけど「せっかくだし風花も誘っていい?」とか兆しはあった。あれも。これも。全ての出来事が実際は違うかもしれないけど、考えればどれもフラグだったのかもしれないと思ってしまう。
話したかった事って何だっけ。もう風花の事は諦めてると思って、告白しようとしてたんだ。言えばどうなるだろう。困るかな。風花とも友達じゃいられなくなるかな。私は若干俯きなら水を飲んだ。
昔話をした。高校の頃の話は半年前のはずなのに、随分と過去の話に思う。思い出に浸りながら話す。ずっと深い沼。そして気がつけば、カップの底にチョコレートが浮いていた。時計を見て晴樹はそろそろ帰ろうかと言う。
「今日はありがとう。近くの駅まで送るよ」
「別にいいのに」
「それじゃ風花に顔を合わせられないよ」
じゃあお願いと言って私は見送って貰う。道中の話は将来どうするのか、今通っている大学の話とか、風花の事とか。彼女の事を話す時は楽しそうだけど、少し照れくさそうだった。
別れた後、私は一人駅で電車が来るのを待っていた。いつも点字ブロックのすぐ後ろで待つけど、線路が歪んで見えて吸い込まれそうになる。危なかった。私は近くの柱にもたれかかって、対岸の駅名を見ていた。この柱が私を繋ぎ止めている何かだ。ホームのアナウンスが鳴り、電車が到着するけれど動けない。
「喉乾いた」
私がこの味を飲み込めば、不幸になるのは私一人だけ。私が吐き出せば、三人とも不幸になる。だから私は飲み込んだ。私だけがこれを墓まで抱えて持って行けばいい。でも動けない。柱にもたれかかったまま指一本動かせない。そして私を置いて電車は出発する。口には好きだったミントの味が、残ったままだった。