第8話:“焼き魔女リンゴのぶるぶるベリージャム添え”
「「いらっしゃいませ! 空いているお席にどうぞ!」」
「……」
私たちが言うと、お姉さんは無言で席に着いた。
ロールちゃんはお水を、私はお手拭きを急いで持っていく。
お姉さんは大柄というかガタイが良い体つきで、全体的にがっちりしている。
目を引く真っ赤な髪を後ろで縛り、髪と同じ赤い瞳は眼光が鋭い。
鷹や鷲のような力強さを感じつつも、バラや百合のような美しさを感じる。
金属の手甲をつけてるし、机には長い剣を立てかけているから冒険者の人かな。
緊張しつつも丁寧な応対を心掛ける。
「こんにちは。“カフェ・アンチドート”にようこそいらっしゃいました。メニューはキノコの野草スープと焼きりんごのぶるぶるベリージャム添えがご用意できます」
「……焼きりんご」
「承知しました。焼きりんごのぶるぶるベリージャム添えでございますね」
「早くしろ」
ギロリと睨まれ、すごすごとキッチンに引き下がった。
「なにあの人、感じ悪っ。宿屋をやってて一番態度悪いお客さんだよ」
「まぁまぁ、ロールちゃん落ち着いて」
『きっとクエストとかで疲れてるんだニャ』
「まさか泊まるとか言わないよね。泊まりたいとか言われたら、それっぽい理由で追い返しちゃお」
ネッちゃんと一緒になだめるも、ロールちゃんはプリプリと怒っていた。
「何はともあれ、早くお料理を作ってあげないと。お腹空いているだろうしね」
「お店の備品壊さないか心配だよ。なんか怖そうな人だし。少しでも怪しい動きをしたら追い出さないと……」
ロールちゃんはチラチラとお客さんを見張っている。
厳しい一人暮らしで警戒心が強くなっちゃったんだ。
彼女の境遇を思うと胸が痛くなる。
あの女の人も大事なお客さんなのだ。
ロールちゃんのためにも頑張るぞ。
それはそうと落ち着いて料理なさい、レベッカ。
サンデイズ家よりキッチンと食堂は近いんだから。
騒げば声は容易に届く。
食材の【毒消し】を済ませ、静かな心でナイフを握る……。
「最初は<魔女リンゴ>をスライスしますよぉ! 空気に当てるほど甘みが増すぅ!」
「また始まっちゃった……」
『こればかりは本当にしょうがないニャ』
<魔女リンゴ>を半分にカット!
サクサクとくし形切りしたら、重ならないようお皿に並べておく。
こうすることで、砂糖が要らないほど甘くなるのだ。
「味付けは<ぶるぶるベリー>のジャムですよぉ! <魔女リンゴ>の甘みに、この酸味は相性抜群だぁ!」
「せめてもう一段階、声のトーンを落としてくれるとありがたいんだけど……」
『料理が完成するまではずっとこんな感じだろうニャよ……』
<ぶるぶるベリー>をよく洗って、ボウルの中にインっ。
乳棒でぐるぐるぐるぐる練り潰す。
普通のブルーベリーより中身がぎゅうぎゅうに詰まっているから、十粒も潰せばちょうどいいだろう。
スプーンでちょっと掬って味見。
うむ、ほどよい酸味と甘みのバランス。
これだけおいしかったら、調味料なんて必要ないね。
「そして、そして、そしてぇ! <毒ナッツ>を砕いて砕いて砕きまくるぅ! こいつの食感はただのナッツとは一味違うぞぉ!」
「なんだかわたしも楽しい気分になってきた……」
『ボクも同じニャ……レベッカの気持ちがうつってきたんだニャ』
<毒ナッツ>の殻を剥いたら袋にイン。
綿棒でゴリゴリ叩くよ。
砕けたナッツはフライパンで少し炙る。
たちまち湧き立つ香ばしい香り。
なかなかに食欲をそそう。
「<魔女リンゴ>の甘さはそろそろどうかなぁ!? チェッーク! ……とろけるような甘さ!」
「わたしも一口! ……かぁぁぁ~! これはもうリンゴの甘さを超えてるよ! おまけに瑞々しさがジュースを飲んでるみたい!」
『一口食べただけで喉が潤うニャ!』
<魔女リンゴ>を並べ<ぶるぶるベリー>のジャムを添えナッツを散らし……。
ラストはもちろん……。
「最後の締めは<ポイズンハーブ>ゥ! ほんのちょっと乗せるだけで、こんなに彩りが豊かにぃ!」
「これはまさしく色の魔法だね! なんておいしそうなの!」
『ボクも食べたくて仕方ないニャん!』
<ポイズンハーブ>をお皿の端に置く。
焼きりんごもジャムも甘い。
口直しに清涼感を楽しんでいただけたらありがたい。
「では、お出ししてくるね」
「絶対おいしいって言ってくれるよ」
『お客さんも楽しみだろうニャ~』
キッチンを抜け食堂へ。
お姉さんは相変わらず無愛想な雰囲気で待っている。
テンションがスン……と戻る恥ずかしさに耐えろ、レベッカ。
「お待たせしました。“焼き魔女リンゴのぶるぶるベリージャム添え”でございます」
テーブルにことりとお皿を置くと、すぐさまギロリと睨まれた。
「ずいぶんと騒がしい厨房だな」
「……申し訳ありません」
ぐうの音も出ない。
またやらかしてしまった。
あんなに気を付けてたのに……。
というか、最後の方はロールちゃんとネッちゃんも騒いでいたような気がするけど。
チラッと食堂の隅を見る。
二人は何食わぬ顔で静かに佇んでいた。
「まずかったら二度と来ないぞ」
「はい……すみません」
最悪だ。
食べる前からカフェの印象が地に落ちてしまった。
せめて、もう一段階声のトーンを下げていれば……!
心の中で悔やむもどうしようもない。
お姉さんは焼きりんごにジャムをつけると、あ~んと口に運んでいく。
頼む!
お口に合ってくれ~い!
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