第7話:二人目のお客さん
「はぁ~……何回見ても美しいなぁ……」
「ロールちゃん、そんなにむき出しにしていると危ないよ」
『この辺りには変な人もいるんじゃなかったのかニャ』
「うぅん……わかってるぅ……」
その後数日経つ間も、ロールちゃんは毎日金貨タワーを作っては眺めていた。
ウットリした表情は見ていて微笑ましいのだけど、さすがに不用心過ぎる気がする。
せっかくの警戒心が……。
お客さんが少ないのが幸いだ。
というか、まだスクアーさんしか来ていない。
やっぱり場所が場所なんだろうね。
客足が少ないこともあり午前中は食材集め、午後から営業という方針になっていた。
「ねぇ、食材集めに行こうよ。<ポイズンハーブ>が見つかったら、また“ポイクッキー”作ってあげるから」
『昨日の夜はあんなにやる気だったじゃニャいか』
「うぅん……」
ネッちゃんと一緒にロールちゃんをゆさゆさ揺するも、うっとりモードに入ったままだ。
食材は一人でも探しに行けるけど、この状態のロールちゃんを置き去りにするのは危険極まりない。
「ほら、ロールちゃん、お願いだから」
『金貨は床下にしまうのニャ』
「はぁぁ~」
ぼんやりしたロールちゃんから金貨を回収。
隅っこの床下に収納。
宿屋の隠しスぺースなのだ。
「じゃっ、食材集めにいきましょうかっ」
「『ああ、良かった(ニャ)』」
金貨を隠すと、ロールちゃんはいつもの彼女に戻ってくれた。
ルンルンと進む後ろについていく。
その様子を見ていると、自然と呟きが漏れた。
「ロールちゃんは自分の世界に入り込んじゃうタイプなんだろうねぇ」
『レベッカもそういうところあるニャよ』
「んん? どういうことぉ?」
私は別に自分の世界に入り込んだりはしない。
確かに料理しているときはテンションが上がる。
でも、それはただテンションが上がっているだけだ。
断じて自分の世界に入り込んだり、周りが見えなくなることなどない。
『自覚がなさそうなところもそっくりだニャね』
「だから私は違うって~」
ネッちゃんの言葉に笑いながら、ロールちゃんの後を追う。
猫妖精にも鈍感なところがあるようだ。
森に入ると、ロールちゃんがこちらに振り向いた。
「レベッカ、今日は何探そうか」
「木の実系の食材があったらいいな。果物とか」
『ここの森は大きいから、探したらありそうだニャね』
キノコや野草エリアとは別の場所へ行ってみよう。
<満月茸>や<フォアカブト>の生えているところを抜けて森の奥へ進む。
宿屋から離れるにつれ、少しずつ森が深くなる。
暗がりに魔物が潜んでいるように感じてしまい、ちょっぴり怖くなってきた。
「ロールちゃん、毒魔物が出てきたらヤだね。私、とろいから逃げ切れるか心配だよ」
「この辺りはまだダンジョンから離れているから大丈夫だと思う。それに、レベッカは全然とろくないよ。毒食材の採取スピードすごかったし」
「そうかなぁ……」
ロールちゃんはそう言うけれど、いまいち実感が湧かない。
もしかして、私の自覚がないだけ……?
いや、そんなまさか。
私はいつだって普通そのものだ。
「でも、用心に越したことはないね。わたしに毒魔物は倒せないし。集まってくると困るから、なるべく静かにしようね」
「うん、静かに慎重に進んで行こう。襲われて怪我でもしたら大変だよ」
自分に言い聞かせるように呟く。
慎重に、慎重に……。
ふと、顔を上げると赤い木の実が目に入った。
「あああー!! <魔女リンゴ>があるー!!」
「レベッカ、大きな声出さないでっ……!」
『静かに慎重に進むんじゃなかったのかニャ……!』
普通の物より一回り小ぶりなリンゴ。
真っ赤な皮には魔女みたいな模様が浮き出ていた。
食べると毒により、怖い魔女に追いかけ回される悪夢を一週間見させられる。
その代わり、甘みがギュッと詰まっておりこれがまたおいしいのだ。
触るとピリピリするので、まずは毒を消す。
「【毒消し】!」
「『だから、静かに……!』」
無毒化した<魔女リンゴ>を何個か採ってかごにしまう。
もっと果物ないかなぁ?
キョロキョロと辺りを見渡す。
数歩奥に濃いブルーの小さな実がなった木が生えていた。
「<ぶるぶるベリー>があるよ!」
「『お願いだから、もっと小さな声でっ!』」
サササッと近寄ってみる。
やっぱり<ぶるぶるベリー>だ。
ブルーベリーと同じような酸味とそれ以上の栄養があるけど、体温が下がってしまう毒を持っている。
触るのは平気なので、そのまま採取。
この辺りは果物エリアかもしれないね。
こんなにたくさんのフルーツが自生しているとは素晴らしい森だ。
さらに十歩ほど左の地面には、深い緑の葉っぱが見える。
「<毒ナッツ>があるじゃん! いやぁ、テンション上がるねぇ!」
「毒魔物が来ないように祈るしかなさそうだね……」
『もうどうしようもないニャ……』
ズボッと引っこ抜くと、根っこの先にたくさんの落花生がついていた。
紫色の。
これは<毒ナッツ>。
少し焙っただけでカリカリになるのだ。
食べるとお腹壊すけどね。
触っても平気なので採取。
「もうちょっと毒食材ないかな……<ポイズンハーブ>だぁ!!」
「もう何も言わないよ……」
『ボクたちが静かにしてればいいんだニャ……』
ようやく見つけましたよ。
我らが<ポイズンハーブ>。
木の影にこっそり隠れてた。
ギザギザした小っちゃい葉っぱ。
普通のハーブは緑だけど、紫なのが特徴的だね。
触るだけで皮ふがただれるから、採取する前に【毒消し】!
「これで“ポイクッキー”を量産しよう。スクアーさんも喜ぶはず」
「良く見つけたね、レベッカ」
『毒魔物に遭遇しなくて安心したニャ』
一通り毒食材を集めたので、一度宿屋に戻る。
キッチンに並べてみると、小さな台がいっぱいになるくらいの量があった。
「リンゴとかはどんな料理にするの?」
「そうだねぇ。焼きりんごとかおいしいよ。ぶるぶるベリーはジャムにしようかな。ナッツのカリカリ具合が良いアクセントになると思う」
「おいしそう!」
『カフェっぽいニャ!』
「外のメニューに追加しておこう」
入り口横の看板にメニューを書き足す。
キッチンに戻って下準備を始めるわけだけど……。
「できればお肉やお魚が欲しいね。野草とかキノコ類ばかりじゃレパートリーが」
「実はわたしもそう思っていたんだよね。そのうち、お肉料理お魚料理も出したいな」
『野菜ばかりじゃ男の人は食べ足りないだろうニャね』
毒食材のお肉やお魚というと、基本的には毒魔物となる。
そもそも魔物自体が凶暴な生き物なので、捕獲するのは大変だろう。
私は【毒消し】以外の魔法は使えない。
力も弱いし。
どうしようかな。
頑張って狩りに行く?
でも、ロールちゃんやネッちゃんを危ない目に遭わせたくはない。
みんなでううん……と悩んでいたときだ。
ドアベルがカランカランと鳴った。
「失礼するぞ」
ゆらりと大柄な女性が入ってくる。
“カフェ・アンチドート”、二人目のお客さんがやってきたのだ。
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