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第6話:行商人のお話

「な、な、な!! なんという旨さリスか!」


 一口食べた瞬間、スクアーさんの背後にガガーン! と稲妻が迸った。

 いや、本当に落雷が発生したわけではないんだけど、そういう風に見えたのだ。

 スクアーさんは叫んだと思いきや、ピタッと固まっていた。

 急激に不安になる。


「お、お口に合いましたでしょうか……?」

「合うどころじゃないリスよ! これはもう料理と口の融合リスね!」


 スクアーさんは目を爛々と輝かせては、とうとうと感想を述べてくれた。


「この塩味は初めて経験するリス! しょっぱいだけじゃなくて、ほのかな甘みが後から顔を出してくるリスね! 一口飲むと、またすぐに次の一口を飲みたくなるリス!」

「これは<毒寿草>の塩分です。大地の塩味なので、海から採った塩分とはまた違った風味があります」

「そうなのリスか~」


 解説すると興味津々に聞いていた。

 スクアーさんはハイテンションなまま言葉を続ける。


「この“とろみ”もたまらんリスよ。キノコの具もふにゃふにゃしてて美味しいリス。噛めば噛むほど味が……何個でも食べられちゃうリスね」

「そちらのキノコは<満月茸>です。旨みの詰まったとろみが出ております」

「そんな食べ物があるリスか~。毒食材も侮れないリスね」


 赤いハートの<ウマウマダケモドキ>を齧ると、スクアーさんは今日一の笑顔になった。


「……くぁぁぁ~! なんリスか、この食べ物は! 頭にガツンと美味しさが伝わってくるリス! まるで最高級の霜降り肉を食べた時のような幸福感だリス! おまけに不思議な食感が印象的だリスね!」

「<ウマウマダケモドキ>と言いまして、それもキノコなんです。キノコの中でも随一の美味しさを誇ります」


 美味しそうにスープを飲むスクアーさん。

 完食すると、興味深そうに<フォアカブト>の花を見ていた。


「このお花も食べられるリスか?」

「はい、もちろん食べられます。それは<フォアカブト>のお花でして、ハッカのような清涼感があります。お口直しにどうぞ」

「飾りじゃないんだリスね。……うまぁ! 爽やかな風が吹き抜けるようだリス……。山に登っているとき、辛さを癒してくれる恵みの風を思わせるリスね……」


 さすがは行商人だ。

 豊富な語彙力でスープの美味しさを語ってくれる。

 スクアーさんは、はぁぁ……と恍惚とした表情でしばらく堪能していた。


「いやぁ、美味かったリスね~。こんなに美味しい食事は久しぶりリスよ~。ごちそうさまリス~」

「ありがとうございます。気に入ってくださって、私も嬉しいです」

「いやぁ、辺境の森の中にこんな素晴らしいカフェがあるとは思わなかったリスね。いずれは天下の大名店となるに違いないリスよ」


 食器をキッチンに持っていくと、ロールちゃんとネッちゃんはドキドキした様子で待機していた。


「ど、どうだった、レベッカ。喜んでくれているみたいだけど」

『リス人族の調子はどうだニャ』

「美味しいって言ってくれたよ。私も安心した」

「そっか、別に怪しい人ではないみたいで良かったよ」


 食事の様子を伝えると、二人ともホッとため息を吐いた。

 ロールちゃんはまだ警戒心が完全には抜けないようだけど、ひとまずは安心したらしい。


「レベッカ殿~、ちょっと来てくれリスか~? お店の人たちにも来てほしいリス」

「あっ、は~い、今行きます」


 お皿を洗おうとしたらスクアーさんの声が聞こえてきた。

 片付けは後ですることにして、みんなで食堂へ戻る。


「どうされましたか、スクアーさん」

「いやぁ、レベッカ殿の料理の美味しさに深い感銘を受けたんだリス。まずは、ちゃんとした自己紹介をするリスね。こう見えても、あちきは“ル・スクワロ商会”の商会長なんだリスよ」

「「え! そうなんですか!?」」


 スクアーさんがさらりと告げたことに衝撃を受ける一同。

 “ル・スクワロ商会”と言ったら、フリーデン王国最大手の商会だ。

 しかも商会長だったなんて……。

 スクアーさんはただの行商人ではなく、とんでもない大物だった。


「そちらのお嬢さんたちにはきちんとお話してなかったリスね。どうぞよろしくリス」

「わ、わ、わ、わたしは宿屋をやっているロールでございます。よろしくお願いいたしますっ」

『ネ、ネッちゃんですニャっ』


 ロールちゃんとネッちゃんは緊張した様子で握手を交わす。

 当のスクアーさんはというと、来店したときと変わらぬ雰囲気で二人ともお喋りしていた。

 こうしてみると普通の(とは言ってもリス人族だけど)少女みたいだ。

 スクアーさんは少しお喋りした後、食器を丁寧に置くと真剣な表情で告げた。


「レベッカ殿、改めてお願いがあるリス」

「は、はい、なんでしょうか?」


 活発な少女から一転、商売人のキリッとした目つきに変わっている。

 な、何を言われるんだろう……。

 緊張して心臓がドキドキしてきたよ。


「うちの商会と業務提携してほしいリス」

「業務提携!? ……ですか?」


 まったく想像もしていないことだった。

 ぎょ、業務提携ってどういうこと?

 “カフェ・アンチドート”と“ル・スクワロ商会”が?

 いや、そうなんだろうけど、どうして……。

 疑問と混乱で頭の中がいっぱいだ。

 なんでかな? と思っている間も、スクアーさんは淡々と言葉を続ける。


「あちきはこんなに美味しい料理を食べたことがないリス。商会には各国、各地域の貴重な食材が集まってくるリスが、レベッカ殿の料理には足元も及ばないリス」


 その口調や表情からは、ピシピシと商売人のオーラが伝わってきた。

 お世辞や冷やかしなどではない。

 真剣な評価をもらって、嬉しくも緊張が湧いてきた。


「ありがとうございます、スクアーさん。そんなに褒めていただいてとても嬉しいです。しかし、なぜ業務提携を……」

「レベッカ殿の料理を売らせてほしいんだリス」


 スクアーさんは真剣な表情のまま、きっぱりと告げた。


「わ、私の料理を売ってくださるのですか……?」

「あちきの目と舌は確かだリス。絶対に売れ筋商品になるリスよ。どうだろうか、レベッカ殿。もちろん、ギャランティもたっぷりお支払いするリス」


 こんなことを言われたのは初めてだ。

 どうしよう……とロールちゃんたちを見たら、二人とも激しく首を縦に振っていた。


「と、とても光栄です。でしたら、ぜひお願いしたいです」

「ありがとうリス! いやぁ、そう言ってくれて良かったリス。実は、“テトモモハ”に商品を探しに来たんだリスが、なかなか良い品がなくて困ってたリス」


 スクアーさんは、たはは……と笑っている。

 そうか、来店したときにここはカフェか? と聞かれたのはそれが理由だったのか。


「ああ、そうだ。これはお代だリス。お礼の気持ちも入っているリスよ」


 スクアーさんじゃ小包をテーブルに置いた。

 ジャラジャラと大量の金貨が出てくる。


「こ、こんなにいただいてしまっていいんですか!?」

「もちろんだリス。遠慮しないで受け取ってほしいリス」

「はわわ……」


 ロールちゃんは大金を目にすると、途端にはわはわしだした。

 目も金貨と同じようにキラキラ輝いている。


「レベッカ殿。さっそくで申し訳ないリスが、保存が効いて流通しやすそうな料理を考えてほしいリス」

「あ~、そうですね。では、今日からでも……」

「はい! お望みとあらば、いくらでもお作りします! 保存が効くお料理もたくさんご用意いたします!」


 突然、今まで黙っていたロールちゃんが快活に叫んだ。

 あの~、作るのは私なんですけど……。

 とは言えず、スクアーさんのお見送りの時間になった。


「レベッカ殿、本当にありがとうリス。また必ず食べに来るリスからね。業務提携の件は手紙を送るリス」

「はい、楽しみにお待ちしております。どうぞまたお越しくださいませ」


 上機嫌のスクアーさんは、バイバーイ! と笑顔で帰って行った。

 姿が見えなくなってから店内に戻る。

 さて、片付けするかな。

 と、思ったら、チャリ……チャリ……という金属音がどこからか聞こえてくる。

 不気味な音に心臓が跳ね上がった。


「え……な、なに……?」

『し、侵入者リスか……!?』

「金貨が一枚……二枚……」


 見たことないくらいのホクホク笑顔のロールちゃんがいた。

 それはもう嬉しそうに金貨でタワーを作っている。


「次はいつ来てくれるかなぁ……」


 ロールちゃんは金貨タワーを作ったら、うっとりと眺めていた。

 最初はあんなに警戒していたのに……。

 

「なんだ、ロールちゃんか」


 ホッとしていたら、ネッちゃんがぼそりと呟いた。


『ちょっと現金な一面があるっぽいニャね……』

「ま、まぁ、資金のやり繰りも厳しかったみたいだし……」


 ロールちゃんの新しい一面が明らかになりつつ、無事に最初のお客さんに喜んでいただけた。

お忙しい中読んでいただきありがとうございます


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