第4話:最初のお客さん
「いやぁ、三人でやると掃除もすぐ終わるもんだねぇ」
「すごいピカピカになったわ。なんか宮殿にいるみたい」
『いい汗かいたニャ~』
カフェを開くことを決意した後、まず始めたことは宿屋の掃除だった。
隅にある蜘蛛の巣を取り払い、埃を掃いて、壁や床を拭き掃除し……。
数日ほどかかったけど、思ったより大変じゃなかった。
ロールちゃんはこまめに手入れしてたんだろう。
薄汚れていた室内が、今では窓から差し込んだ日の光が家具や床に反射している。
もちろん、外の壁も見違えるようにキレイになった。
「あとは看板をかけたら完成だね。レベッカとネッちゃんはそっち持ってて」
「はい」
『はいニャ』
“カフェ・アンチドート”と刻まれた木の板を玄関の上にセット。
入り口の横にはメニューボードを置く。
毒食材を無毒化して美味しく料理! と書かれている。
どちらもロールちゃんが作ってくれたのだ。
いえーい! とみんなでハイタッチして、掃除完了の儀を執り行う。
「レベッカ、カフェはいつから始めようか」
「なるべく早い方がいいわよね。食材が手に入り次第とかはどうかしら」
「いいね」
『さっそく探そうニャ』
今はまだ午前中の早い時間。
今日の掃除だって最後の片付けくらいしかなかったので、体力は十分ある。
「じゃあ、森に毒食材を探しに行こうよ。これからは私の出番だね。あっ、でも、毒魔物がたくさんいるのか」
「強い魔物はダンジョンの方にいるから、十分気を付けてれば大丈夫だよ。この前はダンジョンに近づき過ぎちゃったの」
「なるほど、そうなんだ。だったら、注意してれば平気そうだね」
『ボクも魔物の臭いがしたらすぐ知らせるニャよ』
かごを持ち、三人で森に入る。
私たちに魔物は倒せないので、キノコや野草を採取するつもりだ。
というわけで地面を観察するのだけど、あるわあるわ毒食材が。
『右も左も毒の食べ物ばっかだニャ……とんでもない環境ニャね……』
毒食材のあまりの宝庫に、さすがのネッちゃんもドン引きしていた。
「猛毒の<満月茸>だぁ」
目の前に生えているのは、傘の表面に満月みたいな模様が浮かんだ茶色いキノコ。
食べるとヤバいけど触るのは問題ない。
採取。
「こっちには死のキノコと呼ばれる<ウマウマダケモドキ>がっ」
超高級食材の<ウマウマダケ>によく似たキノコ。
平たいテーブルみたいに広がった赤い傘に、短くて太い柄。
本物そっくりだね。
これも食べるとヤバいけど触るのは問題なし。
採取。
「毒野草の代表格<フォアカブト>までっ」
騎士団の兜みたいな形のお花がいくつも連なって咲いている。
薄い紫色がキレイだけど、大変な猛毒なのだ。
触るのは問題なし。
採取。
「食べると寿命が10年縮むと言われる<毒寿草>もあるっ」
放射状に広がったギザギザ葉っぱの中央に咲いている、目にも鮮やかな黄色のお花。
これも食べるとヤバいけど以下略。
採取。
あのキノコもこっちの野草も全部タダ。
これもあれもタダ、タダ、タダ。
ああ、なんて素晴らしい森なの……。
シュシュシュシュシュっ! と採取しまくる私を見て、ロールちゃんは引きつった顔で呟いた。
「そ、そんな躊躇なく毒食材が触れるなんてレベッカすごいね」
「いやぁ、原価がタダってたまりませんよぉ」
『レベッカの苦労を思うと今でも涙が出るニャん』
私にとってはまさしく夢のような森。
サンデイズ食堂では、常に原価と利益の計算で頭が擦り切れそうだった。
ここではそんなこと気にしなくていい。
まさしく天界、大天界。
すぐに持ってきたかごは満杯になった。
「たくさん集まったね、ロールちゃん。これだけあれば色んな料理が作れるよ」
「わたし、こんな量の毒食材なんて初めて見た。そのうち、看板メニューみたいなのができるといいなぁ。“カフェ・アンチドート”と言えば……みたいな」
看板メニューと聞いて、サンデイズ食堂のメニューを思い出す。
肉とか魚、野草やキノコ……。
とにかくたくさん作ったなぁ。
「食堂をやっているときはスープ料理が特に人気あったよ。毒食材の旨みが溶け込むからかな」
「へぇ~、美味しそう。ここで出しても売れそうだね。夜とかまだまだ寒い日あるし」
『レベッカのスープは本当に体があったまるんニャよ。飲んだ日はお風呂入らなくていいんだニャ』
ネッちゃんはお風呂が嫌いなので、体のあったまりを口実に毎回逃げていた。
まぁ、逃がすことはないのだけど。
いくら妖精と言われても清潔に過ごしてほしい。
「レシピは全部頭の中に入っているから、材料さえあれば作れるよ」
「え、すご……」
「キノコをふんだんに使ったスープとかいいかも。さっそく作ってみる?」
「作る作る」
『今日はお風呂なしニャね』
集めた毒食材をキッチンに運んだところで、玄関にかけている鈴がカランカランと鳴った。
「ああ~、お腹空いたリス~。カフェがあって助かったリスね」
ドアを開けて入ってきたのは一人の少女。
なのだけど、私たちと同じ人間ではない。
茶色のくせっ毛に、くるんとした茶色の眼。
頭の上に生えている二つの三角な耳。
そして、身体より大きなふわふわの尻尾。
この人は……リス人族の女の子だ。
「「い、いらっしゃいませ」」
「表にカフェって書いてあるけどやってるリスか?」
店内の空気が緊張で張り詰める。
記念すべき、最初のお客さんがやってきた。
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