第3話:辺境伯夫人になれるチャンスが!(Side:ワガマリア①)
「お義姉様は今ごろどうしているでしょうか、お父様」
「さあな。途方に暮れているだろうよ」
お義姉様を追い出してから、あたくしは夫探しの日々を送っている。
超レアスキル【キュアヒール】と聞けば、色んな男性が寄ってきた。
が、いざ顔見せの段階になると、なぜか逃げられるのだ。
世の中に見る目がない男ってたくさんいるのね。
「ワガマリア、早く金持ちと結婚しなさい」
「だから、わかってますわ」
隣にいるのはお母様。
お義姉様を追い出したことを伝えたら、ただ一言「あら、そうなの」とだけ言っていた。
まぁ、食堂の売り上げはもうないわけだけど、別にそんなことはどうでもいい。
あたくしが金持ちに嫁げばいいだけの話なんだから。
実家に仕送りは絶対にしないけどね。
「おや? 今日は休みだったか? 定休日じゃなかったはずだが……誰かいないかねー?」
お茶会の予定を整理していたら、外から男の人の声が聞こえた。
すかさず、お父様がカッ! と指を鳴らす。
「ワガマリア、出なさい」
「えぇ~」
「早くしなさい。あんたが一番年下でしょ」
子どもなんだから当たり前でしょうが。
しぶしぶ外に出たら、知らないオジサンとカッコいい紳士が立っていた。
さらりとした銀髪に深いブルーの瞳。
余所行きモードで対応する。
「お待たせいたしました。何用でしょう」
「き! ……みは誰だね……? サ、サンデイズ家の者か?」
「……はい、あたくしはワガマリア・サンデイズと申します」
なにこのオジサン。
人の顔を見てギョッとしてるんですけど。
失礼過ぎない?
オジサンは引きつった顔のまま話を続ける。
「サンデイズ食堂は今日は休みかね?」
「もう閉店しました」
「閉店!?」
うるさいなぁ。
閉店ったら閉店よ。
何がそんなにおかしいの。
「も、もしかして、レベッカ嬢の具合が悪いのか? 今はどこにいるのかね?」
なんでお義姉様の名前が。
不愉快極まりないわね。
もういないって言ってやろう。
「先日追放しました」
「追放!?」
オジサンはなぜか強いショックを受けていた。
ええ、なに。
「どうしたんだ、ワガマリア。サンデイズ食堂は閉店だと伝えなさいか」
「家の中にまで話し声が聞こえてうるさいわ」
オジサンが騒ぐせいで、お父様たちがやって来てしまった。
めんどくさいなぁ。
しかし、お父様とお母様はオジサンを見ると固まった。
「「……マーグレイブ辺境伯!?」」
「え! 辺境伯!? このオジサ……ぶごっ!」
最後まで言い切る前に、勢い良く口を塞がれる。
本当に辺境伯だったなんて。
じゃ、じゃあ、横にいる紳士は息子さんってこと?
「サンデイズ殿、閉店とはどういうことでしょうか。というより、なぜレベッカ嬢を追放したのです」
「あ、いや、あのような外れスキル持ちを置いておくと、男爵家の尊厳に関わるので……」
「尊厳……? レベッカ嬢が働いていたのは、サンデイズ家のためではなかったのですか? サンデイズ殿はずいぶんと辛辣なお考えのようですな」
辺境伯の言葉はチクチクとあたくしたちに刺さる。
改めて言わないでよ。
こっちが悪いみたいじゃないの。
お父様は情けなくあわあわしてたけど、気を取り直したように言った。
「辺境伯閣下! ここにいるワガマリアはすごいスキルを持っているのです。なんと、【キュアヒール】なのですよ! これほど強い回復スキルはなかなかないでしょう。どうでしょう、ご子息と一度お食事でも……」
「結構です。お嬢様もお忙しいと思いますので」
あたくしが何か言う前に、銀髪紳士はニッコリと告げる。
ぐっ……先手を打たれた。
「まさか、あなた方がこのような考えの持ち主とは知りませんでした。せっかくレベッカ嬢に息子を紹介しようと思ってたのですがね」
「そ、そうだったのですか!? でしたら、食堂を再開して……」
「ですから、レベッカ嬢がいなければ意味がないでしょう。もう二度とこちらへ来ることもないですな。さあ、行くぞ」
「失礼いたします」
辺境伯のオジサンは紳士と一緒にスタスタ歩きだしてしまった。
お金が逃げていくようなすごい喪失感だ。
「お、お待ちください、辺境伯閣下!」
「どうかお待ちになって!」
「お義姉様が向かったかもしれない場所をお教えしますわ!」
三人で必死に追いかけていると、辺境伯はピタリと止まった。
よし、お義姉様を出汁にして銀髪紳士と繋がりを作るわよ。
「ご心配なく。レベッカ嬢の行方はこちらで調べますので。嘘を吐かれてはたまりませんからな」
「今度こそさようなら、サンデイズさん」
そう言い残すと、辺境伯親子は馬車に乗って帰ってしまった。
ヒュウウと冷たい風が吹く。
そんな……辺境伯夫人になれたかもなのに。
「ワガマリア! なんてことをしてくれたの!」
「ええ!?」
突然、お母様の厳しい声が響いた。
「あんたが余計なことを言ったからよ!」
「はぁ!? なんであたくしが!」
「レベッカの追放なんていくらでも誤魔化せたでしょうが!」
なぜあたくしの責任になるのよ。
おかしいでしょう。
さらには、お母様の発言にお父様まで乗っかってくる。
「そうだそうだ! ワガマリアのせいだ!」
「ああ、もう! 子どもみたいなことを言わないでください!」
しばらく、あたくしたちは罵り合いの時間を送る。
心の中には後悔の念がいっぱいだ。
辺境伯夫人になれるせっかくのチャンスをふいにしてしまった。
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