第24話:“カフェ・アンチドートのフルコース”②
「メインディッシュは<ヴェレーノ牛>のサーロインステーキだぁ! 筋切り筋切り、トントントン!」
「『筋切り筋切り、トントントン(ニャ)!』」
お肉の筋を切って柔らかく。
何よりもステーキは焼き方がポイントなのだ。
「強火で片面を焼けぇ! 焦げ目がついたらひっくり返すぅ! もう片面も強火で焼けぇ!」
「あぁあ~、この音がたまらないぃ~! 食べ食べ食べ食べ食べたくなるのぉ~!」
「モ~ぉ、我慢できない! 牛だけにぃ! あひゃひゃひゃひゃっ!」
『面白くもなんともないニャー!』
両方の表面を先に焼いてから、中に火を通す。
味付けはシンプルに、食材の味のみ!
余計なソースなど使わず一本勝負!
それほど<ヴェレーノ牛>のおいしさは、牛肉の中でも頭一つ抜けているのだ。
付け合わせの野菜として、麓の森でゲットした<エメラルドパプリカ>と<ベビー毒コーン>を一緒に焼く。
<エメラルドパプリカ>は宝石みたいなグリーンのパプリカ。
昏倒しちゃう毒があるけど、毒消しすれば、フルーツみたいな甘さ。
お肉のちょうどいい口直しになるだろう。
見た目も宝石のように麗しい。
<ベビー毒コーン>はシャキシャキした食感が自慢。
お肉を切ると、中はほんのり赤みが残っている。
ベストな焼き加減。
盛り付けて、完成っ。
運ぶ!
「こちらが本日のメインディッシュ、“<ヴェレーノ牛>のサーロインステーキ”でございます」
『これは素晴らしい! かなり上物の肉だな! ……あぁ、うまい……。ありきたりだが、表面はカリッと、中はジューシーそのものだ。フォークが止まらない……』
「お肉はもちろんですが、お野菜も美味しいですわね。パプリカの甘みがお肉の塩味と溶け合います。ベビーコーンの食感だって、お肉ともパプリカとも違い、ある種の清涼感を与えてくれます」
バンパイさんとフランソワーズさんは喜んで食べている。
ナイフでお肉を切るカチャカチャする音も、楽しそうにお喋りする音も、私の心に温かく響く。
さて、あとは最後の締めだね。
キッチンで材料と心を整える。
コース料理のラストといったら、もうこれしかないだろう。
「デザートは“カフェ・アンチドート”の特製ホールケーキぃ! まずはスポンジ作りからぁ! なんで、今から焼くかってぇ? だって、焼きたてがおいしいのぉ!」
「焼きたてケーキは最の高―! わたしも食べたくってしょうがないー!」
「ケーキは計器で景気よく測れー! あひゃひゃひゃひゃっ!」
『だから、つまらないんだニャー!』
<デビルエッグ>をボウルに入れ、カーッと泡立てる。
さらに<バチバチ蜂>の蜂蜜をイン!
毒消ししたので、このレア食材も問題なく使えた。
砂糖なんて比べ物にならない、それでいて後味爽やかな甘みを持つ。
つなぎは<ヴェレーノ牛>の乳から作ったバター。
ぐーるぐるぐると充分かき混ぜたら、ケーキの型に注ぎ入れる。
かまどに入れたら、燃え石をフル投入!
こうすることで、いつもより数段早く焼き上がるのだ。
普段は節約ぎみに使うけど、今日は特別。
何と言っても、プロポーズの日だからね。
「苺のホールケーキを二人分ん! <マグマ苺>をふんだんに使うよぉ! 毒消ししたから火傷しないぃ!」
「溶岩のような赤が目に眩しい!」
「毒消ししなきゃ、クマが食べても火傷するぞー! あひゃひゃひゃひゃっ!」
『ネッちゃんはもう何も言わないニャー!』
<マグマ苺>は口に入れた瞬間、高熱を発する毒を持つ。
これもまた、毒消ししちゃえば問題なし。
酸味と甘みがバランスの良い苺となってしまう。
サクサク切り終わったところで、スポンジが焼き上がった。
「スポンジは真ん中でスライスぅ! クリームと苺でサンドするぅ!」
「白と赤の色合いがカラフルで美しいぃ!」
「混ぜてもピンクにはならないぞ! あひゃひゃひゃひゃ!」
『ネッちゃん、苺大好きニャー!』
クリームは森に生えていた<毒ナタネ>から作った。
いわゆる、植物性のクリーム。
魔力を込めると液体から半液体に変化するのだ。
毒消しなしで食べると、身体が油のように溶けていくけどね。
パレットナイフで全体をぐるりとコーティング。
<マグマ苺>をポンポンっと乗せたら完成。
三角形に切り出して、運ぶぅ!
「こちらが最後のお料理でございます。デザートとして、“カフェ・アンチドートの特製ショートケーキ”をご用意しました」
『そうか、もうデザートか。もっと堪能したかったが、こればっかりは仕方がないな』
「切り口まで大変に美しいケーキですわね。白と赤のコントラストがキレイ……食べてしまうのがもったいないです」
バンパイさんたちは、ほわぁ~とケーキを眺めている。
一口食べると、すぐさま満面の笑顔に変わった。
『スポンジはふわふわなのに、クリームは恐ろしくしっとりだ。まさしく、食後のデザートにピッタリのケーキだな』
「こんなに甘い苺は食べたことがありません。甘みの中からわずかに主張する酸味が、爽やかな後味ですわ」
口々に嬉しい感想を述べてくれる。
頑張って作って良かったな。
食べ終わったところを見計らって、<ポイズンハーブ>のお茶を出す。
私にできるのはここまで。
後はバンパイさんにかかっている。
チラリと見ると、さりげなく頷いてくれた。
キッチンに戻り、静かに様子を見守る。
ロールちゃん一同は、両拳を握ってハラハラしていた。
「ぁあぁ~、どうしよう~。緊張で胸が張り裂けそうだよぉ~」
「吸血鬼と人間……! 種族を超えた愛は無事結ばれるのか……!」
『ネッちゃんたちは、新しい歴史の幕開けに立ち会っているんだニャ!』
「三人とも静かにっ……!」
私たちの声が聞こえたら、雰囲気が台無しになっちゃうでしょうに!
バンパイさんとフランソワーズさんは、特に何を話すことなくお茶を飲んでいる。
その静かな雰囲気が、今か今かとより緊張感を増す。
『空を見てごらん、フランソワーズ。美しい満月が出ているよ』
「ええ、ここ最近でも素晴らしいお月様ですわね。おいしいお料理も食べられて、美しくて満月も見られて、私は本当に幸せ者です」
二人は揃って満月を見ていた。
薄暗い店内に月明かりが差し込み、彼らをぽっかりと浮き出している。
ロールちゃんが気を利かせて、食堂の照明を弱くしたのだ。
『君は満月のように明るく私の心を照らしてくれる』
「……バンパイ様。それは私のセリフですわ。バンパイ様こそ、私を見守ってくださる月でございます」
そっと手を握り合う一組の男女。
種族なんて関係なく、互いに愛し合っていることが伝わる。
バンパイさんはフランソワーズさんを見ると、ポケットから小さな箱を取り出した。
『フランソワーズ、君に伝えたいことがある。私と……結婚してくれないか?』
“カフェ・アンチドート”に、バンパイさんの言葉が静かに響いた。
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