第22話:遠征
「あ、あの……キャンデさん……そろそろ休憩を……」
「わたし……喉が渇きました……」
『ネッちゃんも干からびそうだニャ……』
その後、私たちは森を進み川を渡り、山の麓にまで来ていた。
キャンデさん曰く、毒魔物や毒食材が豊富に育っている地域らしい。
“テトモモハ”を訪れてから、こんな遠くまで来たことはない。
もう数時間は歩いた気がする。
汗だくで息も絶え絶えだ。
私たちは疲労困憊なのに、キャンデさんは疲れた様子もなくずかずかと歩いている。
「なんだ、だらしないヤツらだな。体力がなかったら美味い料理が作れないぞ」
「『そんなこと言ったって……』」
飽きれた表情で立ち止まるキャンデさん。
汗一つかいていないし、呼吸もまったく乱れていない。
こ、これがSランク冒険者か……。
基礎体力の差を見せつけられた気分だ。
「……まぁ、いいだろう。ここで休憩とする。ったく、遠足じゃないんだからな」
「『ああ、良かったぁ……』」
私たち(キャンデさん以外)は、ドカッと地面に座る。
この辺りはちょうど木が生えておらず、草原となっていた。
そよ風が気持ちいいよ~。
三人ではぁ~……と黄昏ていたら、キャンデさんにまたもや呆れられてしまった。
「お前たちはここで休んでいろ。私が毒食材をいくらか捕まえてくるから、メニューに使えそうな物を選べ」
「「すみません、キャンデさん……」」
『かたじけないニャ……』
キャンデさんは重そうな剣を携えたまま、颯爽と歩きだす。
ついていけないのが本当に申し訳ない。
せめて私にもっと体力があれば……。
残念に感じていたら、ふと、彼女が向かう先に牛型の毒魔物が見えた。
紫と白色のまだら模様の牛、それは……。
「<ヴェレーノ牛>だぁ!」
「うぉっ! な、なんだ、レベッカ!」
猛スピードでキャンデさんの隣へダッシュ。
食べると毒で少しずつ牛になっちゃうけど、それはもう頬っぺたがとろけるほどおいしいのだ。
「キャンデさん、あれ捕まえてください! コース料理のメインディッシュにピッタリです!」
「よ、よし、わかった。わかったから、私の腕を力強く握るな。千切れるだろうが」
キャンデさんは私を振り払うと、<ヴェレーノ牛>の元へ向かう。
そういえば、キャンデさんの狩りを見るのは初めてだ。
Sランク冒険者の戦いって、どんなバトルなんだろう。
クエストなんてやったことがない私は興味深々だった。
「はっ!」
『ゲェッ!』
剣で叩いた!
ドサッと倒れる<ヴェレーノ牛>。
キャンデさんは手持ちの縄で縛りあげ、こちらに戻ってきた。
え、もう終わり?
なんかよくわからないうちに終わってしまった。
「気絶させているだけだから、鮮度は保たれるはずだ」
「ありがとうございます。あっという間でしたね。さすがSランク冒険……キャンデさん!!」
「な、なんだっ」
空を見ると、真っ黒の巨大な鳥が優雅に飛んでいる。
あの鳥はまさしく……。
「<デビルバード>が飛んでいます! きっと、この辺りに卵があるんですよ! 超珍味の<デビルエッグ>がぁ!」
別名、悪魔の卵。
食べると毒によってベロや内臓が燃え尽くされる。
半熟にしたときのとろ~りとした食感は、他のどの卵にも負けないのだ。
なぜかキャンデさんは若干ひいた様子で話す。
「デ、<デビルバード>の巣は山の頂上付近にあると聞いているが……」
「採りに行きましょう! 早くしないと日が暮れちゃいます! さあさあさあ!」
「つ、疲れてるんじゃないのか?」
私の身体は真綿のように軽い。
キャンデさんはどうしてそんなことを言うんだろう?
パワーに満ちあふれているというのに。
「では、採取してきますねっ! キャンデさんはロールちゃんたちをお願いします!」
「ま、待て、レベッ……!」
景色がどんどん後ろに流れる。
こう見えて、私は意外と足が速いのだ。
ぐんぐん登って頂上付近へ。
無精卵をいくつかいただいて戻ってきた。
ギョッとする三人。
「ず、ずいぶん、早いな……」
「さっきまであんなに疲れてたのに……」
『レベッカは毒食材を見ると豹変するんだニャ……』
その後も、周辺で次々と毒食材を入手した。
川では<レインボウ・マス>を、森では<ポイズンオリーブ>をゲット。
魚料理に使おう。
さらには<海千山芋>、<ヘルキャロット>、<毒ぶどう>……などなど。
前菜やスープの材料になりそうな食材もたくさん見つかった。
全部鞄に詰めても全然重くない。
私って意外と力持ちなのだ。
「さあ、帰りましょうかぁ! 我らが“カフェ・アンチドート”にぃ!」
「レ、レベッカ、休まなくて平気なのか? 猛スピードで動き回っていたが……」
「疲れてなんかないですよぉ! ほらっ、ロールちゃんもネッちゃんも早く行こぉ! おいしい毒食材が悪くなっちゃうぅ!!」
「ま、待って……レベッカ……」
『ハイテンションモードに入っちゃったニャ……』
ロールちゃんとネッちゃんは、相変わらず疲れた様子で後からついてくる。
でも大丈夫。
二人も、おいしい毒食材を見ていたら元気が回復すると思う!
□□□
また数時間歩き、 “カフェ・アンチドート”に帰ってきた。
閉店中の看板をどけて中に入る。
お店はバンパイさんのプロポーズが終わるまで、一時的なお休みにしているのだ。
ほんの数日間だけね。
食材の簡単な下処理だけ行い、その日は寝てしまった。
翌日。
私はキッチンでレシピを考えるけど、ロールちゃんとネッちゃんは街に行くことになっていた。
食器を見繕ってくれるというのだ。
「じゃあ、わたしたちは買い物してくるね。怪しい人がいるといけないから、ちゃんと戸締りするんだよ」
『十分に用心するニャよ。何かあってもネッちゃんは守れないからニャね』
「ありがとう、二人とも。でも、大丈夫。2階にはキャンデさんも寝てるし」
二人を外まで見送る。
笑顔で手を振りながらロールちゃんたちは街へと歩いていった。
「さて、レベッカ……あとはあなたが頑張るだけ」
ロールちゃんとネッちゃんは食器を買いに行ってくれた。
キャンデさんは食材を集めてくれた。
みんなの頑張りを形にするのは、料理人であるこの私。
最高となるのも、最悪となるのも、全ては私の腕にかかっている。
心に残るような美味しい料理を作りなさい。
時間が過ぎるのも忘れ、私はキッチンにこもる日々を過ごした。
二日後、いよいよ満月の日を迎えた。
オシャレな食器も用意し、食堂の掃除も完璧。
メニューも無事に完成した。
準備万端だ。
私たち“カフェ・アンチドート”一同は、食堂で本日の主役を待っていた。
「き、緊張するね、レベッカ。プロポーズ上手くいくかな」
「大丈夫だよ、ロールちゃん。私が絶対に成功させるから」
「今日は歴史に新しいページが刻まれる日となるか……」
『お願いだから大笑いしないでくれニャね。雰囲気が台無しになるんニャ』
各々、感想を口にする。
お客さんにとって大事な日は、私にとっても大事な日なのだ。
そう実感したとき、カランっという軽やかな音が響き、扉が開かれた。
『し、失礼する』
「こんばんは」
バンパイさんとその恋人さんがやってきた。
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