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第2話:最果ての地で女の子が

「お嬢ちゃん、“テトモモハ”に着いたよ」

「んぁっ……」


 男の人の声が聞こえて目が覚めた。

 寝て起きて寝ての繰り返しの日々。

 この10日間は意外と疲れたな。

 ぐぐぐと瞼を開けたら、知らない中年男性が私を覗き込んでいる。

 え……誰、このオジサン……って、思ったら御者さんだった。


「大丈夫? 起きられるかい?」

「起きられます、すみませんっ」


 慌てて馬車から降りる。

 知らないうちに目的地へ着いていたようだ。


「じゃあ、馬車代を頼むよ」

「はい。この無料チケットでお願いします」

「……無料チケット?」


 ワガマリアに貰った紙を渡したら、御者さんの表情が曇った。

 ん? なんだこの反応は。


「いや、あの……“テトモモハ”行き馬車の無料チケットって聞いたんですけど……」

「うちはそんなのやってないよ」


 うちはそんなのやってないよ……そんなのやってないよ……やってないよ……。

 オジサンの言葉が頭に反響した瞬間、全てを理解した。

 ……私はワガマリアに騙されたのだ。

 彼女の意味深な笑みが思い浮かぶ。

 んなぁ! と頭を抱えていたら、御者さんが心配そうに話しかけてきた。


「お嬢ちゃん、お金は払えるかい? 今日の売り上げがなかったら、オジサンは奥さんに殺されちゃうんだ」

「は、払えます! 払いますんで少々お待ちください!」


 お金を必死に数える。

 頼む! 足りてええ!

 どうにか提示された金額を渡せた。


「ありがとう、お嬢ちゃん。これでオジサンはもう少し生きられるよ」

「こちらこそありがとうございました。すみませんでした」


 裏では修羅の人生を送っているのかもしれない御者さんを見送る。

 無事“テトモモハ”に来られた。

 だけど、なけなしのお金までワガマリアにドレインされた気分なのはなぜだろう。

 そして、私の新天地となる“テトモモハ”は……。


『森だニャ』

「森しかないね」


 目の前には、たくさんの木が生えている。

 つまり森だ。

 右を見ると森。

 左も森。

 後ろ! ……も森。

 なかなかに反応に困る。


「何はともあれ少し歩いてみようか。木が生えているのはここだけかもしれないし」

『ボクも賛成だニャ。歩いていれば街が出てくるかもニャね』


 ネッちゃんと一緒に歩きだす。

 敢えて楽観的な気分を演出をするものの、このまま森しかなかったらどうしようという不安があった。

 できれば野宿はご勘弁願いたいよ。

 木しかないのかと思っていたけど、5分ほどで開けた場所に出てきた。

 そして、その奥には……。


「あっ! ネッちゃん、家が建ってるよ!」

『きっと宿屋ニャ。でも、ちょっと廃れてるニャね』


 木造の少し大きな家。 

 家というかネッちゃんが言うように宿屋みたいだ。

 煙突から煙は出てないからお休みなのかな。


「この辺りのこと聞いてみようか……すみませーん。こんにちはー」

『誰かいるかニャ~?』


 トントン! と扉を叩くけど、何の返事もない。

 やっぱりお休みか。

 でも、宿屋にお休みってあるのかな。

 と思っていたら、どこからか、ぐっ……という音が聞こえてきた。

 ずず……という地面を引きずるような音もしている。

 音の正体が気になり、ん~? と家の後ろを覗いてみた。


「うっ……!」

「ネッちゃん!」

『これは大変だニャ!』


 女の子がぐったりと倒れている。

 さっきの音は少女の苦しむ声だったのだ。

 二人で慌てて駆け寄る。


「大丈夫ですか! しっかりして!」

「あ、あなたは……?」

「私はレベッカ。旅人よ」

『何があったんだニャ』


 少女の額からは脂汗がダラダラと垂れている。

 もしかして病気かしら。

 良く調べると、右腕に小さな切り傷があった。

 出血は少ないのだけど、その周囲がどんどん紫に変色している。

 毒だ。


「食料を探してたら毒魔物に襲われて……」

「ちょっと待ってて。私のスキルで浄化するから。……【毒消し】!」


 傷口に手をかざして魔力を込める。

 パァッ! と私の手の平が光り、紫の変色はあっという間に消え去った。

 少女の青ざめた顔に血の気が戻ってくる。


「え、な、何をしたの!? あんなに苦しかった毒が一瞬で消えちゃった」

「私は【毒消し】スキルを持ってるの。毒ならどんな物でもすぐに消せるわ」

「そうだったんだ……どうりで」


 今まであらゆる毒を無毒化できた。

 地味なスキル故か、魔力の消費量も少ない。


「あの、本当にありがとうございました。わたしはロールって言います」

「レベッカ・サンデイズです。こっちは猫妖精のネッちゃん」

『よろしくニャ』

「猫妖精なんているんだね。かわいい……」


 ロールと名乗った少女と握手する。

 深いグリーンの三つ編みおさげに、髪の毛と同じ深い緑色の瞳。

 これまた緑のカチューシャリボンが良く似合っていた。

 年の頃は私と同じくらいかな。

 彼女の手はカサついていて、よく見るとその身体もどことなく薄汚れていた。


「ここはあなたの宿屋さんなの?」

「うん。今はほとんど開店休業状態だけど……まずは中に入って。助けてくれたお礼もしたいし」


 お言葉に甘え、中に入れてもらう。

 数組分のテーブルとイス。

 食堂を兼ねていると思われるロビーが、がらんと広がっていた。

 外と同じようにちょっと薄暗い雰囲気だ。

 あまり繁盛しているわけではないのかな。

 失礼だけど。

 奥にはキッチンがあるっぽいな、とか眺めていたら、ロールちゃんがお茶を持ってきてくれた。


「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね」

「ありがとう……はぁ、おいしい」

『あちゃちゃちゃちゃっ!』


 ネッちゃんはさっそく猫舌にやられていた。


「ねぇ、レベッカ。旅人って言ってたけど、こんな辺境に何しに来たの?」

「ああ、それはね。外れスキルのせいで実家を追放されて……」


 例の一件を話す。

 ロールちゃんは途中から涙が止まらなくなってしまった。


「まさか……そんな辛い過去が……」

『レベッカは苦労人ニャんよ。僕も涙なしには聞けなかったニャ』


 過去というには最近過ぎるような気もするけど、まぁこれくらいは誤差か。

 お茶を啜ったところで、ぐ~とロールちゃんのお腹が鳴った。


「あっ、ごめんなさい」

「ロールちゃん、お腹空いてるの? そういえば、他に誰もいないようだけど……」

「う、うん。いつからか、この辺りは毒魔物だらけになっちゃって……普通の食材は少し離れた街に行かないと買えないの。キノコとか野草も毒ばっかだし」


 ご両親は森の中へ探索に行って、もう数か月ほど帰って来ていないということも聞いた。

 魔物は近くのダンジョンに集まっているようで、今は冒険者の素泊まりで日銭を稼いでいるらしい。


「一人で宿屋なんて大変だったね。でも、女の子一人じゃ心配でしょう。変な人とか来たら」

「大丈夫。そういう人はナイフを振り回したら逃げてくから」

「そ、そうなんだ……」


 思いの外、ロールちゃんはたくましかった。


「レベッカも貴族なのに食堂やってたってすごいね」

「別に大したことじゃないよ。……そうだ、このクッキーも無毒化した毒食材から作ったの」


 持ってきたおやつを出す。

 細かく切った<ポイズンハーブ>を混ぜて焼いたお菓子。

 名付けて“ポイクッキー”

 紫色のハート型。


「へぇ、これが」

「毒消ししてあるから食べても大丈夫。お腹空いてるなら食べる?」

「あ、いや……」


 スッと差し出したけど、ロールちゃんは硬い表情で断った。


「ごめん、ちょっと押しつけがましかったね」

「ち、違うの。一人で暮らすようになってから、すっかり警戒心が強くなっちゃって」


 ロールちゃんは顔の前で手をパパパ! と振りながら否定する。

 

「たしか、そりゃそうか」

「でもお腹は空いているわけでして、遠慮なくいただきましょう…………あああー!」

「『えぇ!?』」


 “ポイクッキー”をかじった瞬間、ロールちゃんは踊り出してしまった。


「この吹き抜ける清涼感……まるで夏の風だわ。太陽の熱い日差しに疲れた身体を癒してくれるの。口の中に草原が広がっているみたい!」

「そ、そんなに喜んでくれて良かったわ」

『語彙力豊富ニャぁ……』


 舞踏会のワンシーンみたいな踊りを披露した後、ロールちゃんは私の手を力強く掴んだ。


「ねえ、レベッカ! ここでカフェ開いたら!?」

「カ、カフェぇ?」


 ロールちゃんは衝撃の一言を放つ。


「毒食材からこんな美味しい料理が作れる人なんて初めて見た。わたしも泊まってくれる人に料理を提供したいなって思ってたところなの。毒食材なら調達も困らないよ」

『それは名案ニャね。レベッカの経験が存分に活かせるニャよ』


 二人の言うことには一理あるけど、新しい場所はやっぱり不安になる。


「う~ん、それはそうかもだけど……上手くできるかな」 

「もちろん、タダでここに住んでくれていいよ」

「よし、やりましょうか」


 迷いは一瞬で消え去った。


「掃除とかは後にして、名前だけでも先に決めとこうよ」

「何がいいかな」

『レベッカを連想させるような名前がいいニャね』


 私を連想なんて恐れ多いけど、と考えていたらピーン! と閃いた。


「“カフェ・アンチドート”!」

「『…………いい(ニャ)!』」


 生きていくため、私は最果ての地にてカフェをやっていくことを決意した。

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