第15話:“暴れん坊サーモンとビリビリエビの川鮮丼、サワーガニの素揚げ付き”
「いらっしゃいませ! お好きな席にお座りください!」
『は~い。カフェがあって助かりました』
エルフの御一行は、ぞろぞろぞろと中に入ってくる。
ず、ずいぶんと大人数ですね。
なんと全部で15人。
一族で旅でもされているのだろうか。
ここ最近で一番多いお客さんだ。
しかも全部エルフ。
ロールちゃんやネッちゃん、さすがのキャンデさんも面食らっていた。
とりあえず、ロールちゃんと一緒にお水やお手拭きを運ぶ。
皆さん美しいのだけど、不思議なことに……。
顔が一緒だ。
もしかして、姉妹とか親子なのかな?
まぁ、失礼だから聞かないけどね。
「どのようなお料理がご所望でしょうか? キノコのスープや焼きリンゴ、オムライスなどありますが」
『看板で見たのですけど、ここは毒食材を使った料理なんですの?』
お店に入ってくるとき、先頭にいたエルフさんが話す。
そういえば、さっきからこの人しか話していない。
他の方々は黙ってお水を飲んでいる。
「ええ、このカフェでは無毒化して安全な毒食材を使用しています。今日は魚やエビ、カニなどを仕入れできました」
『素晴らしいですわっ! わたくしたちはゲテモノが食べたくて各地を旅していたのです』
「ゲテモノ……」
こんなキレイな方からゲテモノなんて単語を聞くとは。
いやはや、人生とは不思議だ。
『毒食材はまさしくピッタリですわね。食べ応えのあるお料理がいいです』
「でしたら、“暴れん坊サーモンとビリビリエビの川鮮丼、サワーガニの素揚げ付き” などはいかがでしょうか」
『それでお願いします。皆さんもよろしいですか?』
エルフの方々は目をつぶったままうなずく。
なかなかに緊張感が高まる動作だ。
「では、さっそくご用意します」
キッチンに帰還。
ロールちゃんたち一同はというと、すでに待機していた。
キャンデさんも厨房の隅っこにいる。
「お帰り、レベッカ。どうだった? 怪しい?」
「別に普通のエルフさんたちだよ。やけに静かだけど」
「あんなに静かなのはやっぱり怪しいね。レベッカに様子を探ってもらって良かった」
「ロールちゃん、私をダシにしないでよ。……いや、別にうまいことを言おうとしわけじゃないんだけど」
「……あひゃひゃひゃっ。レベッカのダシ……うますぎるっ……!」
キャンデさんはツボに入ったらしく、一人で爆笑していた。
「ネッちゃんも一緒に応対してくれていいんだからね」
『あ、いや、ネッちゃんはいいのニャ……』
こう見えて、ネッちゃんは結構怖がりなのだ。
何はともあれ、料理を作りましょうか。
始める前に、もう一度チラッとエルフさんたちを見る。
相変わらず静かだ。
リーダーさん(さっき話した人。勝手にそう呼んでいる)も、何も話さず黙っていた。
いや、さっきより表情が硬くて暗い。
ロールちゃんは険しい顔で呟いた。
「きっと、隠し金庫のありかを探っているんだ……」
「違うと思うよ」
事情はわからないけど、私にできるのはおいしい料理を作ることだけ。
おいしいご飯で少しでも気持ちが明るくなってほしい。
そのためには、冷静な調理が必要だ。
そう、冷静な調子が。
目の前には懐かしい食材たち。
深呼吸して昂るテンションを抑えましょう。
よし……冷静にいけぇ、レベッカぁ!
「まずは<迷い米>を炊きますよぉ! 普通のお米より短時間で炊き上がるっ!」
「今回も始まりましたね」
「いつも通りだな」
『これがないとレベッカじゃないニャ』
<迷い米>をザックザクと洗いまくる。
洗えば洗うほど炊き上がる時間が短くなるのだ。
お鍋で炊くぞ。
炊き上がるまでは何もしない。
「今回の料理は鮮度が命ぃ! 先に<サワーガニ>を素揚げしろぉ! 水分が多いから油が跳ねるぞ、要注意!」
「すごい熱量です。レベッカの熱で揚がっちゃいそうな」
「レベッカの熱で素揚げっ……! あひゃひゃひゃっ」
『この人、笑いの底が浅すぎるニャね』
<サワーガニ>はよく洗った後、そのまま油にポチャン。
この食材は、元々身体に水分がたくさん含まれている。
油が結構跳ねるけど、しっかり対処すれば問題ない。
素揚げにすることでカリッとするし、余分な水分が抜けて味が濃くなる。
こいつの身はしょっぱくておいしいのだ。
ささっと油をきった後、みんなでちょっと味見。
『「う~ん、カリカリ食感最高 (ニャ)!」』
うましっ。
まさしくデリシャスフード。
小さいくせにやるじゃないか。
しばらく油を落とすことにして、<迷い米>の状態をチェック……いい感じだ。
ふっくらでツヤツヤ。
もう少しで炊き上がるかな。
そろそろメインディッシュの調理に移ってよいだろう。
「<暴れん坊サーモン>んんん! 君の出番が来たぁ!」
「見ているだけで楽しくなってくるのはどうして……?」
「奇遇だな。私もだ……」
『なんだか騒ぎたくなってきたニャね……』
本日のメインディッシュ、<暴れん坊サーモン>。
今の時期は身も卵もおいしさが詰まっている。
さっと下処理をすまし、お腹をかっさばく。
真っ赤な卵がたくさん出てきた。
「まるでルビーのような煌めきぃ! 粒々は口の中で弾けるぞぉ! 食べ食べ食べ食べ食べてみてぇ!」
「『パチパチパチパチ弾ける(ニャ)!』」
宝石みたいだけど、ロールちゃんは別にはわはわしてなかった。
やっぱり、金銭的価値がないとダメらしい。
「<暴れん坊サーモン>の身はスライスぅ! 引き締まった身をご賞味あれぇ!」
ピンク色の身をナイフで分厚くカット。
元々大きい魚だし、キャンデさんがたくさん釣ってきてくれた。
豪快にいきましょう。
さすがは旬の魚。
切り込みを入れた瞬間、脂が滲み出てくる。
しかも、ただの脂ではない。
旨みがぎっしり詰まった脂だ。
みんなで味見。
「『はぁ~……とろけちゃうっ(ニャ)!』」
噛めば噛むほどおいしさがあふれでる。
旬の物は旬の時期に食べるに限るね。
特に、ネッちゃんは大変気に入ったようで、2、3枚追加で食べていた。
「おい、ネッ! そんなに食べたら私の分が無くなるだろうが。お前は本当にネコだな」
「だから、ネッちゃんはネコじゃないのニャ! 猫妖精ニャ!」
「ネコだろうが」
激しく論争する二人は置いといて、最後の食材を調理する。
そう、<ビリビリエビ>。
毒消ししても、なお腐りやすい。
ゆえに、本当に新鮮じゃないと生で食べられないのだ。
「<ビリビリエビ>も生で食べようぅ! こいつは相当な珍味だぞぉ!」
パリっと皮を剥いて、ピッと背綿を取る。
ぷりん! と白い身が出てきた。
例のごとく、みんなで味見。
「『ジュジュジュ、ジューシー!』」
口の中にまんべんなく広がる甘みと旨み。
この食材はデリケートで、火を通すとおいしさが半減してしまう。
まぁ、それでもおいしいんだけどね。
<迷い米>もふっくら炊けたので、<暴れん坊サーモン>と<ビリビリエビ>を乗せる。
赤、白、ピンクの美しい配色。
すんばらしい。
では……。
「ロールちゃん、運ぶの手伝ってくれる?」
「え? あ、うん……もちろん……」
テンションが下がったロールちゃんと一緒に料理を運ぶ。
エルフの皆さんは、絵画のように黙ってお待ちになられていた。
ロールちゃんは料理を運ぶと、すぐに壁際へ戻ってしまう。
「お待たせしました。“暴れん坊サーモンとビリビリエビの川鮮丼、サワーガニの素揚げ付き”でございます」
料理をテーブルに置く。
リーダーさん以外は、片目を開けて眺めていた…………緊張するぞ。
『ず、ずいぶんと賑やかなお店なんですね。少々びっくりしてしまいましたわ』
「あ……すみません」
なぜかリーダーさんは冷や汗をかいていた。
さっきからなんか様子が変だ。
いったいどうして……。
しばし考えると、一つの可能性が浮上した。
も、もしかして、偉い人の御一行?
それで、リーダーさんが接待を命じられたとか。
だとするとまずい。
あんなに騒いだら接待失敗じゃん。
ああもう、またやらかした。
ロールちゃん一同は壁際で静かにしてるし。
『それでは気を取り直して……いただきま~す』
エルフの皆さんは揃って、あ~んとご飯を口に運ぶ。
騒いだ過去は変えられない。
どうかお口に合ってくれ!
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